表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/29

14 もしかして

「彼ら、どうされるんですか?」

「数が多いからね。本当なら2、3人だけ生かして後は……だろうけど。

 かと言ってカーン領で血を流すのは忍びない。

 拘束したまま別の地へ運びたいな」


 パシヴェル王国には、王国法があります。

 今回の件は犯罪に該当(がいとう)する行為でしょう。


 その土地の領主の伯爵一家が乗る家紋入りの馬車を集団で(おそ)ってきたのですから。


 ただ、領地内で起きた犯罪の処断は領主に任されます。

 我が家にも狭い牢があるにはあるのですが……。


 領内で処理しかねる場合は、他家や王家を頼るのが通例。

 この場合、メルウィック様の伝手を頼りにするのが一番という事になります。



「……ただ、彼らの尋問は……」

「はい、メルウィック様」

「……カーン伯爵」

「はい、スワロウ師団長」


「彼らの狙いなのですが……もちろん、領主である貴方という線もあります。

 ただ、俺の知る限り、貴方を恨むような者が居そうにない」


「そうですな。私も心当たりはありませんが……。今の領民が恨む程の事も、おそらくないように思います」


 領地運営は上向き経営に移っている筈ですからね。

 視察で交流した人々にも私達一家に対して敵意を持っている素振りはありませんでした。


「はい。それで、なのですが。彼らの狙いは……」


 そこでメルウィック様は真面目な顔をして私を見つめてきました。


「えっ」


 もしかして。


「……娘のレティシアが狙われた、と?」

「私ですか!?」


 そんな、まさか。ああ、ですが。

 心当たりはあります。


「……黄金」


「うん。レティシアはある意味で有名人だ。その魔法の特性も最近になって分かった事で広まってはいない。

 人によってはタダで黄金を生み出せる女性だと思い込んでいる可能性も……。


 いや。誘拐とかを考える連中は、魔法の代償(だいしょう)なんて気にしないか」


「……そうですね」


 つまり。

 私を誘拐するような人は、私の髪が黒く染まろうが関係なく、私に【黄金魔法】を使わせるだろうという事。


 ……例え、この身がやつれ果て、死んでしまったとしても、です。



「どうしますか? 気になるのであれば、カーン家で俺が尋問します。

 黒幕を吐かせるぐらいは一人で出来ますが……」


「……しかし、数が多い。彼らを生かしたまま管理しておける力はカーン家にはありません。

 それに、もしレティシアが狙われていたとしたら……我が家では」


 そう、ですよね。

 15人近くの襲撃者(しゅうげきしゃ)達。

 彼らを拘束したまま、さらに私や両親の護衛を増やして身の周りを固めて……というのは難しいです。


 そのような人手を色々な意味で揃える事が出来ません。



「スワロウ師団長。我々から多くは望みません。

 妻と娘、領民の安全さえ守れれば良いと思います。

 ……師団長が、最も適切だと思われる処置をしていただけませんか?」


「分かりました、カーン伯爵。レティシア・カーンは俺の直属の部下ですし、その魔法の特異性から元より護衛対象でもあります。


 彼女の身を守る事は、仕事の内ですから何の遠慮も必要ありません。

 ……差し当たってですが。

 彼らを俺が魔法で運びますので一度、カーン家の屋敷に戻りましょう。


 念の為、屋敷の結界を強化しておきますので……。

 その後は、彼らを……ひとまずスワロウ侯爵領へ運んで尋問したいと思います。


 一応、俺も襲われた対象には入っていますので当事者ですからね」



 たしかに。

 馬車にはメルウィック様も乗っていました。

 当事者だと言えますね。

 そうなるとスワロウ家が動いても不思議ではありません。


 ただ、そのことを彼らは知らなかったのでは?

 なにせ彼一人にあっという間に返り討ちにされてしまいましたので。


 ……流石にメルウィック様の事を知っていたら襲ってこないでしょう。


 あと屋敷に結界って言いました?

 張ってあるのですか、結界。

 メルウィック様が張ったのですよね?



「……黄金狙いの賊であれば物事は単純なんですが」

「何か気になる事でも?」

「……彼らの武具が……良い物なんですよね」


 武具が? ただの賊ではない?


