Lesson14 『顔見知りは積極的に味方に引き込め。』
国境のグリーンタウンを川下方向に歩いて行くと港町ブルータウンがある。
徒歩だと7日、馬車では2日の距離。
その間には川に沿って8つの村落があり、俺達はその全てからモンスターの駆除依頼を受けていた。
村によって懐具合や切実度合が異なっており、同じモンスターでも掛かっている賞金額に差異があった。
俺達が到着したのは、『開墾新田村』。
近年になって最新農業技術で開拓された村である。
この村が人面キノコの駆除に一番の高額を提示してくれた。
1匹討伐する毎に銀貨10枚。
悪くはないと思う。
『じゃあ、皆さん。
ちょっくら試してみますか?』
「「「応ッ!!」」」
俺が連れて来たのは果樹園造成の職人達。
戦闘経験はないが、職業柄斜面を歩き慣れているし、即興で山道を敷設する能力も持っている。
本人達は自覚していないようだが、俺は内心彼らほど山岳戦に向いた連中は居ないと踏んでいる。
「じゃあ、ウォーカー君。
リコちゃんに教わった通りやってみようか?」
『ええ、帝国の方ではロープに引っ掛けて山から落としてるらしいですが…』
「本当にそんな上手く行くのかねえ?
仮に帝国で上手く行ってたとしても、王国とじゃ地質も違うしねえ。」
『はい、同感です。
禿山なら通用するかもですが…
こんなに木が茂った山で…
本当に出来るんでしょうか?』
俺達は半信半疑で首を傾げながら長いロープを伸ばしながら山頂に登る。
そして首を傾げながら人面キノコの身体に縄を引っ掛けようとした時だ、「キキッ」という気持ちの悪い悲鳴を挙げて一匹の人面キノコが飛び上がってから斜面をずり落ちる。
「ウォーカー君!!
確かこのまま縄を動かし続けるんだったよな!?」
『はい、続けましょう!!』
俺達が縄を引っ掛けようと人面キノコの頭上に張ろうとすると、例の悲鳴を挙げて他の個体も転がり落ちた。
麓に待機していた班が慌てて落ちて痙攣している個体に駆け寄って棍棒で滅多打ちにして殺す。
「これ!
ひょとして縄を鳥と誤認して驚いてるんじゃないか?」
『ですねえ。
クラーク女史も天敵は肉食の鳥類だと仰ってました。』
俺達は角度や高度を調整しながらロープ作業を繰り返す。
やはりだ。
人面キノコ達は頭上でロープ(厳密にはロープの影)が揺れる事を異常に嫌う。
鳥に襲撃される恐怖が刻み込まれているのだろうか?
いずれにせよ、開墾新田村が指定して来た山の人面キノコは一掃された。
「おお!
これ全部君達がやったの!?」
『ええ、仲間が山で最終チェックを…
ん? 合図だ。
OKです。
現時点で人面キノコは全て駆除しました。』
「おおお!!!
すげえ!!
まだ作業初日だよ!!
おお…
流石冒険者を名乗るだけの事はある。」
その後、村長立ち合いの元、山の様子と人面キノコの死骸をチェック。
無事に契約完了の握手を交わした。
『えっと、これは追加サービスなのですが。』
「ん?
サービス?
何か貰えるの?」
『いえ、人面キノコの詳細情報を調べておきました。』
「おお!!」
『このモンスターの正体はマッシュルームです。
それが悪質な寄生虫に寄生されて人面キノコになるとのこと。
共和国のアカデミーが30年ほど前に突き止めたらしいです。』
「えー、そうなんだー。
一応国交があるんだから、そういう大切な事はちゃんと教えて欲しいよな。」
『ははは、いつか彼らとも情報交換会をしたいですね。
本題に戻りますね。
寄生されたマッシュルームはそのまま肥大し続けて、50センチを越えた辺りで歩行を始めます。』
「マジかー!?
そんな仕組みの生き物だったの!?」
『なので対策としては、不自然に肥大したマッシュルームは見つけ次第処分して下さい。
その段階なら引き抜くだけで自然死するとのことです。』
「おおおお!!!!
そんな事、考えた事もなかったよ!!」
村長は飛び上がって感心し、依頼料を満額支払ってくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【依頼完了】
『依頼主』
開墾新田村
『依頼内容』
人面キノコ討伐
『依頼結果』
人面キノコ44匹の討伐に成功。
『収益』
44匹×銀貨10枚 =銀貨440枚
村の裏山の浄化完了 =銀貨500枚
情報料 =銀貨060枚
銀貨1000枚を獲得。
討伐パーティー10名で分配し、1人銀貨100枚を分配。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
開墾新田村がたまたま果樹植林を検討していた上に、モンスターの駆除に成功したので俺達は大いに歓迎された。
村の公会堂に招かれ晩飯をご馳走になる。
久しぶりにコメを腹一杯貪り気分が良い。
更にはブルータウンから戻って来たジェフとポーター社長も合流し、笑顔でハイタッチ。
「テッド。
手前の村でスライム溜池を浄化して来たぜ。」
『おお!
流石はジェフ!!』
「いや、あれは失敗だな。
スライムを殺害するまでに使う塩の量が膨大過ぎたんだ。
今回は実験も兼ねてたから採算を無視して塩を投入してみたが…」
『うん。』
「村の溜池あったじゃん。
あのサイズなら銀貨100枚分の塩が必要になってくる。
だから塩での駆除という観点では、そもそも採算の取れない価格で請け負ってしまっていた。」
『え!?
じゃあ100枚分の塩を買ったってこと?』
「いや、網元が寄贈してくれた。」
『おお!
