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ミッション・ファイナル


 土曜の、深夜と早朝の半ば。


 首都の交通量は尚、それなりにある。


 助手席の天森は窓外に眼を向けたまま、一言も口を開こうとしない。



相澤 洋子(あいざわ ようこ)に要、邦光くにみつ警戒》


 邦、三つ分、つまり、デフコン1、準戦時の。


《但し、保護対象者保全を除き、可能な範囲で、非干渉》


 天森 創(あまもり はじめ)に危害が及ばない限り、泳がせろ、そして、観測せよ。


 道中に受命した、緊急指令。


 警報は受けた、しかし。


「できるだけ、自然な流れで、ソコは、ね、ごめんね、秀一クン」

 両手で拝むつぐみん。


 ようちゃん?! 洋子!! 。


 取りすがり狂乱する天森に何の反応も示さず、床に倒れたまま動かない相澤 洋子(あいざわ ようこ)、当然のように直後、闇は晴れテーブルやソファが四方に倒れ、乱れた室内に蹴破る勢いで開け放たれた扉から、数人の人影が雪崩込んで来た。


 一人は白衣、二人は救急隊のような作業服。


「安心せい嬢ちゃん、寝とるだけじゃよ」


 モクさんの、しかし見下ろす眼は冷たい。


「無事だ、落ち着け、天森」


 綾香あやかさんがそっとその背を抱き、引き離す。


「それにそいつは、お前が心配するような、相手じゃない」


 え。


 涙目で、痴呆ちほうのような、表情。


「初めまして、天森、はじめさん」


 さらに、巨漢の影が割って入る。


「霞が関分室の大河内 資正(おおこうち すけまさ)です、いいですか、今からお伝えする内容を、落ち着て、聞いて欲しい」


 はい。

 差し出された手を無意識に握り返しながら。


「貴方が在籍する東城大学附属高等学校、教室、2Bには、いえ、当該組織の如何なる学年、教室にも、相澤 洋子(あいざわ ようこ)という学生が存在した事実はありません、過去も、現時点でも」


 天森は、眼を見開き。


 絶叫した、長く、息が続く限り。


「どうだ、嬢ちゃん」


 大丈夫です、ええ、すみせん失礼しました。

 まだ息が荒いながら向けられた声、気丈に、老人に眼を向ける。


「満足したか、お前さんが探しとったものは、求めたものは、れたか、見つかったか、ん」


 言葉に顔をらし、やや眼を伏せ、だが、掲げ直したその顔は、決然と。


「はい、見せて頂きました」


 ふん、とモクさん。


「こんな《《職場》》じゃぞぉ」


 言い置き、片手を挙げそのままふらりと扉を過ぎる。



「着いたよ。」

「え」


 さすがに玄関横づけは避け、数軒余して軽を停めた。


「こんな時間に大丈夫? 御挨拶しようか」

「いえ、遅くなるかも、泊りかも、とは」


 中坊じゃなくて、もう高校ですし、それにウチ、けっこうその辺は、ゆるいんで。


「そう」


 扉に伸びた手が、止まる。


 ゆっくりと、その顔を向ける。


「櫻井、さん」

「なんだろう」


「遠慮、してませんか」


「うん、してる」


「女、だからですか」

「綾香さんも女性だよ」

「学生、だからですか」

「自分も、大学生なんだ」


 それじゃあ。


「危険だ」


 びくりと、その肩が、震えた。


「今日まで、そして、今、の当たりにしただろう」


 それでも、あー、なお、君がそれを望むというなら。

 求めて止まない、なら。


「もう、止める資格は、誰にもない」

 自身の人生の、決断を。


 すっと、その手が。


 もちろん、握り返す、強く。


「こんな、その、中途半端、ムリです」


 天森 創(あまもり はじめ)

 そうだろう、ああそうだろうとも。


「今、ここで諦めたら、逃げ出したら、絶対、一生、後悔します、その事の方が、私にとっては、よほど、ええ、よほど」


 危険な、事なんです。


「そうだろうね」

「両親は私が説得します、当局に御迷惑は御掛けしません、決して! 」

 素早く言い添える。


 ああ、そうだろうとも。


「だから! 宜しく! 宜しく御願いします。」


 狭い車内で頭を振る天森の、上げたその顔に、突き出した。


 グローブボックスから取り出した、クリアファイル。

 書面、一式。


「ようこそ、ウェン担 へ」


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