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19 ダンスと魔法の練習

 魔法のツバメが何羽も私を近くにとまっています。

 メルウィック様が生み出した魔法の生き物達。

 馬のような大きなものまで生み出せるのは、本当に凄いと思うのです。


「身に(まと)う、幕のような防壁で……、黄金の結界」


 キラキラと星のように。

 私の髪の毛や衣服に黄金の光が散りばめられました。


 宝石要らずですね。

 夜会で魔法を使って目立つのは如何(いかが)なものかとも思いますけれど。


「うん。上手く出来ているよ、レティシア」

「はい。メルウィック様。ありがとうございます」


 場所は侯爵邸の庭。

 私達は、魔法と、そしてダンスの練習をしています。


 メルウィック様と共に諸侯が開くダンスパーティーへ参加する事になりました。


 もう時間もありませんので、ステップの確認をしつつの、魔法の練習もするという謎のカリキュラムの中、進んでいます。


 でも意外と何とか出来ますね……?

 複雑な事をしていないからでしょうか。


 体力的、魔力的にも余裕がありますし。


「不慣れと言っていたけれど、ダンスも上手じゃないか」

「い、一応は習いましたので。かなり期間が空きましたし、公の場で踊る機会もなかったですけど」


 メルウィック様と手を取り合い、踊る私。

 黄金の魔法が私達を輝かせ、魔法の動物達が見守る……幻想の空間。


 メルウィック様が魔法のシャボン玉まで浮かせて世界を彩ります。


「ふふ。なんだか素敵ですね」

「気に入った?」

「はい」


 きっと、こんな経験を出来る人なんて、そう多くはないでしょう。


 それに。


 ……好きな異性が、もしかしたら。かなりの可能性で。

 自分の事を好きかもしれない。


 そんな状況で、です。


「メルウィック様」

「何だい、レティシア」


「……私、今、とても幸せなのだと思います」

「うん」


 幻想的な空間が、より幸福な一時を演出していました。


 私の両親も、そしてメルウィック様の両親も。

 この2人の時間を許して下さっています。


 祝福、されているのだと、思うんです。

 ただ、その。


 まだ(・・)メルウィック様から、決定的な言葉は聞けていません。


 なので、たぶん、おそらく、きっと。

 そういう気持ちなのだろうな、と。


 そういうフワフワした状況なのが今の私達。


(私から……気持ちを伝えた方が良いでしょうか)


 いえいえ。ですが、でも。

 これは流石に、その。メルウィック様の言葉を待った方が良い、のでは……!?


 その。どんなシチュエーションさえも用意できる方ですし。

 ああ、でも好意は示さないと、誤解されますか?


 意外とメルウィック様も臆病とか、そういう可能性も。


 くぅ。恋の駆け引き、正解が分かりません!



「何を悩んでるの? 面白い顔してるよ? ダンス中に」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そう?」


 あと面白い顔って何でしょうか!

 変な顔なんてしてませんよね……?


「黄金の……色々な魔法。私にも使えそうです、メルウィック様」

「そう? それは良かった」

「はい。本当に。これで私も、キチンとした王宮魔術師団の団員……になれるでしょうか?」


「うん? キミは元から魔術師団のメンバーだよ、レティシア」

「それは……そうなのですけど」


 けれど実質、私は名誉団員みたいなものでしたからね。

 なにせ黄金を生み出す魔法しか使えませんでしたから。


 戦闘部隊には参加など出来ませんし、後方担当は魔法ではなく身体を動かしての支援。


 不要とは言えない役回りでも、はて、魔術師団員とは……? となるワケでして。



 ラカン殿下の支援活動に参加したのも、そういう面はきっとあったでしょうね。


「……気にしているなら、レティシアの魔法をもっと鍛えあげないとね。厳しくした方が良い?」

「え、は、はい……?」


 厳しくとはどの程度でしょうね。


「お、お手柔らかに……?」


 何でしょう?

 相手はメルウィック様だというのに『イヤな予感』を感じましたよ?


 あれ? もしかして魔法関連は妥協を許さない方ですか?


「ふふふ」

「め、メルウィック様? 見た事がない笑顔をこのタイミングでするのはおやめになっていただけると!」


 ぐいっと。

 ダンス中の手を引かれました。


 そして身近に迫る彼のサファイアの瞳。


「綺麗なエメラルドの瞳だよ、レティシア。

 自信を持って。胸を張っていい。

 俺の事も……今なら見つめ返せるだろう?」


「あっ」


 メルウィック様の目。

 戻った私の瞳の色。見つめ返しても……何も引け目なんて感じずに。


(あら?)


 どうしてかしら。


 私は、ときめきを忘れて彼の瞳を覗き込んだ。


 ……その瞳に見覚えがあったんです。

 いつ、だろう。

 私は、いつこの瞳を?


「…………」


 メルウィック様は何も言わずに私を見つめ続けました。


 しばらくしてから、フッと微笑み、そして私から手を離します。


「また、一緒に踊ろう。レティシア」

「は、はい。メルウィック様」


 親しくなった人。

 どことなく好意を感じるけれど、決定的な言葉だけはまだ掛けられない関係。


 彼に勇気がないワケじゃない。


 私は……何か大事な事を忘れている。

 そんな気がしたのです。


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