Lesson9 『親愛は必ず言葉に起こせ。』
ブルータウンに顔見知りの漁師が居る。
…いや、仲間だな。
相手がどう思っているかは知らないが、俺は彼を勝手にそう認識している。
「よお、久し振り。」
『仕事中にゴメンね。』
「いいよ、もう終わりだ。」
漁師に恐縮されたが、後片付けを手伝う。
網を巻くくらいなら俺にだって出来るからな。
『あれからサンドシャークはどう?』
「駄目だなー。
すっかりこの浜に味を占めちまったらしい。
毎週の様に乱入してくるよ。
岬の向こうの村じゃ、とうとう子供が足を食われちまった。」
『騎士団に駆除は依頼出来ないの?』
「前と同じだよ。
アイツら、俺達がモンスターをやっとの思いで退治し終わってから何食わぬ顔でやって来るんだ。
でも、領主への報告書には自分達の手柄って吹聴してやがるみたいなんだ。」
漁師は唇を噛んで砂浜を拳で叩いた。
「おまけにサンドシャークはマズくて食えないしさ…。
刺身や煮込みを試してみたんだが…
臭くて食えない。」
『勿体ないな。
あんなにデカいのに。』
「うん。
せめてアレが食べれれば良かったんだが…
最近になってやって来たモンスターだからな。
退治や料理をしたくても誰もやり方を知らないんだ。」
『…あのさぁ。』
「ん?」
俺はポートフォリオからホーンラビットの資料を取り出して、ミゲル村での顛末を語る。
「マジかよ、オマエすげぇな!
じゃ、じゃあさ、サンドシャークも、その図鑑ってのに書いてるのか?」
『うん。
それらしき挿絵が描いているページを見た。
確かにあれはサンドシャークだった。』
「じゃあさ!」
笑顔で何かを言いかけてミゲルは黙り込んでしまった。
「ゴメン、忘れてくれ。
銀貨100枚は払えない。
みんな生活ギリギリだからさ…」
『うん、だから提案なんだけどさ。』
俺は山椒粉を取り出した。
「え?
これ、山椒?
高級品じゃん!」
『これをカネに換える事は出来るか?』
「え?
売るの?
いや、どうだろ…
俺、商売なんてやった事ないし。」
『それも出所が俺だという事は内緒にして欲しいんだ。』
「やっぱり見つかるとマズい話なのか?」
『商会やらの利権層を刺激したくないんだよ。』
「だよな、アイツらを敵に回したら幾ら命があっても…」
『今はまだ刺激しない。』
「…。」
『…。』
「売るよ。
売ってカネにする。」
『ありがとう。
この辺、土地勘ないからさ。
引き受けてくれて助かる。』
「…。」
『…。』
「1個謎なんだけどさ。」
『ん?』
「そんな大事な仕事、どうして俺なんかに任せてくれるんだ?」
『俺にとっては本当に大事だから、仲間以外にこんな話は出来ない。』
「…。」
『…。』
「任せろ。」
『うん、任せる。』
それから1週間ほどブルータウンの周辺で日雇い仕事をして時を待った。
漁業関係の仕事はどれが初体験で大変だったが新鮮だった。
特に干物台を砂浜に並べる仕事は本当にキツかったが、これを乗り越えたことで漁港の若者達と打ち解けられた気がした。
幸運にもサンドシャークには遭わずに済んだが、巨大ヤドカリが何度か浜を荒らしに来たので皆で駆除した。
俺も棍棒を振るって2匹だけ殺した。
駆除があった日は、皆で砂浜に篝火を掲げて浜鍋を楽しんだ。
濃い味噌を溶いた鍋の中に蛸や鯛の切り身を放り込んで強い酒で流し込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「確かめてくれ。
銀貨200枚だ。」
『山椒の代金?
