Lesson12 『懐の痛まない恩は惜しまず売れ。』
俺はキャンプ暮らしでも構わないのだが、ジェフに対して宿屋に1週間泊まる約束をしてしまったので、グリーンタウンへの滞在を続ける事にした。
ブラブラしていても勿体ないので、辻に出て荷運びの仕事を探す事にする。
『あれ?
何でだろう?
今日は労働者が多いなぁ。』
いつもは不人気の荷運び仕事。
どういう訳か、各親方の前に列が出来ている。
誰も並んでないのは、低賃金でコキ使う事で有名な零細運送屋くらいのものである。
ちなみにコイツに一言言ってやる為に俺は【冒険者】という職業をでっち上げた。
「おーう、ウォーカー君。
やっとるかねぇ。」
『ども、ご無沙汰してます。
ポーター社長。
相変わらず人手不足ですか?』
「そうなんだよー。
不思議と俺の仕事だけ誰も応募してくれないんだ。
こう見えて途方に暮れてるんだぜ?」
『えっと、それじゃあ他の会社と同水準の賃金を払えばいいだけなのでは?』
「駄目駄目!
大手さんの相場に合わせてたら俺が破産しちゃうよ。
全くの個人で荷を引いてるのは俺くらいのモンだよー。」
『へー。』
「いやぁ、本当に辛いわ。
今日中に配達が終わらないと、次の契約貰えないのに…
このポーターなる男、いつもヘラヘラしているので分かりにくいのだが、聞けば相当追い詰められてるっぽい。
『うわー。
タンス配達ですか。
しかも5本。』
「うん、今日中に搬入・設置しなきゃなんだよ。
ちな2階×3軒と3階×2軒。」
『日当は?』
「ぎ、銀貨5枚…」
『余程の物好きでもなきゃ手伝ってくれないですよ。』
「だよなー。」
荷運び仕事は慣れている俺にとってすら辛い。
余程の適性が無いと未経験者には地獄だろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『じゃ、俺はこれで。』
「おい!」
『はい?』
「何で助けてくれた?」
『いや、頼まれたから。』
「物好きにも程があるだろ!
大体、今はカネには困ってないんだろ!?」
『え?
そんなの分かるものなんですか?』
「たりめーだ!
今まで何千人の労働者を買い叩いて来たと思ってるんだ!
顔つきを見りゃあ嫌でもそいつの懐具合は分かる!」
『嫌な特技ですねー。』
「うるせえ!
何で助けた!
本当は俺を嫌いな癖によ!」
『いやー、何故と言われても…
お願いされたからとしか…
どのみち夕方まで時間を潰す予定でしたし。』
「もう、その夕方だよ!」
『ですよね。
待たせてしまっているかも知れない。
ここからでは街の反対側か…
どうしよう。』
「乗れ!」
『え?』
「北門の方に行けばいいんだな?
目的地を言え!」
どうやらポーター社長なりの残業手当のつもりらしかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『申し訳ありません、クラークさん。
時間に遅れてしまいました。』
クラーク女史は薄汚い荷馬車を一瞥してから俺に向き直る。
「ウォーカーさんには驚かされてばかりです。」
『怒っていますか?』
「いえ、夢が叶いました。」
『?』
「サンドシャークとスライムの詳細データです。」
『おお!』
「どこかで読み合わせ出来ると良いのですが…」
『あそこのベンチはどうですか?
ランプが真上にありますし。』
「いえ、モンスター駆除の話題は…
やや政治性を帯びてしまうので、人目のあるところでは…」
確かにそうである。
モンスター駆除は本来は王国の義務。
その為に俺達は高い税金を払わされているのだ。
こんな人目の多い場所で騎士でもない俺が駆除の相談をしていれば…
政治批判と受け取られ兼ねない。
「おう、ご両人。
送迎サービスだ!」
ポーターが馬車の扉を開ける。
普段は荷物や労働者が詰め込まれているが、今日のタンスは全て納品済。
『いいんですか?』
「フクリコーセーって奴だ!
その代わり、他の労働者達に言っておけよー!
