第1話 聖女、偽りでした
聖女と言えば、慈愛に満ち溢れた存在で、全ての人に安らぎと救いを与える存在。
そして、彼女が生み出す聖水は、甘い香りで、怪我を一瞬にして癒し、枯れた大地を潤す。
これは王国の人々にとっての共通認識であり、本人である私は、崇拝の対象であったはず……だった。
そう、これまでは……。
「――ピュアリス・エルヘドロよ。貴様は聖女の名を騙り、長らく我々王国民を欺いてきた。この罪はとても重い……わかるな?」
「いいえ、わかりません」
王国内でも有数の権力者である大司教・ゴスペルが、私の眼前にまで顔をズイと寄せてくる。
息は臭い上に、高級品ばかり食べてブクブクと膨らんだ腹を見せつけてくるのはやめて欲しい。
しかし、私は嫌な顔を見せることなく、聖女らしい清らかな微笑みで返答した。
それが余計に気に食わなかったのか。
ゴスペルは、私の前にある机を殴打した。
鈍い音が狭い部屋の中に響き渡る。
こうやって暴力に頼るのは、本当にどうかと思う。
「ふざけるな! ならば、貴様が聖水と呼んでいるそれを、今ここで出してみろ!」
おっと、こんなことを言われてしまったら、私に分が悪いどころの話ではない。
ただ、ここまで来て「はいごめんなさい」なんて簡単に引き下がるわけにもいかないのだ。
だから、私はポケットから鼻栓を二つ取り出して、自分の鼻に詰めながら、こう答える。
「ええ、喜んで。私がここで聖水を出して差し上げましょう」
「その鼻栓をこちらにも寄越せ……寄越しなさい……寄越してください」
真っ赤な顔を真っ青にしてこちらに頼みごとをしてくる姿。
……お可愛いこと。
その可愛さに免じて――。
「嫌ですよ。そもそも、二つしか持っていませんし」
「き、貴様……!」
もちろん嘘。
人の名前をまともに呼ぶことすらできない奴に、貴重な鼻栓を貸す義理なんてものは無い。
「それじゃあ、出しますよー?」
「おい待て――」
制止の言葉が聞こえてきた気もするが、私には関係のないこと。
手を前に突き出して、大司教の足元に「聖水」を生成した。
ジョボジョボジョボ……。
ちょいと出しすぎたかもしれない。
…………まぁいいか。
一方の大司祭は――。
「鼻が削ぎ落されるような感覚だ! こんなものが聖水な……うおぇ」
人様が出してあげた聖水の匂いで吐いてますやん。
なんて失礼な人だろうか。
あと、ドアも窓も開けて換気してるけど、外にいる無実の人にも影響が出るからやめて欲しいな。
「うっ……貴様なんぞ聖女ではない! 追放! 追放だ! どこへなりと勝手に消えてくれ!」
「そんなこと言われても、行く当てなんてないです」
「知らん! ランダムテレポートで、適当な場所に転送してやる!」
……はぁ⁉
「海の中とか、ゴブリンの巣の中に転送されたらどうするつもりですか⁉」
「それも知らん! 貴様の自業自得だ!」
本気であんな欠陥クソ魔法使うつもり⁉
上空から落ちて死ぬ確率の方が高い、って数カ月前に学会で発表されてたでしょ⁉
「さらばだ、偽りの聖女よ! せいぜい未開の土地で、もがき苦しむがよい!」
「ねぇ、大司教様! ちょっと待って――」
私が抗議の声をあげている最中に、視界は白く染まる。
――そして、聖女だったはずの私は王都から追放された。
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