まさか?』
「いや、俺も驚いている。」
『こんなにすぐに販路を確保出来るなんて思わなかった。』
「近所にさ。
若い頃に行商をやってた爺さんが居るんだ。
俺の親父と友達同士だった人だ。
信用出来るタイプじゃあないから、少しずつ時間を掛けて探りを入れて…
売らせてみた。」
『おお!』
「爺さんはトボけているが、ワル仲間に売店オーナーが居るみたいでさ。
ソイツに流したみたいなんだ。
売店オーナーは商会から仕入れた山椒粉をすり替えてるっぽい。
確信は持てないけど、多分すり替えをしている。」
売店オーナーの手口はこうだ。
商会と俺の山椒粉を混ぜてかさまし。
何食わぬ顔で定価を変えずに販売。
「多分、爺さんは銀貨300枚以上で山椒を売り捌いたな。
俺の前じゃとぼけていたが、次の仕事を欲してそうな雰囲気だった。
ほら、とっとけ。
失くさないようにな。」
『じゃあ、半分こな。
100枚返すよ。』
「いやいやいや。
俺は何もしてないから。
ただ近所にズルの名人が居たから話を振っただけだよ。」
『だって俺はその人と面識ないもん。
販路を作ってくれたんだから、その手柄には対価が支払われなきゃ。』
「待ってくれよ。
その山椒にだって仕入れ価格があるだろう。
ちゃんと採算取れてるのか?」
『言わなかった?
自分で作ったんだよ。』
「え!?マジ?
包装とか本格的だぞ?」
『印刷工の日雇い仕事をした時に工場長に売って貰った。』
「お、おう。
オマエすげえな。」
『手間は掛かるけど、山椒粉はまだ作れると思う。
原価は殆ど掛かってない。
だから受け取って欲しい。』
「…分かった。
折半は貰い過ぎだと思うけど…
俺も生活が苦しいからな。
うん、これで網元への借金が返せる。
…ようやく自由だ。」
俺と猟師は銀貨を山分けにすると拳を合わせて互いの労をねぎらった。
「なあ。
オマエにも儲けさせてやりたいよ。
何かグリーンタウンで売れる物ってないか?」
『え?
何だろう、魚介全般はボッタクリ価格だけど。』
「マジで?」
『烏賊の丸干しなんて銀貨3枚もするんだ。』
「まさか。
たかが烏賊がそんなにする筈ないよ。
だって、砂浜に上がって邪魔だから他の魚と一緒に干してるだけだぜ?」
『内陸の俺達は浜の事情まで分からないしなw
ちなみに山椒なんて森の奥にアホほど落ちてるw』
「えーーー!?
アレって農園とかで栽培するモンじゃないの?」
『…世界は広いよな。』
「…ああ、広いな。」
いや、きっと世界が広い訳じゃない。
俺達がまだ何も知らないだけなんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
港町の朝は早い。
目を覚ました俺が顔を洗い終わる頃には、すっかり街が動いていた。
「網元から余った烏賊干しを貰って来たよ。
ほら、テッドもリュックに詰めろ。」
『本当に売れるのかな?』
「それを確かめる為に行くんだろ?」
『うん、そうだな。』
「そんな事より、船用の防寒布をテント代わりに出来るのかが不安なんだけど…
まあ、今夜の野営で分かる事か。」
『1個謎なんだけどさ。』
「ん?」
『何で仕事辞めてまで俺なんかに着いて来てくれるの?』
「…仲間が行くと言ったからさ。」
この漁師、名はジェフリーという。
たまたま旅先で出会った男だ。
飛び抜けて勇敢な訳でも優秀な訳でも無い普通の男だ。
でも共に働き、共に泣き、共に笑った。
友達になるより先に仲間になった。
生まれて初めて俺が得た仲間だった。
Lesson9 『親愛は必ず言葉に起こせ。』
【名前】
テッド・ウォーカー
【職業】
冒険者
【資産】
銀貨131枚
【所持品】
折り畳み釣り竿
簡易テント
大型リュック
万能ナイフ
ポートフォリオ
【生産可能品目】
山椒粉
【ポートフォリオ】
ホーンラビット
【仲間】
ジェフリー・フィッシャー (漁師)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あとがき)
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