俺が良い雇い主だって事をな!」
臭いはするが、背に腹は代えられないのでクラーク女史の手を引いて荷台に乗せる。
(まあ、臭いにしたって俺の汗臭も含まれているのだろうが。)
『申し訳ありません。
こんな汚い荷台で。』
「汚くて悪かったなー!」
「いえ、夢が叶いました。」
『?』
「では、早速報告しますね。」
『ええ、ありがとうございます!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【冒険者用モンスターデータ】
『スライム』
水陸両生の半液体状生物。
雑食で小動物や昆虫を好む。
その生態から頻繁に肥溜めや井戸を占拠する害悪モンスター。
特に養魚産業にとっては天敵である。
弱点は塩。
体内塩分濃度が一定値を越えると液体と固体に分離して生命活動を停止する。
また山岳地帯では虫の死骸を入れた壺でおびき寄せて閉じ込める捕獲方法も盛ん。
『サンドシャーク』
陸鮫科サンドシャーク目。
元々小型だったが、7カ国戦争の際、帝国・合衆国が共和国・首長国間の通商海路を破壊する目的で品種改良して巨大化した。
その鋭利な牙と並んで砂地での消音性が恐れられている。
元々海鮮料理が盛んだった帝国・首長国において、そのヒレが珍重され様々な宮廷料理に用いられる。
但し近年は乱獲が進みヒレ価格が高騰の一途を辿っており、保護が声高に叫ばれている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『おお!
サンドシャークのヒレ!
そんなものを帝国人が食べるのですか?
それも貴族が!?』
「ええ、私も驚きましたが帝国や首長国宮廷には酒肴に多種の珍味を揃える風習がありますので。
恐らくはその一環かと。」
『ふむ。
確かに鮫のヒレなんて珍しいですものね。
そもそも食べようという発想が湧きませんでした。』
「こちらの資料がヒレを保存用に加工する方法です。
帝国人は【フカヒレ】と呼称しているようです。」
『ふか、ひれ?
帝国語だけあって珍妙な語感ですね。』
「出典は世界料理辞典。
著者は王国人ですが、母親が亡命帝国人なので記述内容には信憑性はあります。
素人仕事で恐縮ですが、スケッチも添えておきました。」
『いやぁ、何から何まで。
では、報酬です。
忘れないうちにお支払いしなくては。』
俺は用意しておいた銀貨袋をクラーク女史の手に乗せた。
「?
ま、待って下さい!
金額を間違えてませんか?」
『え?
いや、王都の方では銀貨100枚が相場と伺いましたので…』
前回クラークに聞いたのだ。
王都では司書に写本させる為のチップ相場が銀貨100枚であると。
今日は2件分だから200枚の支払い。
「それは王侯貴族様の話です!」
『え?え?え?
ゴメン、何かまた怒らせるような事をしちゃった?』
「非礼を承知で申し上げますが、ウォーカーさんはそこまで裕福に見えません!
ご無理をなさっているのではありませんか?
銀貨200枚なんて、普通に稼ごうと思ったらどれほど大変か。
そんなに良いご給金を貰っておられる訳ではないんですよね?」
『朝から夕までコキ使われて銀貨5枚。』
「俺を悪者みたいに言うなよー。」
「ご、5枚!?」
クラーク女史がポーターを睨み付ける。
うん、冷静に考えれば妥当な反応だよな。
『あ、あの。』
宥めようとした俺を振り払ってクラーク女史はまたもや走り去ってしまった。
俺が怒らせ過ぎるのか、彼女が駆け出し過ぎるのか…
いやあ、永遠の謎ですなぁ。
「おい色男。」
『はい?』
「追わなくていいのか?」
『あの人真面目ですし明日も出勤してるでしょう。』
クラーク女史が去ってしまったので、仕方なくポーター社長を誘って宿の併設食堂で晩飯を食う。
「おーい、人を代用品扱いするんじゃねーよ。」
『どうせ暇でしょ。
飯くらい付き合って下さいよ。』
「奢りか?」
『残念でしたーw
賃金安いから奢る余裕ないでーすw』
「そういう仕返しやめろよーww」
『「あっはっはww」』
2人で揚げナスを肴に吞んでいるとジェフが戻って来たので、互いを紹介して3人で呑むことになった。
「折角、2人きりにしてやったんだ。
少しは親密になれたんだろうな?」
『あ、うん。
ワリの良い配達仕事があったら教え合う事にした。』
「いやいや、オッサンの話じゃねーよ。」
「フィッシャー君、地味に口が悪いね。」
「リコちゃんとは進展したのか?」
『ああ、そっちの。
…ゴメン、今日も怒らせちゃった。』
「うん、じゃあ脈があるわ。」
『え?』
「安心した。
きっと上手く行くよ。」
『え?え?え?』
「そんな事よりサンドシャークの情報はどうだ?」
『うん、資料見せるね。
あ、でも、まだおカネ受け取って貰ってないけど…
資料を活用していいのかな?』
「オマエ本当に律儀だなー。
後で俺から追加料金払っとくよ。」
『いつもゴメンな。』
「お互い様だよ。」
そんな会話を交わしながらクラーク女史から受け取ったサンドシャークの資料を3人で眺める。
勿論、3人共文盲なので挿絵を眺めてるだけだ。
「へー。
フカヒレ?」
『帝国の方じゃご馳走らしい。』
「うーーん。」
『どう?
