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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第8章 王女とリュウ
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パンケーキとミルクティー

廊下からでもエメが見えないかと、そしてエメから僕のことが見えないかと思って、部屋の近くまで行ったが、衛兵達が立ちはだかり、衝立(ついたて)にも阻まれた。


僕は違う方法でエメに思いを伝えられるかもしれない方法を思いついて、今度は厨房へと来ていた。



昼食まではまだ時間があるが、エメの側にいる従者達の食事まで準備をしている厨房は慌ただしい様子だった。でも、僕は少しでも早く考えていることを実行したかった。


「忙しいところすまないが、シェフと話したいんだが」


厨房の中へ声を掛けると、シェフが廊下へと出てきてくれた。


「坊ちゃん、お怪我は大丈夫ですか?お呼びいただければ伺いますのに。こんな所まで、どうかされましたか?」


「シェフにお願いがあって…」


「坊ちゃんのお願いなんて久しぶりですね。私にできることでしたら、なんでも仰ってください」


後ろの料理人達はバタバタと忙しそうなのに、シェフは落ち着いた口調で応対してくれ、僕の感じていた不安が少しだけ軽くなるようだった。


「王女殿下の料理も、ここで準備すると聞いたのだが」


「はい、しております。ちょうど今から殿下の昼食のご用意をするところなんですが、あまりお口に合わないようで…」


「いや、口に合わないってことはないと思う。前にエメにパイやクッキーを持っていったときは、すごく美味しそうに食べていたよ。きっと今は食欲がないんだ…」


「では、どうしたらいいでしょうか」


「それなんだが、パンケーキとミルクティーを用意してくれないだろうか」


「パンケーキとミルクティーですか?」


「ああ、パンケーキはバターと蜂蜜をかけて、ベリーのジャムがあればたっぷり添えてほしい」


「はい、ベリーのジャムもございます。たっぷりですね」


「ミルクティーはできるだけ大きなカップに入れてくれ」


僕がそう言うと、シェフは笑顔で「お任せください」と答えてくれた。


「他の準備もあるだろうに、急に申し訳ない」


「とんでもございません。私共でもメニューを工夫していたのですが、あまりお召し上がりいただける状況ではなく…。王女殿下に坊ちゃんの思いが伝われば、召し上がっていただけるかもしれないですね」


「そうだといいんだが…」


「では早速、準備いたします。坊ちゃんにも同じものをお出ししたらよろしいですか?」


「えっ?」


自分の分なんて考えていなかった。でも、エメと一緒のものを食べられると考えたら、嬉しくなった。


「頼んでもいいだろうか?」


「ええ、もちろんでございます」


シェフも、そして話が聞こえていた近くの料理人達も僕に笑顔を向けて頷いてくれた。


「じゃあ、よろしく頼む」


僕は自室へ向けて歩き出した。



僕が森で怪我をして看病してもらっていた時に一緒に食べたパンケーキを、エメは思い出してくれるだろうか。大きなカップにミルクティーを用意したら、僕が考えたことだと伝わるだろうか。


たとえ気づかなかったとしても、エメが好きなものを一口でも食べてほしいと思った。何も喉を通らなければ、いずれ倒れてしまうのではと怖かった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


昼食は、リクエストした通り、僕にもパンケーキとミルクティーが運ばれてきた。エメが作った方が美味しかっただなんて、シェフには失礼なことを思ったが、エメと同じ食事ができることに感謝して食べた。



食事を終えてしばらくして部屋にやって来たラリーが、エメはパンケーキを三分の一程食べ、ミルクティーはカップが空になって戻ってきた、と教えてくれた。


次は何を作ってもらおうか。


ミートパイはもう少し食べられるようになってからの方がいいかもしれないな。


肉団子入りのシチューなら食べやすいかもしれない。


あ、紅茶入りのカップケーキもシェフなら作れるだろうか。


エメが小屋で作ってくれたものも、師匠との剣術の練習の後に用意してくれた食事も、思い出の料理はたくさんある。


あとでシェフにパンケーキのお礼を伝えに行って、次の食事の相談もしよう。料理が運ばれるたびに、僕がエメを思っていることが少しでも伝わるよう願いながら。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


僕は、またエメが過ごす客間の大きな扉の前に来ていた。


ここに来る前に、庭や屋敷の別の棟からエメの部屋を(うかが)えないかと思ってあちこち回ってみたが、どこも既に衛兵が立っていて、近寄れなくなっていた。エメの身は守られていて安心だが、僕は誰にも聞こえないように舌打ちした。


そして結局、客間の扉の前に来たというわけだ。


姿が見えることもないし、すり抜けて部屋へ入り込むような隙もないけれど、少しでも側にいたかった。


この扉を守る衛兵達が、屋敷の馬鹿息子が暇さえあればここに来るとぼやいたらエメの耳に届くかなぁ――と思ってから、それこそ馬鹿なことを考えてるなぁ、と自分で呆れた。


僕の動きに警戒する衛兵達に一礼してその場を離れた。エメに会うのを阻む苦々しい存在ではあるが、彼女の周りを常に警護してくれる大切な存在でもある。


さて、食事以外で何かエメにできることはないかと考えながら、自室へと足を向けた。

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