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世界は手加減してくれない。

作者: ほんの未来

 さぁ、ゲームを始めようぜ!

 リバーシってゲームを知ってる?

 それとも、オセロっていう方が慣れてるかな?

 黒と白で分かれて、盤上の石を自分の色に染め上げる、例のアレ。


 攻略法は色々あるんだけど、一番簡単なのは盤面の(かど)を取ること。

 そこなら、絶対に取り返されることはないからね!


 4つある角のうち、3つ以上、できれば4つ押さえちゃえば負けることなんてそうそうないでしょ!


 なんて思ってた時期が私にもありました。


   †


「え、ナニコレ。角がそもそもないんだけど!?」

『そりゃ、神様のオセロだからね』


 目の前には、白黒が2個ずつ、交差するように置かれている。

 それだけ見れば、普通のオセロ。


 しかし、周囲を見渡せば、盤面はめっちゃ広い。

 地平線の遙か先まで、ずっと、ずうっと無数の網目が広がっている。


「え、これ1辺何マスあるの? 1万? それとも1億とか?」

『ははは、馬鹿言っちゃいけないよ。神が特定の数字をえこひいきなんてするはずがないだろう? 大きさは無限大に決まってるじゃないか!』

(ハチ)×(ハチ)ならぬ、(無限)×(無限)って? 相変わらず今日も世界は狂ってるわー」

『いや、そんな褒めるなよー』


 あ、これ何言っても無駄なやつだ。メンタルが神ってる。流石神(さすかみ)かな?


「え、で、どうすんのこれ? 決着つかなくね?」

『ほう? なかなか言うじゃないか』


 私の決着がつかない発言に、神様(?)が食いついた。


 普通のオセロの勝利条件はなんだったか?


 ――お互いにもう置ける場所がなくなった時点で、自分の色の石の方が多いこと。


 決して盤面が埋め尽くされることのない、神様オセロ。

 置ける場所がないということは、石が全て一色に染まることにほぼ等しい。

 ひょっとしたら危うい均衡状態とともに、お互いの石が残りつつ置ける場所がない場合もあるのかもしれないが……無視できるほど稀だ。そもそも、盤面の(はじ)がないこのルールだと、起こりえないんじゃないか?


 要するに私は、たとえ神様が相手でも、コマの全取りなんてされるはずがない、と宣言したのだ。いくら最善手を打たれたところで、そこまでボロ負けはしないだろと。


 そんな私をどう見たのか、神様が尋ねてきた。


『先手と後手、どっちがいい?』

「……。先手で」


 少し悩んだが、私は先手を選んだ。

 普通のルールであれば、オセロは少しだけ後手(白)有利と言われている。

 偶数理論が使えるから後手有利?

 角を取るために、角の隣には置きたくない? でもお互いそれやってたら、置かざるを得なくなるのは先手だ。だから先手不利?

 実際に統計取ってみた、人工知能に何万局と打たせてみた、小さい盤面なら後手必勝と解析されている、などなど。

 理由付けは色々あるにせよ、盤面サイズ無制限ならその辺の理由は全部当てにならない。

 普通にこれ、先手有利なんじゃないの? と思ったわけだ。


 私は時間を忘れて、神様オセロに熱中した。


 全知全能って半端なくてさ。

 もちろん、終始押されっぱなしだったんだけど。

 ぶつかりあって、抗って、振り回されて、逃げ回って。

 神の一手一手に、意図を想像しながら。

 真似たり学んだり、挑んだりしながら。


 上手くいったと思うのなんて、つかの間のことだ。

 上手くいかない方がよほど多くて当たり前だ。

 それでも残酷なほどゲームは続く。投了だけはしなかった。


 そんな小さな意地だけで、どうにかなるほど甘くない。

 神様相手も楽じゃないね。

 どっかの魔王みたいに勝ち逃げしてくれれば、地団駄だって踏めたのに。

 最初から最後まで、真っ向勝負でさ。


 ぶつかったのは自分だ。

 抗ったのは自分だ。

 振り回されたのは自分だ。

 逃げ回ったのは自分だ。


 調子に乗ったり心折れたのだって自分だ。


 前言撤回、有言不実行。全部自分の至らなさだ。


 どれだけの間、打ち続けたろう。

 あるいは人類史ぐらいの気もしたし、たった半生ほどだったかもしれない。


 ――たったひとつの(じぶん)が、膨大な(せかい)に押し潰されている。


 次の一手を私が打てば、返す刀で全取りされて終わり。

 どの選択肢を選んでも、未来はもう変えられない。

 私の負けだ。もうどうにもならなかった。どうにもできなかったんだ。


「……ま、」


 まけました、か。まいりました、か。

 絞るような一言に詰まったのは、背筋を伸ばす虚勢も力尽きたからか。


 そんな私に、神様は柏手(かしわで)ひとつ。

 粋美なる一音に、私の言の葉はただむなしく散っていった。


『前哨戦は終わったな。それでは、本番を始めるとしようか』


 前哨戦? 本番? いや、どう見ても続けられるわけがない。


『ここから(わたし)は何もしない。手番が来たら全てパスをしよう』

「は?」

『ただし、条件は追加するぞ? ここからは、時間を忘れることを許さない』

「地の文まで平然と読んできますか……」

『全知全能だぞ?』

「さいですね。人生終了(タイムアップ)で決着、自分の色が多ければ勝ち、おーけー?」

『その理解で問題ない』

「はぁ……ああもう、一体どれだけ白地(せかい)が広がってるんだか……?」

『……』


 神は沈黙した。

 白が何個あるのか、ぽろっと漏らしてくれないかなーとか思ったんだけどね。

 ダメかー。


 私は立ち上がり、大きく伸びをして、深呼吸。

 少しだけ視線が高い。足は盤面から3センチほど浮いている。

 されど、ふわついた感じはなく、むしろガラスのような硬質な感触が足裏に伝わる。

 でも、しゃがんで手指で触れれば、ちゃんとコマを撫でることだってできる。

 何この超技術――とか思ったり思わなかったり。

 蹴つまずかずに済むのはありがたいっちゃありがたい。


 広がる白地の果てに立つ。

 1歩踏み出す。1歩は何マス分?

 19マス? ちょっと計算しにくい、歩幅を調整。1歩20マスでこんなもん。さよか。

 大股歩きで、世界一周? なあんて、ね。


 歪に広がった世界地図、ああもうどれだけ逃げ回ってたんだ?

 計算しにくいじゃないか過去の私。

 概算と、検算と、最後は勘。


「80億を超えるぐらいかな?」


 その数の多さに、眩暈(めまい)がしそうだ。

 何だっけ? 人間が天寿を全うする間に脈打つ鼓動が40億ぐらいだろ?

 ガチで数えてたらそれだけで人生終わっちまうわ。


「――ああ、まるで、世界の総人口みたいだね」


 そう評した私に、神様がどんな表情を浮かべたのかは判らない。


 下手を打てば、白黒模様はこじれ、半分もひっくり返せないだろう。

 じっと悩んでいたら、ここで動かなければ、返す間もなくタイムアップ。

 それでおしまい、おだぶつだ。神を前に、なに考えてんだか。


 丁寧に、急げって? 困ったものだよ、ホントにさ。


 そして、私は次の手を打つ。

 世界の全てをひっくり返せと、ただ心の(おもむ)くままに。

 さてと、なんか良い感じの話で仕込みはOKと。

 次はちょっとえぐい話を書いてみようかな。私小説系でね!


 明日更新予定。短編「記述主義者と自殺の論理。」を掲載します。

 あとがき下のところから、評価を頂けると作者のテンションが爆上がります。よろしくね!^^

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