表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/29

11 陳情と駆け引き(ラカンside)

「新地域の支援が上手く回ってない?」

「……そのようですね」


 レティシアを含めて長く手掛けていた貧民地区の支援活動。

 その元々の担当区域ではなく、今回新たに手を出し始めた地域での報告を受け取っての話だ。


「何故だ? 初期の支援計画は、前回の経験を踏まえた上で行なったもの。

 今回はその上、前回の地域よりは比較的にはマシな地域への支援。不足な事が起きるとは思えないが……」


「……おそらくですが、民の求める水準が上がっているのでは?」

「どういう事だ?」

「詳しくは調べて確認しないとなりませんが、手元に届いた陳情書を見ますと、」



 どう言えば良いだろうか。

 仮に最初の支援地区を『A街』としよう。

 そして次に手掛けた場所は『B街』だ。


 B街からの陳情には、

『A街よりも手厚い支援を求む』

『A街よりも豊かな街にして欲しい』


 ……といった具合の意見が見られた。


 街に対する愛着心が強い地区、なのだろうか?

 僕が手掛けてきた支援計画も伝わっているらしい。


 AとBの街は別に隣接地域ではなく、王都でも離れた場所だ。

 そこまで対立したり、敵対関係などがあるとは思えないが……?


「結局、何を求めているんだ? 支援計画の前倒しか?」

「……より高水準の支援ですね。例えば、あちらに銅を配ったのなら、こちらには銀を寄越せ、というような」


「……なんだそれは」


 何故、そんな事を言い出す?

 貧しい民達の元に、ほぼ対価もなくもたらされる支援だ。


 状況に沿わずに迷惑という陳情ならば理解できるが、ただの高望み?


「……何も地域の人間が一致団結しての意見ではないと思いますね。少し……きな臭いでしょうか。

 殿下の支援計画に便乗した何者かが、支援を理由に王家から資金を得ようとしている……とか」


「何だと?」

「あくまで推測のひとつですがね。慎重にはなるべきかと」

「むぅ」


 民の貧困を利用して私腹を肥やそうという人間が居る、という可能性か。

 もし居るのなら、なんと不届きなヤツだろう。


 僕とヴァリスはB街の調査を改めて行う事になった。



 ……調査に時間を取ると、たしかに民には不満の声が広がっている。

 しかし彼らを扇動した者は見つからない。


 何者かが裏に居るのか。

 それとも、これが彼らの正直な気持ちなのか。


「このままでは」


 支援計画を進めても不満が高まるばかりだな。


『A街よりも手厚く』


 ……そう実感しないと、納得しないような雰囲気だ。

 これは最悪な空気と言っても良いだろう。


 元々のA街を知っている僕からすれば、彼らよりも随分とマシな地域なのに……。



「どうすれば良いと思う? ヴァリス」


「……キリの良く、納得される範囲であの地区への支援を切り上げるのがベストですね。

 元より当初の予算を考えれば、あちらまで手が回る筈がなかったんです」


「一度、民に差し出した手を引っ込めろと言うのか? 王族である僕に?」


「……評判は、まぁ下がるかもしれませんね。

 しかし、この傾向ならば火種が大きくなる前に手を引くべきでしょう」


「しかし、手を差し伸べなければ困る民が出る」

「…………思うのですが、殿下」

「何だい、ヴァリス」


「殿下が救済し、引き上げるべきと考える民の基準とは?」

「……? 見てられない生活をしている者達、といったところだが」


 今更言うまでもない事だろうに。


「……それでは。僭越(せんえつ)ながら、殿下は領主ではありません。

 王族と王都の民の関係ではいるものの、正式な担当地区は元の地域となっています。

 現状の情報と計画をまとめた資料を……そうですね。

 改めて王太子殿下に見せ、相談されるべきかと」


「兄上の手を(わずら)わせるのか?」

「民の為ならば、王太子殿下も無下(むげ)にはされないかと」


「しかし、妥当な支援要請のようにも感じる」

「……かもしれません。が、こちらが対応できる限度があります。

 個人が相手ではありませんが、駆け引きも必要かと」


「……ごねるぐらいなら支援を遅らせる、または手を引く、と?」


「そうです。緊急性のある救援要請ならば真摯(しんし)に応えるべきですが、今回の件は慎重になるべきです」


「むぅ……」


 ヴァリスの言う事は分かる。

 B街からの陳情は、真剣に助けを求めたものとは少し違う気配があった。


 ただ、それでも。

 困っている者達に手を差し伸べられない理由は、こちらの余力不足だ。


 不満など持たせないぐらいの資源を投入できれば皆が救われるというのに。



「……レティシアが居ればなぁ」


 微々たるものであるが。

 日々、積み重なっていく、もどかしさのようなもの。


 会えなくなってからそろそろ1ヶ月が経つし。


 夜会用のドレスも魔術師団に問い合わせてサイズを確認し、用意させた。


「前回は断られた……が」


 ドレスまで用意したんだ。

 気が変わるかもしれないし。


 改めて手紙を送るのも良いかもしれないな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