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Lesson13 『美徳は積極的に模倣せよ。』

ジェフとポーター社長を見送ってから、やる事も無いので辻募集を見に行く。

残念ながら荷運びの募集が終わっていたので、清掃仕事に応募する。

ポールソンという富裕層住宅専門の清掃屋だった。



「はい、皆さん。

本日もこの屋敷の清掃を行って頂きます。

スポット雇いの皆さんには庭園の清掃をお願いします。」



代表らしき男がテキパキと指示を出すので、それに従う。



「すみませーん。

力仕事に自信のある方はおられませんか?

急にクライアントが庭石を移動させるように追加注文して来て…

庭石作業に参加して下さった方には、追加報酬として銀貨20枚を支払います。」



『あ、俺は経験者です。

庭石も何度か動かした事があります。』



「おお!

是非お願いしますよ。」



その日は汗まみれになって庭石と格闘する事となった。

銀貨20枚の追加は破格だが、割に合っていたのかは不明。

まあ差し入れにジュースが出る職場だったので悪い気はしない。



「やあ、ウォーカーさん。

今日の殊勲賞ですよ。

お疲れ様でした。」



『これこれは専務。

お気遣い感謝します。』



仕事が一段落したのか、随分とリラックスした様子で俺の隣に腰掛けて来た。



『専務。

一つ質問なのですが。』



「はい?」



『差し入れのジュース。

結構高級品でしょう?

どうして俺達なんかに、そんなに親切にしてくれるんですか?』



「えっと、タテマエで答えればいいですか?

それともホンネ?」



『じゃあ、まずはタテマエから。』



「皆さんは大切な仲間ですから。

少しでも快適に働いて欲しいのです。」



『それではホンネは?』



「皆さんは大切な仲間ですから。

少しでも快適に働いて欲しいのです。」



『…。』



「…。」



『今日、この仕事を請け負えて良かったです。

もしも人手が足りない時は気軽に声を掛けて下さい。』



残念ながらポールソン清掃会社は、この案件の為に来訪した海外業者。

この仕事が終われば帰国しなければならないらしい。

彼の祖国では清掃は極端に蔑まれる被差別職らしく、人材確保に常に悩んでいるとのこと。

あのソフトな人遣いは、専務の気質に加えてその労働事情に起因するのかも知れない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



午後15時。

宿に戻って水浴び。

酒場に顔を出してみるが、まだ開店準備中だったので帰ろうとする。



「おーい、ウォーカー君。

入りなさい。」



『え?

まだ開店準備中でしょ?』



「俺と君の仲だろうがww」



マスターに肩を抱かれて店に引っ張り込まれる。

強引な男だが、人付き合いに奥手な俺にとっては逆にありがたい。



「おーう、今日は仕事終わったんだろ。

奢るから好きなの吞んでけよ。」



『え?

いや、この後人と会いますので…

じゃあ薄い酒で。』



「何だ?