「……どこかの家が絡んでいる、と?」

「うーん。レティシアか、カーン家か、俺か。知っていて襲わせる程の得が貴族に……あるんですかね? 恨みなら察しようがないので仕方ありませんが」


 どうなのでしょう?

 黄金狙いで他家が私を誘拐する……。

 ありそうな、なさそうな。


 その家の為に黄金を作らせるのでしょうか?

 お金に困っている貴族が他所(よそ)にも……?


 そういう事でもないのかしら?



「とりあえず護送だね。伯爵。少し土を持っていきますよ」

「うん? 土? 構わないが……」


 メルウィック様がその場に膝をつき、片手で地面に触れる。


 すると、光が地面を伝い、賊の下まで伸びていった。

 そして。


「おお……?」

「まぁ!」


 賊を背負うように現れたのは魔法の馬達。


「つ、ツバメどころか馬まで生み出せるのですか、メルウィック様は?」


 拘束された男達はその姿のまま、馬の背に乗せられる。


「このぐらいはね」


 ……このぐらい、とは?

 メルウィック様は、もしかして自身の才能がどれほどか分かっていないのでは。


 私が言うのも何なのですけれど。


「凄いです」

「……レティシアも、そろそろ身を守る魔法を身に付けないとね」

「え。もしかして」


「うん。体調も良くなってきたんだろう。魔法の訓練を始めても良いと思う。

 キミの魔力量(マナ)に合った魔法の使い方を見つければ良いんだ。

 そうすれば黄金の魔法以外も使いこなせる筈だよ」


「は、はい! がんばります!」


 不安な事は起きましたが……私には、それ以上に嬉しい事が起きるようです。


 思えば【黄金魔法】しか使えないと思っていた私。


 魔法を使う楽しさを知らなかったと言って良いでしょう。


 ですが、メルウィック様が見せてくれた多彩な魔法は……使えるならば、きっと楽しそうだな、と思えたのです。


「あとは、と」


 メルウィック様は、今度は魔法のお手紙? を作り始めました。


 白い紙が一枚。

 サラサラと光と共にそこに文字が書き込まれます。

 そして、封筒に包まれますと、魔法のツバメがそれを足で掴んで飛び立っていきました。


「伝令、ですか?」

「うん。スワロウ家にね」


 何でも出来ますね、メルウィック様は。


 それから落ち着いたら私達は、改めて馬車に乗り屋敷へと戻りました。

 帰路はメルウィック様が結界を張った状態で進みます。


 魔法の馬が捕まえた賊達を運ぶ一団と一緒に移動……。

 たぶん、見掛けた人達がギョッとしてますよねぇ。


 無事に屋敷につくと、メルウィック様は屋敷の結界? の点検と強化を始めました。

 15人の賊は拘束を緩めぬまま、屋敷の外に放置されています。



「──レティシア」

「はい、メルウィック様」

「キミ、このまま……スワロウ家へ来ないかい?」

「え?」


 スワロウ……侯爵家に?


「屋敷の結界は強化した。連絡手段も残したから、最悪、引き篭もれもする。

 けど、彼らの狙いがキミだとするなら……。出来れば俺の傍に居て欲しい。

 その方が確実にキミを守れるからね」


「え、あの……。守って、くださるのですか?」

「ああ。レティシアを誰にも(さら)われたくない。

 誰にも傷つけさせたくないんだ」

「────!」


 カァーッと顔が()()がるのを感じました。

 鏡を見れば真っ赤に染まっている事でしょう……。


 あれ? その。

 前々から、もしや、と思っていたのですけど。

 それは希望的観測と言いますか。


 メルウィック様、私に好意が……あったり、なかったり?


「カーン伯爵。レティシアをスワロウ家に連れて行っても……良いかな?」


 お父様は二つ返事……はしませんでした。

 とても真面目な顔をしたかと思うと、私の瞳を見つめます。


「うむ。……レティシア。お前はどうだ? お前が良いと思うなら私は止めないよ。

 少なくともスワロウ師団長の事を、私達は信用しているからね」


「そ、それは……」


 決定権は私にあるそうです。

 メルウィック様と共にスワロウ侯爵家へ?


 ただでさえ家族ぐるみのお付き合いが続いた3週間でした。


 その上で、となると。

 流石に噂が……広まったり……でも。


 私は掴みかけている──かもしれない──幸福を手放したくありませんでした。


「私は──」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