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下水堕ちした追放聖女ですが、気づいたら狂信者たちに囲まれていました  作者: 高坂あおい


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第2話 聖女、無事着地する

「いったあぁぁぁぁぁい! この! 私の! 聖なるお尻が! 真っ二つに割れた気がするんですけど!」



 予想通り、と言うにはあまりにも腹立たしいけれど、私は地上から僅かに浮いた位置へ転送された。


 そして、空中で体勢を崩した私は、無事お尻から着地したというわけ。


 私は鼻栓を抜いて、地面に叩きつけて叫ぶ。



「あんのクソデブ大司教……よりにもよって、こんなにかったい硬い地面の上に落としてくれるなんて……いつか絶対に呪ってやるんだから!」



 ……とまぁ、愚痴はこれぐらいにしておいてあげましょうか。


 あまり怒ってばかりだと、眉間にシワが寄ってしまって、せっかくの美しい顔が台無しになっちゃうわ。


 それに、いつまでもあいつのことを考えるのは、精神衛生上あまり良くないと思うの。



 私は湧き上がる怒りと、お尻の激痛を我慢しながら、立ち上がる。


 そして、土がついてしまった法衣のお尻部分をパンパンと払い、ふと後ろを振り向いた。



「……あら?」



 そこには、両膝を地面につき、縋るような目で私のことを見上げている男の人がいた。


 彼の服は所々が裂け、肌が露出している。


 その上、私の法衣とは比べ物にならないレベルで、顔からつま先にかけて泥が付着していた。


 

「……ぁ……ぁ……ぃ……ぁぁ」


「ちょっと、ボソボソ喋らないでよ。私だって無限に余裕があるわけじゃ――」


「――女神様……。私どもの祈りがついに届いたというのですか……?」



 何この人……私のことを神と勘違いしているのかしら?


 確かに、こんな何もないところに美しい私が、突然現れたら勘違いもするわよね。


 ふふふ……これはチャンスだわ


 

 私は流れるような表情操作で、顔面の筋肉を「慈愛100%」に固定した。



「いい? 迷える子羊よ。落ち着いて聞きなさい」


「は、はい……」


「私は女神様ではないわ。でもね、私はその女神様たちに仕える聖女なの」


「……聖女様?」


「ええ。女神たちの寵愛を一身に受け、天界の意志を伝える唯一無二の存在――人呼んで『至高の聖女』・ピュアリスよ」



 少し誇張しちゃったかもしれないけれど、私の出す聖水が臭くなる前は、こんな感じに言われていたはず。


 一方で、男は私の自己紹介を聞いて、発光しているんじゃないかって思っちゃうくらいに、目を輝かせている。


 私が言えた口じゃないけど、もう少し人の言葉を疑うことを覚えた方がいいと思うの。



「至高の女神様……!」


「女神様じゃなくて、聖女様ね」


「せ、聖女様……! その土にまみれてなお、深窓の百合のように気高く、清らかな花の香りを漂わせるそのお姿! 間違いありません! あなた様こそが救世主だ!」



 こいつ一言多いわね。


 「土にまみれて」とかいちいち言わなくてもいいのに。


 

 私は「チッ」という舌打ちを口の中だけにとどめ、土だらけの裾と長い金髪を翻して、男に背を向けた。


 もうこんなやつ無視して、どこかに行ってしまおうかしら。



 すると、正座していたはずの男が、這いつくばり、私の足首を掴もうとするような勢いで身を乗り出してくる。


 

「ピュアリス様! そんなあなたに頼み事があるのです!」


「いや、もう私行きたいんだけど――」


「我らの田畑を蘇らせてください!」


「あんた人の話をねぇ……あら?」



 まるで私の話を聞こうともしない男に、思わず顔が引きつるが、その時に私は気づいてしまった。


 

 ……ここの土地は荒廃しているわ。


 

 右にも左にも緑色が見えない。


 むしろこんなところに村というか、街があることの方が驚き。


 

 いや、少し考えてみましょうか。


 見るからに干からびているこの土地には水がない。


 つまり、私の出すアレも……いいえ、アレこそがここではダイヤモンドより価値があるってことじゃない⁉


  

 私は、今にも足首を掴もうとしている男を「埋蔵金が埋まっていると噂の山」を見るかのような、慈愛に満ちた目で見下ろした。


 

「……子羊よ。あなたの願い、よくわかりましたわ。この土地は潤いを欲しているのね?」


「は、はいぃぃっ! 聖女様の偉大なる力でこの土地にも救済を!」



 チョロい! チョロいわ! 


 まぁ、出すのは聖水でも純水でもなく、下水なんだけどね!



「それで? どこに田んぼや畑があるのかしら?」


「……どこってそりゃあ……今立ってるここですが…………」



 ここ……って、この干からびた土の上のことかしら?


 ……え、嘘でしょ?


 さっきから私の聖なるお尻を痛めつけているこのガチガチの地面が、田んぼだっていうの?


 鍬を入れた瞬間に火花が散りそうなレベルなんだけど、この村の農業はエクストリームスポーツか何かなのかしら。



 これらのすべての要素を加味した上で、私の口から飛び出てきた言葉は――。



「――はい?」

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