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06 伯爵家への帰還

「メルウィック・スワロウです。

 スワロウ侯爵家の次男ですが、嫡男なのは兄上なので身分はお気になさらず。


 また王宮では、王宮魔術師団の第二師団。その師団長を務めさせて頂いています。

 御令嬢であるレティシア・カーン嬢の上司という立場です」


 メルウィック様が丁寧に私の両親に挨拶をしました。


 何でしょう。この光景は何でしょう?

 なんでメルウィック様が私の両親に挨拶をしているのかしら。


 いえ、自然な流れなのですけどね?


 私の家にメルウィック様が来ているという慣れないむず痒さと言いますか……。



「どうも、これは改めてご丁寧に。お久しぶりですね、スワロウ師団長様」

「え?」


 今、お久しぶりって言いました?

 文通相手なだけでは?

 だから名乗ったんじゃないのですか?



「お会いしたことあるんですか、お父様?」

「ん? ああ。聞いてないのか? もう大分、前になるな。

 レティシアが屋敷を離れて半年も経たない頃か。その頃からの付き合いだぞ」


「え!?」


 それは聞いてませんけれど!?


「【黄金魔法】の調査は俺の仕事だからね。

 当然、レティシアだけを対象にしても仕方ない。

 ご両親の魔法に付いても詳しく知りたくてね。


 レティシアが突然変異なのか。それともご両親の代から引き継いできた才能なのか。

 そもそもカーン家特有のものなのかとか」


「あ、ああ。お仕事の一環、で?」


「うん。それと伯爵夫妻にアドバイスを少しと、ちょっとの協力を」

「ちょっとの」

「うん。ちょっとの」


 何でしょう? 何か引っ掛かるような。



「はは。何をご謙遜(けんそん)を。スワロウ師団長は、領地で上手くいっていなかった畑の土を魔法で改善などをしてくださったではありませんか。

 他にも細かな支援をなさってくれていましたね。

 領民はスワロウ師団長に感謝していますよ。

 それに田畑の魔獣対策の知識も、最新で独特のもの。

 アレには(うな)らされましたな。やはり若くして魔法師団長を務める方は違う」


 と、お父様がメルウィック様をべた()めし始めました。

 私の居ない間に両親とメルウィック様がかなり深い交流をしている……。

 しかも領民とも。


 むむ?



「……ちょっとの協力?」

「そうだね。ちょっとだねー」

「メルウィック様?」


 けっこう、がっつりとカーン伯爵家の領地運営に参加してらっしゃいませんか??


「色々と研究したい対象が多くて困るよ。あはは」

誤魔化(ごまか)されてません??」

「そんな事、ないよ? はは」


 銀色の髪の青年が、にこやかに笑う。

 ドキリとしました。


 なんでしょう。まるで少年のような笑顔!

 メルウィック様、4つ歳上の青年なのですが、可愛らしい! くっ! ずるい!



「ちょっとね。カーン領には思い入れがあるんだ」

「え、そうなのですか?」


「うん。だから、領地の協力はそれもあってね。

 それにカーン領で起きた問題とその解決法、その後の経過観察などはキチンと王宮に情報として入れさせて貰ってる。

 お互い様の、持ちつ持たれつというものだ」


 そういうものなのでしょうか?