漁師視点での感想は?』
「いや、リコちゃんは真面目な子だし…
疑う訳じゃないんだけど…
鮫のヒレだろ?」
『図鑑には帝国の皇帝も食べるって書いてあったんだってさ。』
「うーーーーん。
いや、疑ってる訳じゃないんだけど。」
『熱湯で茹でて皮を剥いてから2ヶ月干すらしいよ。』
「うーーーーーーーーん。
え? そんなモンを帝国皇帝が喰うの?
いやー、どうだろ。
帝国宮廷って言ったら贅の限りを尽くすって聞くぜ?
何でも黄金の皿や黄金の盃で食事するって噂だ。
そんな絶対権力者が…
鮫のヒレ?」
『やっぱり信じられない?』
「いや、リコちゃんを疑ってる訳じゃないんだぜ。
あの子は誠実な良い子だ。
ただ、本が間違ってる可能性もあるからな。」
そりゃあそうだろう。
俺もクラーク女史も首を捻りながら資料を読み合わせてたのだから。
皇帝程の権力者なら毎日ステーキだって食べれる筈なんだ。
なのに鮫のヒレって、幾らなんでもなあ…
「分かった!
俺も男だ!」
『え?』
「早速地元に帰って網元に頼んでみる。」
『マジ? 作るの?』
「一応、俺の干し台使用権は残ってるし、そこでヒレを干してみるよ。」
『えー、そんなに気を遣わなくていいよ。』
「ま、物は試しさ。
どのみち、サンドシャークの使い道を見つけなきゃ、浜の荒らされ損だからな。
売れなかったら皆で笑い話にしようぜ、」
元々が果断な男である。
翌朝にはブルータウンに帰る事を決めてしまう。
曰く、これくらいの思い切りがなくちゃ漁師町じゃ通用しないとのこと。
『じゃ、ジェフもポーター社長もおやすみー。』
「「おう、おやすみー。」」
別れ際にスライムが塩に弱い話をしたら、ジェフに笑いながら怒られる。
「そういう大事な事は先に言えww
地元に塩なんて腐るほどあるわww」
そんなノリでスライム関連の依頼もついでに引き受ける事となった。
『ポーター社長。』
「んー?」
『ジェフを送ってやってくれませんか?』
「日当は?」
『銀貨5まーいww』
「誰だよ、そんな糞賃金始めた馬鹿はww」
『「あっはっはwww」』
そんな訳でポーターも冒険者稼業に混ぜてやることにした。
何で引き入れたかって?
どうせ誰かに頼む仕事なら知り合いに振るべきだからだ。
Lesson12 『懐の痛まない恩は惜しまず売れ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨239枚
(うち200枚は支払い用に別保管。)
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
【生産可能品目】
山椒粉
フカヒレ (未検証)
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
スライム
サンドシャーク
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
キース・ポーター (運送業)
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨251枚
(うち200枚は支払い用に別保管。)
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
【生産可能品目】
山椒粉
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
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