ひょっとして女かぁ?」



マスターが茶化したように笑う。



『仕事ですよ。

まあ相手は女性ですけど。』



「はっはっは。

オマエも隅には置けんなーww」



『からかわないで下さいよ。』



笑ながらマスターはレモン水で割ったエールを俺に滑らす。



「まあ、男はどっちも熱心くらいで丁度いい。

特にオマエは頑張ってるみたいで感心だ、冒険者。」



『恐縮です。』



「それでな。

物は相談なんだが…」



『あ、はい。』



「ウチの客が駆除仕事を頼める相手を探している。」



『ああ、なるほど。

そういう事でしたか。』



「小さな果樹園を経営している社長さんだ。

このレモン水の製造元のレイモンド飲料社だな。」



『へー。

酒場じゃよく見掛けますね。』



「最近、夜職界隈で流行ってるんだよ。

国外にも知られ始めてて、国外輸出も考えてるそうだ。」



『おお、大企業じゃないっすか。』



「うん。

大きくはないが、この街の優良企業ってとこだな。

で事業拡大の為に果樹園用の山を買った。」



『…。』



「ところが、その山が人面キノコの巣窟だったって訳だ。

要は掴まされたって事だな。」



『ああ、土地売買あるあるですね。』



「連れて来た作業員達にボイコットされて途方に暮れているんだ。

《モンスターが居るなんて聞いてない》ってな。」



『そりゃ、果樹園造成に応募したのにモンスター絡みだったなんて。

後から知ったら怒られても仕方ないでしょうね。』



「そうなんだよ。

作業員達に言わせれば、騙されるくらいなら日雇い仕事の方がマシなんだってさ。」



…ああ、それで最近労働者が増えていたのか。

労使あるあるだよなあ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺がエールをチビチビやっていると、レイモンド社長がやって来る。

見たところ70前後くらいか。



「社長ー。

噂の冒険者様が来てますよー。」



「おお!

キミが噂のウォーカー君かね!」



『ども。

早めに噂が収まる事を願ってます。』



「ははは!

店主から聞いていた以上の変り者だなww」



マスターめ、余計な評判を立てやがって。



『…以後自戒します。』



「ははは!!

若い頃はそれくらいが丁度いんだよ!

いやあ、気骨があって素晴らしい。」



『…恐縮です。』



「…それで、会ったばかりでお願いをするのは恐縮なのだが。」



『人面キノコの件ですね。』



「ふふふ、御明察。

流石だね。


単刀直入に言おう。

人面キノコを何とかして欲しい。

折角買った山が使えないのは本当に辛いんだよ。

立地が最高なだけに、尚更惜しい。」



聞けば街道沿いの山。

このグリーンタウンからも徒歩で2時間、馬車なら30分の好立地。

何としても、ここにレモンを植えて麓に製造工場を建設したいとのこと。



『ああ、確かにあの辺に工場を作れたら儲かりそうですよね。

馬車を横付けして、そのまま出荷出来ますもの。』



「うむ。

弊社・レイモンド飲料社のブランドもようやく育ってきてな。

千載一遇のチャンスを逃したくない。


だが、作業員共め。

臆病風に吹かれおって。

駆除を命じたら全員が逃げ出してしまった。」



『なるほど。』



「ウォーカー君は駆除の達人と聞いているぞ。

君から作業員共に喝を入れてやってくれんか?」



社長の気持ちも分からないでもないんだけど、どうせ無茶振りしたんだろうな。



『社長。

作業員達が人面キノコを倒したら1匹当たり幾らの報奨金が出るんですか?』



「え?」



社長は文字通り目を丸くする。

恐らくこの人は特別手当なんて考えた事すらない。



「あ、いや。

彼らは弊社の従業員なんだから、業務命令には従うべきだろう。」



『でも、彼らは果樹園造成の名目で集められたんですよね?』



「あ、うん。

まあ、そうだけどさ。

でもさ!

でもだよ?

仕事なんて色々なトラブルが発生するものなんだからさ、契約外の作業でも臨機応変に対応してくれなきゃ困るよ!」



…ああ、俺も何度もこういう雇用主に泣かされて来た。

そりゃあね、給料払ってる側からすれば労働者が臨機応変してくれるに越した事はないよ。

でもさあ、現場の俺達からしたら堪ったものじゃないんだよ。

仕事がどんどん増やされて、いつの間にか事前に聞かされてなかった危険作業にすり替わってて…

給料も上がらないし…

同僚が怪我したり、運が悪い奴は死んじゃったり…



「ウォーカー君。

人面キノコ、何とかならんかね?」



『俺、駆除は成功報酬でしか請けてないんですよ。』



「え!?

じゃあ失敗したら払わなくていいってこと!?」



『はい。

俺は報酬とは成果に対して支払われるものだと考えてますから。』



「おおおお!!!

キミ、素晴らしい逸材だ!!!

労働者共に見習わせてやりたいよ!!」



『で、社長。

初対面で恐縮なのですが、人面キノコ1匹倒したら報酬は幾らになりますか?