ジェフは気に入られてるなあ。』
「厳密に言えばオマエが気に入られてるんだけどな。
まあ、いずれにせよフカヒレ製造にもGOサインを出してくれたし助かったぜ。」
『なあ。
何で網元はそんなに協力してくれてるの?』
「そりゃあ、オマエの働きぶりを見てたからだよ。」
『?』
「肉体労働の従事者は概ねそうだと思うんだけどさ。
動ける奴しか信用しないんだよ。
ベテランになるほどそうだな。
まずは肉体労働をさせてみて、その様子で男としての器才を量るんだと。」
『俺、網を巻くくらいしかしてないぜ?』
「ばーか、俺達が何百年網を巻いて来たと思ってるんだ。
手つきを見りゃあ、そいつの性根は大体分かるよ。
俺ですら分かる。
だから俺の倍以上生きている網元はもっとわかる。
オマエは信用出来る男だってな。」
『…うん、ありがと。
素直に受け止めておく。』
2人で河原に寝転んで星空を眺めながら近況報告。
ジェフはスライム駆除の詳細を、俺は人面キノコ駆除の詳細を。
それぞれに思い出せるだけ思い出して共有する。
お互いに手法・経費・必要人数を概ね把握出来たのは大きい。
『俺、ちょっと驚いたんだけどさ。』
「うん。」
『世の中ってしんどい仕事ばかりだと思ってたけど…
探せば簡単な仕事もあるんだな。
いや、人によってそれが簡単と感じる仕事はいっぱいある。』
「どうしてそう思ったんだ?」
『俺、果樹職人達を連れて来たじゃない。』
「うん。」
『彼らは日頃から勾配のある果樹園での作業に従事してるから、山道の上り下りがそんなに苦にならないんだ。』
「そうだな。
さっき少し一緒に呑んだんだけど、アイツらの脹脛とか筋肉でガチガチだもんな。」
『逆にさぁ。
山作業の経験の無い奴に、今日の人面キノコ退治は出来ないと思う。
メンバーの足を引っ張っちゃうからね。』
「色々な仕事を並行して請けた事でオマエの相場観が磨かれたってことだな?」
『うん。
今までの人生、俺はあまりにも仕事を探すのを怠っていたのかも知れない。
日給銀貨5枚なんてアホな仕事を請け負ってるうちは駄目だな。』
「こらー。
また俺の悪口を言ってるだろー!」
結構遠い場所からポーターに怒鳴られる。
あのオッサン、無駄にガタイと聴力が凄いよな。
『ポーター社長に分け前を支払う相談をしてたんでーすww』
「何枚だー!!」
『銀貨ごまーいww』
「もう一声!!」
『あははは。』
酒瓶を持ったポーターがやって来たので、港町まで運行した感想を尋ねる。
「カネにならなかったー。」
『お駄賃払ったじゃないっすかー。』
「オマエ、計算してトントンの額を払っただろ!」
『ばれたかーw』
「このやろーww」
『痛い痛いww』
俺も人の事は言えないがガキっぽいオッサンである。
「…でも楽しかったよ。」
『?』
「いつもグリーンタウンの中をグルグル走ってるだけだし。
ってか商会と官庁街を往復してるだけだしな。
景色が変わるのは純粋に楽しい。」
『それは良かったです。
めでたしめでたし。』
「待てィ!
勝手に話を締めくくるな!
これで儲かればもっと楽しい!」
ポーターがゴネるので、次の営業回りで運搬の仕事が取れないかを約束する。
「うむ。
いい案件を取ってくれよ。
オマエも知っての通りチカラには自信がある!」
『ああ、でもポーター社長の案件は普通に取れると思います。』
「え?
マジ?」
『これから俺、アチコチ旅を続けるんです。
通り掛かった村で請けれる仕事を探す予定なので。
何かあるでしょ。』
「…そりゃあ、全部の村を回ったら仕事は取れなくはないだろうけどさ。」
『ん?
何か問題でも?』
「どこの村も商会の馬車に発注してるぞ?」
『あ、そうなんすね。』
「俺、独立するまでは商会で働いてたんだよ。
だからアイツらのルーチンは全部知ってるんだけど。
普通にグリーンタウンとブルータウンの間を荷馬車が往復しているし、事前に予約していれば停車して積み込みもしてたぞ?
まあ割高ではあったがな。」
『へー。』
「だから、ここらを流しても大したカネにならないぞ?」
『でも一緒に行きましょうよ。』
「おいおい、採算取れないって。」
『でも、こっちの方が楽しいって思ったから来てくれたんでしょ?』
「…。」
『…。』
「まあな。
街中でチョコチョコ走り回ってるよりも、街道を走ってる方が楽しいわ。」
『ポーター社長の儲けもちゃんと考えて動きますから。』
「ん。
分かった。
期待しとく。」
『じゃ、これ分け前。』
「え? 銀貨?」
『ごじゅーまい。』
「ばか、5枚って言ったろ。」
『今日ねぇ。
100枚儲けたんですよ。』
「マジ?」
『マジです。
だから、もう2度とタンスなんか運んでやんねーww』
「バカヤローw
俺が困るじゃねーかw」
『でもポーターさんにしたって、元請けの商会からそんなに貰ってる訳じゃないんでしょ?』
「生かさず殺さずってトコだな。」
『ポーターさんがタンス運びを止めたら、商会はさぞかし困りますよ。』
「ははは、ソイツはいい気味だ。」
ネガティブな動機で一通り笑い合ってから、ポーターは俺により深くコミットしてくれると申し出た。
この男は英雄でもなければ賢者でもなく人品らしきものは未だに垣間見えないが、気心が知れているので傍に居てくれるのなら助かる。
Lesson14 『顔見知りは積極的に味方に引き込め。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨270枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ (未検証)
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
猪
山椒
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
最後までお読みいただきありがとうございました。
このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。




