いんたーみっしょん 1-6
単車は公務員の身分証のような鈍色スーパーカブ、のガワ、やっぱ中身は魔改造別モン、のそれを上司駐車定位置に置いて、ようやく帰局。
既に夕刻だが7月の空はまだ明るい。
玄関を潜るとまじに味も素っ気もないウチの来訪者歓待、ヒザくらいの小机に骨董品のようなくすんだ灰色内線電話、それ以外は案内表示もなに一つない、当たり前だが受付は居ない。
その玄関をまたぎ越したくらいの間合いでケツにバイブ。
開くと短く一言「ウラ」とだけ。
発信は確認するまでもなくというかこのコム、綾香さん以外と話さないし! 。
まーだ激怒されてらっしゃるんだろーか。
もー2、3発シバキ直されるんだろーか。
そそくさちょっと小用だけ済ませおずおず体育館ウラ呼び出し、じゃない庁舎ウラ屋外ヤニ場へ。
屋内受動喫煙はともかく屋外で喫煙制限って魔女狩りそのものだよな、毒性で云ったら自家用車排ガスはどうなるよと。
でもま、そういう世論が醸成された以上、官なら真っ先に従わざるおえんよね、てわけでウチのヤニ場もウラ手更に奥まったスペースに押し込まれて人目から遠ざけられている。
そこに、ベンチにちょこんと腰を落とす、綾香さんの背格好、常装の、化粧気のないリクルートスーツみたいな艶消しブラックのパンツスーツ姿をした謎の美女が憂いの横顔を晒していた。
あ、やば。
本日二度目のヤバ目。
解けてる、幻像解けちゃってますよ綾香様。
「遅れました」
わざと声を掛け正面に歩み出るともたげたその顔は、いつもの個性派女優に置き換わっていた、良かった。
「ああ、きたか」
言い置いて、そのままどこか魂が抜けた様子で電モクを咥えていらっしゃる。
あれ、激怒どこいった。
そのまま無言直立不動待機のまま数瞬。
上げて下げてそのままだった顔をまた上げて、ああ、と。
「居たのか、櫻井」
「はい居ました」
おかしい。
そしてラチがあかない。
仕方なくこちらから切り出そうとしたら、また、ああ、と声を上げ。
「そうだな、あたしが呼び付けたんだった」
まるで新しい公理を発見したかのような何か新鮮な口調で仰せになり。
「今の出動、不手際は不手際、なんだが……」
がりがりと頭をかき、また顔を上げ。
「気にするな、だが覚えておけ」
??? 。
「下手を打ったのはお前だがそもそもがあたしの指揮、判断での躓きだ、本来であれば現場ツーマンセル、欲を言えば支援込みで2部隊、後方支援にこれも正副、最小でも4人で動くべき案件を非番のお前を叩き起こした挙句過重業務を負わせての体たらくだ、単独行動で保護と同時に交渉、どれだけの手練れが遺漏なく任務できるというのか、だから、あれはあたしの責任だ、確かにお前のミスだがなるべくして起きた、そこは、誤解するな、しないでくれ、全く、無能な上司は部下に苦労の掛け通しだ、ほんとうだ、お前はその能力経験で期待以上の成果を出し続けている、ああ、今日はもう退勤しろ明日は終日そのまま有給消化明後日定刻出勤のこと、こっちで届はしておく、以上だ、何かあるか」
ええと、ええと。
ああ、そう。
「彼女、持ってるんですね」
ん、ああ、そうだなと綾香さんはまたやや上の空。
「どころか、逸材の部類だろうな、未指導ぶっつけであの一撃を凌いでみせた」
あ、やっぱり。
「ああそうだ、覚えておけ、というのはそれだ、結局全部足りてない中ないなりにあたしとお前で廻すしかないのが現状だ、そして、今回は僥倖だった、しかし、次は無いかもしれない、さっきも言ったように責任はあたしが取れるし必ず取る、でも、そんなもの無意味かもしれない、そうならない様に、今日の事は気にはせず引きずりもせず、だが、忘れるな、判るか」