後、敷地内からの完全駆除に成功した場合の報酬額も設定して下さい。』



「え?

いや、いきなり言われても困るよ。

せめて目安を教えてくれなきゃ。」



『目安ですか?

クライアントの名前は伏せますが、1匹駆除するごとに銀貨10枚を支払って下さる方はおられます。

私は相棒と共に13匹を駆除、銀貨130枚を受領しました。』



「え? 10枚?

いやあ、それだと100匹駆除されちゃったら銀貨1000枚払わなくちゃならないよね?」



『まあ、はい。

そうなりますね。』



「うーーーーん。

銀貨1枚…

いや! 2匹倒して銀貨1枚でどうだろう!?

駄目かな?

怒ってる?」



『いえ、値付けは依頼者様の自由だと思いますので。

別に俺が怒る筋合いではないです。』



「そ、そう?

悪いね。

いや、こっちも色々物入りなんだよ。

じゃ、そういうことで。

2匹で銀貨1枚で頼んだよ!

作業員達にも良いように言っておいて!

私に悪気はないからね!」



そう言ってレイモンド社長は足早に立ち去って行く。

雰囲気を見るに、悪意なく人件費をケチるタイプの雇用者なのだろう。

この手の人種は嫌というほど見て来たので何の感慨もない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



図書館に向かう最中、ドヤ街に向かう一団を見かけたので声を掛けてみる。



『どもですー。』



「ああ、朝の人。

ゴメンね、君の街の仕事を取っちゃって。

あの後、どうだった?」



『清掃仕事を請けました。

庭石。』



「マジ!?

庭石キツいでしょー。」



『キツかったすねえ。

背中ビキビキしてますもん。』



「分かるww」



ある程度打ち解けてから、酒場で依頼を請けた件を打ち明ける。



『すみません。

話の順序が逆なっちゃって。』



「いやいや、君は頼まれただけでしょ。

そんなに気を遣わなくていいって。」



『やっぱり怒ってます?』



「いや、まあ、怒るって言うか…

労働者あるあるだからねえ。

でも、モンスター退治なんて無理だよ。

俺達、戦闘経験なんてないし。

大体さぁ、果樹園造成とモンスター退治って全然危険度が違うじゃん。

それを同じ賃金でやらせようという性根が駄目だわ。」



『ねえ皆さん。』



「んー?」



『一緒に人面キノコ退治しません?』



「おいおい。

今、無理って言ったばかりだろ。」



『俺、1匹で銀貨10枚払う村と話を付けてるんです。』



「え、マジ!?」



『マジマジ。

しかもね?

今、向かってるのがモンスター退治のノウハウを知ってる人なんですよ。』



「え?

猟師さんのコネがあるの?」



『いや、猟師さんはまだなんですけど。

あ、居た!


おーい!

クラークさーん!!』



「何だ女の子じゃないかww」



『でも、あの人。

王都の大学を卒業してるんですよ。』



「え、マジ!?

凄い!!!」



そんな遣り取りをしながらクラーク女史と果樹職人達を紹介し合う。



『この御婦人に駆除方法の調査を依頼してるんです。』



「うそおお!!

図書館に調査って、ウォーカー君ってひょっとしてインテリなのぉ!?」



『いえいえ、俺は見ての通りですよ。』



「ああ、読み書きは出来ないのか。」



『俺って皆さんにどう映ってるんですかww』



「ははははww」



クラーク女史は俺達の遣り取りを一通り見守ってから、改めて挨拶。



「リコ・クラークと申します。

この王立グリーンタウン図書館で司書を務めております。」



「あー、どもども。

王都出身の女の子は垢ぬけてるよねー。

オジサン緊張しちゃうよ。

で、何?

モンスターの倒し方を調べてくれてるの?」



「ええ、こちらのウォーカー氏から1件銀貨10枚で請け負っておりますの。」



『え?』



「ひょええええ!!!

