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下水堕ちした追放聖女ですが、気づいたら狂信者たちに囲まれていました  作者: 高坂あおい


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第4話 聖女、奇跡を授けます

 奇跡は必ず起きる。


 

 人ならば、一度は必ず思ったことがあるでしょう。


 何らおかしいことではないわ。


 その奇跡とやらを人々にもたらすのは、神様のお仕事。


 そして、私たちのような神様に仕える者たちが、それを支える。


 とても簡単な話よ。



 今、私のことを一心不乱に見つめている街の人たちも例外ではなく、奇跡を信じて祈っている。


 彼らに奇跡を届けるのが、私に託された仕事。


 だから、私も神様にお祈りしたの。



 どうか……どうか、今回ばかりは立派な聖水が出てきますように!



 …………って。



 その強い思いが届いたのか、届いていないのか――。



「――黒い……あまりにも黒すぎる……」



 私の魔力を犠牲に生み出された聖水は、夕陽に照らされて透き通る……わけもなく。


 黒く濁り切った、若干粘り気のある液体。

 


 両手を天に向けて広げている私は、その姿勢のまま微動だにすることができなかった。



 恥ずかしい! というか臭すぎ!


 もう穴があったら入りたい……穴が無いなら、掘ってでも入りたい。


 ここの土は硬すぎて掘ることができないけど……。


 いや、そんなことはどうでもいいのよ!



 鼻栓を詰め忘れてしまったせいで、腐り聖水の匂いがダイレクトに鼻腔を暴力的に蹂躙してくる。


 例えるならそうね……数年放置された側溝の底をひっくり返したかのような匂いだわ。



 それなのに、これ以上ないほどの静寂に包まれている広場。


 誰もが絶句し、土に吸い込まれていく黒色の液体を見つめていた。


 

 ……もしかして、私このまま殺される?


 数秒後に四方八方から串刺しにされても、おかしくはないわよね?


 どうしましょう……逃げる? でも、どうやって?



 そういうことか! 私がここに来た時点で、私の死は確定していたというの⁉


 奴らが私を囲うように立っていたのは、私を逃がさないようにするため!


 私は私をおびき寄せた私を囲う、これから私の命を狙ってくるであろう私の私私私私私私私私私私私私私わたし私私わたし私わたしわたしわたし――。



「――おいみんな! つ、土が! 土が溶けるように柔らかくなっていってるぞ!」


「本当だ! もう何年も固まり切っていたあの土が!」


「転んだら頭が割れると有名なあの土が!」


「これまで何本ものスコップを葬り去っていったあの土が!」


「見ろよ! 指が沈む! まるでつきたての餅のように柔らかくなっているぞ!」



 ……………………ん?


 

 私の口から顔を覗かせかけていた魂が、スゥッと引っ込んでいく。


 観衆と化した村人たちの言葉の中には、一つとして悪口やら批判が含まれていなかった。


 どころか、喜びの声や称賛の声すら聞こえてくる始末。


 

 ありえない。


 私の予想では、今頃竹槍にでも刺されて絶命しているのに。


 出て然るべき「臭い」という文句すら聞こえてこない。



「聖女様、あなたは本当に我々の救世主であります!」


「そんなこと言われても……なんで土が柔らかくなったのか、私にも分からないのよねぇ」 


「分からないですと⁉ そんなの、聖女様がこの大地にもたらした『奇跡の雫』のおかげに決まっているじゃないですか!」


「あ、もう決まっているんだ……」


「少なくとも、これで作物の栽培を再開することができます! いや、それだけではありません! この勢いのまま草木が生えるようになれば、生き物はさらに活性化し、かつてのような自然の姿を取り戻すことができるでしょう!」


「へーそうなんだ」



 村人の熱弁を聞きながら、私は鼻の中にグリグリと鼻栓をねじ込む。


 うーん……やっぱり入れるのが遅くなったせいで、鼻の奥に不快感は残っちゃうわよねぇ。


 んで、この悪臭をものともせずに、どんちゃん騒ぎをしているこいつらは何なの?


 もしかして、最初から鼻が詰まっているピーポーなのかしら?



「ピュアリス様!」


「な、何……?」


「この後、村をあげて祝祭を行いますので、それまでゆっくりとお休みください。聖女様専用の宿泊施設は、すでに用意しております」


「そうね。ちょっと疲れたし、休もうかしら。……ここ臭いし」


「はい? 最後何かおっしゃいましたか?」


「何も言ってないわよ。ほら、シャワーも浴びたいし、早く行きましょ」



 少し離れた場所では、熱狂している村人たちが暴れまわっている。


 これも早くこの場を離れたい理由の一つ。


 巻き込まれたらたまったもんじゃないわ――。



「――我らが聖女様!」


「…………げっ」



 私が一瞬目を離した隙に、すぐ背後にまで迫ってきていた。


 やっぱりこの村の人たち怖いんですけど!



「そ、それで何の用なの?」


「俺たち! マジで感動しすぎて、今から聖女様を胴上げするんで! 少しお時間をいただきますね!」


「私に選択肢は⁉ 拒否権は⁉」


「選択肢は『はい』か『YES』です!」


「拒否の選択肢!」



 拒否することを拒否された私は、気づけば身体を持ち上げられていた。


 周囲には、十数人……いや、数十人の人が集まっている。



「ねぇ、一回落ち着きましょ? このままだと私、法衣が捲りあがってパンツ見えちゃうからね?」


「大丈夫ですよ! ご先祖様に誓って!」


「神に誓いなさい!」


「ほら、行きますよー! せーのっ!」



 背中を強く押される感覚と共に、身体全体を包み込む浮遊感。


 脳みそが揺れ動く感覚。


 

 私は大勢の手によって受け止められ……。



「ちょっと誰よ⁉ 今聖なるお尻をがっしり掴んできたのは!」

 


 そして、再び大空へはばたかされた。



「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ! あんたら! 絶対に! 天罰を! 食らわしてやるんだからぁぁぁぁぁ!」

読んで頂きありがとうございます!

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やっぱり臭くて若干イラっと来た上での、嫌がらせの胴上げの可能性…
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