理不尽な取り押さえ
「エメ、君が望むなら、僕が匿ってあげるよ」
そう言ったのに、エメは首を横に振った。
「そんなことをして見つかったら、ルゥが罰を受けるのでしょう」
「せいぜい一日か二日くらいしか匿ってあげられないだろうけど、エメが少しでも元気が出るなら、僕はいくらでも罰を受けるよ」
「ルゥが罰を受けると知って、元気なんて出ないわ」
「そうか……。まあ、僕がエメと少しでも一緒にいたかったんだけどね」
僕がそうため息を吐きながら言うと、エメは「ありがとう」と笑った。
「私、あの部屋に戻るわ」
「本当に大丈夫?」
「ええ、ルゥの顔を見られたから大丈夫。会いたくなったら、また抜け出そうかしら」
エメがいたずらっぽく可愛らしく笑った。
「エメ……、木を伝って下りるのは危ないから、他の会う方法を考えようか…」
「ルゥ、なんでわかったの?」
「寝室の窓の横の木だろう?あれくらいの距離、エメなら飛び移れるかなと…」
普通のご令嬢なら絶対に無理だ。僕だって飛ぶのを躊躇うくらい離れている。だから衛兵達もエメの抜け出た方法が思い当たらなかったんだろう。
でも、エメにとっては飛べる距離だったようで、何事もなかったように笑った。
「ふふふ、ルゥには隠し事できないわね」
なんだか話しているうちに元気が出てきたように見えるけど、部屋に戻った後はまた不安になったり、落ち込んだりするんじゃないかとやっぱり心配だ。一人で戻るというのは却下して、僕も客間の前までついて行くことにした。
廊下を歩きながら、僕は考えていたことをエメに話した。
「僕、王都に行って、エメへの謁見の許可を頂いてこようかと思っているんだ」
「王都まで…?」
「ああ。ここにはその許可を与える権限を持つ者がいないんだ。この状況がいつまで続くかわからないけど、謁見の許可があればエメに会えるようになるからね」
「謁見だなんて、私……」
エメは俯き、手はスカートをぎゅっと握っていた。
「エメ?」
「私って……何者なのかしら…。自分でもわからないの…」
「そうだね。急に王女殿下だと言われて、戸惑わない方がおかしいよ。でも、僕にとっては、大好きなエメに変わりはないよ」
俯いてしまったエメを覗き込むようにして、僕の気持ちを伝えた。
「ルゥ…」
「もちろん、これまで通りにはいかないこともあるだろうけど、僕がエメのためにできることがあれば、なんだってするから。心はいつも君のそばにあることは忘れないで」
「……わかった。でも、無茶なことはしないでね」
「それは約束できるかなぁ…」
「ルゥ!お願い。約束して」
「わかった。努力する」
「努力って…」
エメは困った顔で微笑んだ。
◇ ・ ◇ ・ ◇
「王女殿下!今までどちらに!」
客間の前まで来ると、衛兵達が駆け寄ってきた。
そして――僕の腕を後ろに捻り上げ、床に押し倒した。一緒に戻れば、エメを連れ出したと問い詰められるくらいの覚悟はしていたが、まるで僕が王女を拐かしたかのように取り押さえられるとまでは思っていなかった。
「ルゥ!!」
エメの叫ぶ声が廊下に響いた。
「放して!今すぐ、彼を放して!!」
「ぐぅっ…」
二人がかりで取り押さえられ、そのうちの一人は膝で僕の背中を力一杯押さえ込んでいるから、エメに大丈夫だと伝えたくても声が出なかった。
「殿下、こちらは危険ですので、部屋へお入りください」
「いやよ!彼は私を守ってくれたの。お願い、彼を放して」
エメも僕に近寄らないように、衛兵に制止されているのだろうか。少し離れたところからエメの悲しげな声がする。僕はそれを床に頬を押さえつけられながら聞いていた。
「それはできません。この者には、殿下を連れ回した疑いがございます」
「私が自分で部屋を抜け出したの!彼はここへ連れ帰ってきてくれただけよ」
「しかし、殿下、」
「殿下なんて呼ばないで!」
「では…、ソフィア様…」
「どちらも同じです!そのように呼ぶのであれば、私に触れないで!その手を放しなさいっ!」
今まで聞いたことのない、エメの怒りに満ちた声が聞こえた直後、パタパタと足音が近づき、僕の目の前にフワッとスカートの生地が広がった。
「ルゥ!大丈夫?」
ひんやりした手のひらが僕の頬に触れた。答えたくても、やはり声が出ない。
「その膝を退けなさい!」
エメが僕の上に乗る衛兵を押しているようだった。僕の腕や頭は押さえられたままだったが、膝は退けられ、ようやく息ができるようになった僕は激しく咳き込んだ。
「ルゥ!ルゥ!」
「……エメ…、だい…じょう、ぶ。あ、ありが…とう」
咳き込み、呼吸が整わないけど、エメに返事をすることができた。はぁ、苦しくて、意識が遠のきかかっていた…。
その時、カツカツカツと早足で歩いてくる音が聞こえた。威厳も漂わせるその音から、父上だと思った。騒ぎを聞いて駆け付けたのだと。
僕を助けてくれるのだろうか。それとも、騒ぎを起こしたことを咎めるのだろうか………
「何をしているんだ、馬鹿者!その者から今すぐ手を放せ!!」
一瞬にして衛兵らは手を放し、その場で姿勢を正した。
僕は床に横たわったまま、顔を上げる気力もなかった。
「大丈夫か、リュウ!」
膝をついて僕の肩に手を置いたその人に、僕は弱々しく文句を言った。
「遅いです…、アレン殿下……」