1件調べるだけで銀貨10枚!?」



『いや、違…』



「申し訳ありません。

10枚と決まっておりますので。」



「いやいや、お姉さんを批判してる訳じゃあないんだ。

ほら、俺達って無学な貧乏人だから。」



クラーク女史は果樹職人達と一通り笑い合ってから俺に向き直る。



「ではテッドさん。

心苦しいですが、約束の調査料を頂戴出来ますか?

【スライム】【サンドシャーク】【猪】【山椒】の4件で銀貨40枚になります。」



『え?

で、でも1件10枚というのは…』



「おいおい、ウォーカー君。

まさか、こんな可憐な女の子への謝礼を渋る訳じゃないよな?」



『え?

いや、そういう意味では…』



俺の中では1件銀貨100枚の計算だったのだが、果樹職人達の目線に負けて銀貨10枚で妥協してしまう。

やれやれ、世の中は上手く行かないものだな。



「テッドさん、いつもご利用ありがとうございます。

こちらが約束の資料です。」



『あ、どうも。

こちらこそ、ありがとうございます。』



「その人面キノコ狩りは明日の朝出発でしたか?」



『はい。

朝に皆で集合して、ぼちぼち歩いて行こうかなって話になったんです。

川沿いの新田開墾村。』



「では、いつものご愛顧のサービスとして明朝までに人面キノコの駆除方法を調査しておきますね。

私から言い出したことですので、御代は不要です。」



『え、悪いですよ。』



「じゃ、じゃあさウォーカー君!

後払いで払えばいいじゃん!!

人面キノコは一匹銀貨10枚なんだろ?

頑張って余分に一匹倒そうぜ!!

だってこんなに可憐なお嬢さんにタダ働きなんてさせられないよ。

そうだろ?」



『あ、はい。』



クラーク女史はクスクス笑いながら図書館に戻って行った。

明朝、彼女の出勤時間より、やや早めにここに集合。

レクチャーを受けてから出発することになった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



明朝。

俺が集合時刻丁度に着いた時には、既にクラーク女史と果樹職人達が談笑していた。



「へえ、流石は王都の大学を出たお嬢さんだ。

一晩でそんな事まで調べちゃうんだねえ。」



「ええ、皆さんは果樹を扱っておられるとの事ですから。

合衆国式のロープを用いた駆除方法が無難でしょう。」



「うん。

まあ、遠くから縄を投げて引っ掛けるくらいなら…

普段の仕事の延長だから、出来なくもないか。」



「御武運を。」



「へへへ、若い女の子に応援されると妙に勇ましい気分になるな。」



昨日までの不満顔はどこへやら。

果樹職人達は満面の笑みでクラーク女史に手を振った。

ああ、なんだか分かって来た。

男って女の子の前じゃいくらでも勇敢になれちゃう生き物なんだ。

俺も男だから思い当たるフシがある。

じゃあさあ、モンスター退治の窓口はケチ社長なんかより若くて上品な女の子に任せるべきなんだろうな。



「いや、ウォーカー君だって俺達の士気を上げてるんだよ?」



『そうなんすか?』



「だって仕事前にジュース奢って貰えるなんて初めてだもん。

何でここまでしてくれるんだよ?」



『皆さんは大切な仲間ですから。

少しでも快適に働いて欲しいのです。』



「…へへへ、悪い気はしねえ。

それにしても、これ結構旨いな。」



『きっとレイモンド社じゃない方のジュースだからですよ。』



皆で爆笑しながら川べりを歩く。

ポールソン専務とレイモンド社長。

お国柄の違いもあるのだろうが、同じ経営者クラスでも労働者への配慮が雲泥の差であった。

当然、優れた方から学び、劣った方を見て自戒するべきなのだ。


それに、皆が笑ってる方が俺も気分がいいしな。

河原で拾った棒きれを振り回しながら全員で放歌高吟。

小雨が何度か振ったにも関わらず、楽しい旅路になった。




Lesson13 『美徳は積極的に模倣せよ。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


冒険者



【資産】


銀貨220枚



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ (未検証)



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒



【仲間】


ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


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