 うーん。


「何はともあれ、レティシアは久しぶりの実家なんだろう。

 ゆっくり休まないと帰ってきた意味がないよ」

「あ、はい。そうですね」


「……ええ。お疲れ様。レティシア。きちんと休みなさいね」

「はい。お母様」


 メルウィック様は……流石に部屋には付いてきませんよね。

 私は彼を視線で追いました。


 私は自分の部屋に戻りますが、メルウィック様はお父様と話を続けるようです。


 前に話しましたが、カーン伯爵家は昔は裕福で今は貧乏伯爵家。


 屋敷こそ大きいのですが、使用人は最低限しか(やと)えない為、場所によっては人様にお見せできません。


 掃除を行き届けさせる人員が揃えられませんので。


 なので、その。

 頑張ってるお父様達には悪いのですが、少し実家を見られることに令嬢としては、というか、乙女? としては恥ずかしさを感じてしまったり……。


 いえ、いえ。

 私は恵まれている方。


 それに今更、メルウィック様に見栄を張っても、ですよね。はい。



「はぁ……。久しぶりの、私の部屋」


 物は少なく、普段使いの衣類は、王宮にある魔術師団の部屋に移している。

 それでも、なんだか落ち着くのが生家の自分の部屋というものですよね。


 私は深く呼吸をしました。


 埃っぽくはない。

 この部屋は、きちんと掃除してくれているみたいです。


 3年も帰ってきていなかったのに。



 私はベッドの端に腰掛けて、綺麗な事を確認するとそのまま横になり、枕に顔を沈めました。


「んーー」


 メルウィック様と一緒に家に帰ってきてしまいました。


 どうしてこんな事に?

 お父様やお母様には、どんな風に見えたでしょう?


 ただの上司と部下の関係ですのに。


 私の【黄金魔法】は、最上級の魔法の上に代償を支払う、という無茶な形で成立していると言われました。


 今は、その魔法の行使に伴う身体の不調をメルウィック様に診て貰っている状態……。


 しばらくはお世話になるしかありません。



 そして、何やら両親と仲が良く、領民達もメルウィック様と交流がある様子。


 これは……その。

 外堀? を実質、埋めているようなもの、では?


 つまり、メルウィック様とお近付きになる……またとないチャンス、なのでは……?


 相手はスワロウ侯爵令息。

 次男とはいえ、伯爵令嬢の私よりも上のお方。


 そして仕事場では上司の位置。

 交流は、そこそこある方。


 魔術の上は、出力とやらの問題を無視すれば格上の存在です。



 私はカーン伯爵家、唯一の直系の娘。

 派閥に血縁を持つ高位貴族の家系とは違いますので、伯爵家の存続の為には、私の婿入り相手が必要です。


 それならば早い内に政略結婚をして婚約者を確保しておけ、という話なのですが……。



 何度も言いますが貧乏伯爵家の実情。

 さらに年頃になった私は、王宮に入ってしまいましたので、そういう話はなかなか進められず。


 ……またとない機会。

 他にない条件のお相手。


 そして私、レティシア・カーンの気持ち。


 三拍子揃ったメルウィック様が、同じ屋根の下にいらっしゃる……。


 伯爵令嬢としては……動くべき、アプローチすべき時、なのでは……??


 今動かないでどうしますか?


 でも、でも。


「きゃー……!」


 私はベッドの上で枕を抱えて身悶(みもだ)えました。

 意中の男性に対してアプローチって、どうすれば良いのでしょうか!?


 そういう経験が! あまりにありません!

 あと悲しいですが、同性の情報交換の相手も居ませんし!


 あ、それは本当に悲しい……さておき!


 メルウィック様のお好きな事って何でしょうか!?



『キュイキュイ、キュー』

「あら」


 この鳴き声。魔法のツバメさんです。

 見れば窓の外には黄金のカケラを咥えたツバメが1匹。


「……おいで」

『キュイキュイ、キュー』


 私は窓を開いてツバメを部屋に迎え入れました。

 ツバメが咥えた黄金を手に取ると、光となって私の身体に溶けていきます。


 還ってくる私の黄金、私の生命力……。


 なんだか世界が明るく見え始めました。


「…………」


 最近は見るのも辛かった鏡の前に私は立ちます。


 鏡に映った私の姿。

 戻り始めた金色の髪。

 そして、黒の瞳には……うっすらとエメラルドの色味が混じっていました。


 その事に気付いて、じわりと涙が(にじ)みます。


「……メルウィック様」


 金色の髪とエメラルドの瞳を取り戻せたら、私は自分に自信を持てるかしら?


 その時は……胸を張って感謝と、そして彼への気持ちを伝えたい。


 私はそう思うのでした。


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