16 スワロウ侯爵家
15人の賊を運ぶ魔法のお馬さん達。
そして私はメルウィック様と共に馬車に乗り移動しています。
「…………」
両親もおらず、2人きりの空間なワケですが、私達の間に甘い空気など生まれませんでした。
というのも……、
「はい。それ以上はダメ」
「あっ」
メルウィック様が私の前で形を取り始めていた魔法をかき乱して霧散させます。
はい。魔法の特訓中なのですよね、今。
緩やかな馬車の移動は、中々に集中できる環境だったりします。
「む、難しいですね」
「最初の内はね。それにまだまだレティシアの魔法は手探りだから」
「はい」
私は魔法を使えるようになった頃から感覚で【黄金魔法】だけを使ってきました。
魔力を扱う事は出来るのですが、その先で結実するのが、いつも黄金になってしまう……という感じです。
ただ私だけでなく貴族家系の中には、家の特色となる魔法のみを極める……という方もちらほらいらっしゃるそうで。
端的に言えば、ある程度の攻撃能力や防御能力、そして見栄えが整えられれば、それで良い。
……というのが貴族の魔法についての考え方なのです。
火魔法が得意な一族出身の者は火を極めたりと、そういう。
魔術師団が研究に時間を取る事から分かるように、魔法とは研究・研鑽の先に強くなる技術です。
魔法研究ばかりに貴族は時間を使っていられない、ということになりますね。
ですが貴族令嬢とはいえ、私も王宮魔術師団の端くれ。
道筋が見えたのなら、やはり他の魔法を使ってみたく思います。
「……黄金を生み出す事自体に代償が要るワケではないようだよ。
『生み出した黄金を世界に残す』という命令式に、どうしても対価を必要とするらしい」
「ええと?」
「対価を支払う事をやめても、すぐに消える黄金ならば生み出せる。
……うん。これは……今まで遺伝とか得意・不得意の話かと思っていたけれど。
個人個人に割り振られた属性がある……という考え方の方が良いのかな……?」
はて。
メルウィック様は何に悩んでいるのでしょう?
「……魔術師団は、当然だけど多くの貴族出身者が在籍している。
家門の得意魔法を、その筋の者が得意とするのは自然な話だし、俺も疑問には思っていなかったんだけど」
「はい」
それもよく聞く話ですのね。
「たとえば、マディール家の得意魔法は水魔法で、その出身の者も同じく水魔法を得意にしている。
血筋の影響があると思うのだけど。
彼の生来の属性が『水』であり、覚える攻撃魔法も、そして防御魔法も『水』を起点にしている……という事なのかな。
得意だからじゃなくて、本人の質がそう、なんだ」
「水の攻撃魔法と防御魔法、ですか」
水球を相手にぶつけたり、魔法の壁・結界を生み出したりですね。
「これで『火』が属性となる者は、同じ系統の魔法でも、それらが『火』になる」
火球、そして炎の壁の魔法とかですかね?
2人が習得した魔法は本質的には同じモノ。
ですが生来の属性によって発現する現象が変わる……?
「と、なりますと。私の場合は……」
「『黄金』がレティシアの属性……という事になるのかな。
攻撃魔法も防御魔法も『黄金の』という前提になる」
ええ? なんだか、それは無駄に派手な気がしますね。
今更なのかもしれせんけれど。
「基本的には『土』系の魔法を参考にして良さそうだね」
「なるほど」
大まかな分類の自然魔法。
黄金がどこに属するかと言えば、やはり『土』なのでしょうね。
とはいえ、風・火・土・水だけが魔法の属性ではありません。
メルウィック様なんて多種多様な魔法を使っていますしね。
「メルウィック様の生来の魔法属性は何になるのでしょう?
自分のではない他の属性が覚えられないというものでもないかと思いますが」
球・壁・結界などの基本形の魔法を使った場合、分かりやすく本人の属性で修飾される。
なので私の場合は『黄金の』魔法になるみたいです。
……火球や、水球は、如何にもな基本魔法かと思うのですが……。
……私の、場合は……。
むむむ。貴族令嬢として、あるまじき何かの気配を感じます。
私の基本攻撃魔法は棘に致しましょう。
ええ、そうしましょう。
金の針とか呪いが解けそうで良いですよね!
「うーん……。風・火・土・水、もろもろ、全部?」
「全部」
私などは『凄いなぁ』で済むのですが、聞く人が聞けば怒られるぐらいの才能ですよ。
「だいたい、やれば出来たから……」
「メルウィック様」
それ以上はいけません。
才能の暴力というものです。
「もしかして固定観念に囚われ過ぎている……といった言葉は、実は魔法の真理などではなく、ただのメルウィック様と、他の人達の純粋な才能の違い……なのでは?」
「…………そうかもしれない」
メルウィック様、今まで色々とやらかしてきたのでは?
