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18 ラカンの困惑(ラカンside)

 レティシアがスワロウ侯爵家へ向かったと聞いた。


「…………」


 それも天才魔術師のメルウィックと共に、だ。

 無理矢理ではないという。

 カーン伯爵夫妻が喜んで送り出した、と。


 そんなバカな、とも思う。

 いや。いや。

 先を越された……と言うべきなのか?


 レティシアが僕以外に、なんて。

 考えた事もない。


 いや。まだだ。

 まだ彼女の気持ちを確認していないじゃないか。


 そうだ。

 今からでも遅くない。

 僕の気持ちを伝えればレティシアは当然……。



「ラカン殿下」

「ど、どうした? ヴァリス」

「ガレス嬢の為にドレスを仕立て直しいたしましたので。

 さっそくガレス嬢にドレスを送ってもよろしいですか?」


「あ……」


 レティシアの為に用意した黒髪(・・)に似合うドレス。

 それはマール用のドレスへと変わってしまっていた。


 仕立て直されたドレスが、よりいっそうレティシアへの気持ちがもう手遅れで、取り返しがつかなくなったんじゃないか、という気にさせた。



「ヴァリス。……どう、だろう? 手紙で恋文、というのは時代錯誤(さくご)か……?」

「殿下……」


 僕は混乱していた。

 ショックを受けていたのだ。


 メルウィックと恋仲だったなんて話は聞いていない。

 彼女との仲が最も深いのは僕だと信じていた。


 思い描いていた未来がガラガラと崩れていくような感覚。


 どうすれば良い?

 どうすれば元に戻せるだろう?


 いや、何も決まったワケではないのだ。


 僕は王族だし、いずれは公爵にもなる。

 ……先の手紙を送った時みたいに、多少は強引な手に出ても……?



「ラカン殿下。色恋に意識が向くのは構いません。

 ですが、陛下の定めた政略でもないこの場合は、どうかご自身のみのお力と良識の範囲で誠実に動いてください。


 ……間違っても権力で令嬢の意思を捻じ曲げるようなやり方はなさらないように」


「何故だ!?」


 と。

 ヴァリスの否定に思わず僕は声を荒げてしまった。

 出来る事をすることの何が悪いのかと。



「まだラカン殿下は直接、彼女にぶつかってもいないではないですか。


 真摯に気持ちを伝えましたか?

 態度で好意を示しましたか?


 それらをせずに、先に令嬢を縛り付けようとなさるなら、陛下や王太子殿下を説得してみせて下さい。

 政略をお望みなら話は別です。


 ……そして、そうした場合、カーン嬢の気持ちが殿下に向く事が二度となくなるかもしれない事を覚悟してください」


「なっ」


 何故。


「何故そこまで言うんだ、ヴァリス? まさか、君も彼女の事を……?」



「違います。ラカン殿下。自分も貴族ですよ。家には兄妹(きょうだい)も居ます。


 ……王族の、それも不誠実な態度からの、権力を利用した理不尽な対応など見過ごせる筈がありません。


 矛先がいつ、自分や家族に向くか分からないのですから。

 そのような王族。貴族にとっては許容できないのです。


 理に適った主張ならば、もちろん手助け致しましょう。


 ですが年頃の感情を理由とした、さらに相手が望まないかもしれない言動に権力を使うとおっしゃるなら、それを止め、(いさ)めるのが自分の務めです」



「うぐ……」


 気に食わない、という気持ちが湧いてくる。

 だが側近とはそういうものだ。

 僕は王子なのだから、ただのイエスマンだけを側に置くなど許されない。


 それにヴァリスの言う事は間違いではない。

 僕は焦りのあまり、するべき事をせずに権力を振るおうとしてしまっていた。


 それを一度でもしてしまえば貴族達からの信用を失ってしまう。


 父上や兄上も許されないだろう。



「では、せめて手紙を……」

「なんと?」

「それは。だから」


 何と送ろう。

 僕の気持ちを?

 スワロウ侯爵家に居るレティシアにか?


 ……困惑させるような気しかしない。


 それに手紙で伝わるだろうか?

 ちゃんとレティシアが読んでくれるだろうか?


 出来れば直接会って伝えたい。

 でなければ僕の気持ちは伝わらない気がするんだ。



「レティシア……」


 マール用に仕立て直しされたドレスを見る。


 まだ決まったワケじゃない。

 再会して、この気持ちを伝えれば……。


 そう思っていた僕に追い打ちをかけるような情報が届いた。


 例の夜会にレティシアが参加するのだと言う。

 メルウィックのパートナーとして……。


 僕の誘いは2回も断ったと言うのに。

 一体、いつから……。

 僕は間違えていたんだろう?


「……レティシア」


 僕は彼女の名前を(むな)しく(つぶや)くしか出来なかった。


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