属性が『火』や『水』の人相手に、火と水の両方を出してみせて『やれば出来るよ』とか、眩しい笑顔で言ってみせるのです。
天才ハラスメント……。
「才能があり過ぎるというのも困ったものですね」
「本当にね。あとレティシアも天才側だからね?」
「そうでした……」
実感は、まるでないのですけどね?
出力ではメルウィック様を凌ぐと言われても、です。
そんな風に魔法の特訓に集中していますと、馬車はあれよという間にスワロウ侯爵領へと入りました。
「あら。お馬さん達……」
賊を運んでいたお馬さん達が違う道を進み始めました。
その先には、騎士の格好をした人達が?
「侯爵領の騎士達だよ。事前に連絡しておいたからね。待っていたんだ。
彼らを引き渡して尋問した結果は、スワロウ家で聞けるよ」
「そうなのですね。……少し怖いですが」
ほとんど何を感じる事もなく片付いた事件。
メルウィック様が、何から何まで処理して下さったので、私は平気ですが……。
彼らに黒幕が居るとしたら、それは誰なのか。
知るのが恐ろしくあります。
「レティシアを危険な目には遭わせないよ。……でも、ちゃんと自衛できる魔法を覚えてくれた方が安心できるかな?」
「はい。私にも出来る魔法があるなら、覚えてみたいですから!」
黄金を生み出す魔法しか使えないと諦めていた私。
ですが、メルウィック様が私の今の実力と、明らかになった才能で出来る魔法の習得を助けてくれる事になりました。
……王宮魔術師団、第二師団長に、魔法の個人授業をして貰う。
とんでもない事です。
部下として指導を受けるのとも違う、破格の待遇でしょう。
力をたくさん込めようと頑張るのではなく、むしろ力を制限し、絞っていくイメージ。
それこそ針のように。
このイメージが私が普通の魔法を使うカギになります。
そして、とうとう私はスワロウ侯爵家の屋敷へと到着してしまいました。
馬車が停まり、先に降りたメルウィック様に手を引かれて降り立ちます。
「──ようこそ、レティシア。スワロウ侯爵家へ」
「は、はい……。お招きいただき、ありがとうございます……」
流石の私も緊張してしまいます。
そのまま何故か手を引かれた状態で進みました。
そして玄関の扉が開かれて。
「──ようこそ、スワロウ家へ。
貴方がレティシア・カーンさんね。
お待ちしていたのよ。
私は、イゼッタ・スワロウ。侯爵家の妻を務めさせて頂いているわ」
「こ、侯爵夫人。は、初めまして。
カーン伯爵家の長女、レティシア・カーンでございます。
め、メルウィック様、師団長の……部下をしております」
毅然と返事を返せませんでした!
くぅ。
「ふふ。緊張しなくていいのよ。レティシアさん。
本当によく来て下さったわ。
そう、そう。貴方がねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「ふふふ! さぁ、来てくださいな、レティシアさん」
「えっ」
私はイゼッタ夫人に手を引かれました?
そして侯爵邸の中へと招かれます。
「母上。レティシアの事を大切に扱ってくださるのでしょうね?」
「もちろんよ。当然でしょう? だって」
「母上」
「……ふふ。大丈夫よ。心配しないで」
「ありがとうございます。物事には順序がありますから」
「……?」
親子にしか通じないやり取りを交わした後。
私はイゼッタ夫人を代表としたスワロウ家の人々に何故かとても歓迎されました。
いえ、本当に何故?
なんというか、チヤホヤと言いますか。
とても私を褒めてくれますし。
夫人に至っては常に機嫌良さそうに、私を見る目がその、愛娘でも見るかのようです……?
やっぱり、その。
これはアレ、ですよね?
分かっています。
お互いに貴族ですから。
でも、カーン伯爵家は名家とは言えないワケですので、メルウィック様からお相手にと希望する家も沢山ありますでしょう?
政略の対象としては適切ではない筈……。
「さぁ、レティシアさん。次はこれを付けてみてね?」
「え、あの。なんで私は着飾られているのでしょう……?」
「貴方が可愛くて綺麗で、愛おしいからだわ。ふふふ」
と。
イゼッタ夫人……メルウィック様のお母様は、機嫌良く答えて下さったのでした。
ブックマーク50件超え!
評価ポイント100到達!
応援ありがとうございます!!
今、おおよそ半分ぐらいは進みました。
完結まで頑張ります!