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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
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森の小屋で待つ時間

静まり返った部屋の中、寝台の上で座ったまま身動きが取れない僕は、ただジュディさんが帰ってくるのを待つしかなかった。寝起きすら手伝ってもらわないとできないなんて情けない。


他にできることもなく、改めて周りを見回していた。



僕の左側、部屋の角にある寝台とは反対側の壁寄りには小さめのテーブルと椅子が二脚、その向こうに大きな窓がある。家のすぐ前は木が立っていないので陽の光が入り、部屋の中まで明るい。


その窓と並ぶように、壁の中央より少し右にモスグリーンの玄関扉がある。真鍮のドアノブが鈍く光っている。


玄関扉の向こうにも、もう一つ小さめの縦長の窓がある。ジュディさんが来訪者の確認をしていた窓だ。


寝台の足元の方の壁際の中央あたりには、天井近くまでの高さの大きな棚があり、いろいろな本や部屋の中で使う道具を入れたカゴが収まっていた。


その棚の近くの天井からは、いろんな種類のドライフラワー……というか草の束がぶら下がっている。薬草だろうか?


寝台側の壁には二つの扉がある。どちらの部屋もここから中が見えないが、奥の扉が空いている方はさっきエメが運ばれた部屋で、手前はおそらくキッチンがあると思う。


寝台の右手、壁との間にはサイドテーブルがあり、僕のために水差しとコップが置いてある。自分ではコップに水を注げないけど。


「いててて…」


振り返ってベッドのヘッドボードの左側に並ぶようにある窓の外を見ようと思ったが、やっぱり痛くて無理だった。木々が迫っているようで、ここからはほとんど陽は差し込まず、昼間も寝台の周りは程よく薄暗い。


この窓のすぐ向こうに小川が流れているのか、水が流れる音もまた眠気を誘いそうだ。けれども、今はその音がなんだかはっきり聞こえていた。


こうして一人になると、部屋がやけに広く感じた。



部屋を一通り見終わると、またやる事がなくなってしまった。正面の棚の本のタイトルでも確認しようかと思った時、ジュディさんが帰ってきた。


「ジュディさん、おかえりなさい」


「ああ、ただいま。気分はどうだい?」


「はい、大丈夫です」


「そうかい。それならよかった」


そう言いながら、ジュディさんはエメが寝ている部屋に歩いていった。


僕はその姿を目で追って体を少し伸ばしたが、脇腹あたりにピリッと痛みが走った。「くぅぅ…」と歯を食いしばって、声を上げるのを耐え、ふぅとため息を吐いた。



ジュディさんがその部屋に入ると、「ん…かあさん?」とエメの寝起きの感じがする小さな声が聞こえた。


「起こしちゃったかい、ごめんね」


「私……」


エメはまだ状況が飲み込めていないようだ。


「あんた、ラリーさんを送る途中で倒れたんだよ」


「…そうだった……ラリーさんは?…ルゥは?」


エメは、自分が倒れてもまだ僕のことを心配してくれている。申し訳ない……


「ラリーさんは私が送っていったよ。それから、ルゥはベッドで休んでる。あんたは少し休みなさい。ルゥはあんたが心配で、見えもしないこの部屋の様子を伺おうと動いては痛がってるよ。早く元気になって顔を見せておあげ」


ジュディさんに全部バレてる。恥ずかしい……


「はい、かあさん」


「熱がだいぶあるね。これ熱冷ましだから飲んでおきな。寒くはないかい?」


「ん、大丈夫。ありがとう」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


会話が途切れてしばらくしてから、ジュディさんが戻ってきた。エメは眠ったんだろうか。


「エメは?」


「大丈夫だよ。薬を飲んで寝たら、熱も下がるんじゃないかね。すまないね、いらない心配を掛けて」


「どう考えても僕のせいです…」


「ははは、そんな落ち込まないよ。なら、早く元気になって、あの子を安心させてやってくれるかい?


さあ、ラリーさんが持ってきてくれたミートパイを頂こうかね。ルゥはどうするかい?スープの方がよければまだ残ってるよ」


「ミートパイをお願いします」


「食欲があるんだね。じゃあ、用意するね」


ジュディさんは、にっこり笑って部屋を出ていった。程なくして、切り分けたミートパイと紅茶を入れたカップをトレーに乗せて戻ってきた。


僕の膝の上にトレーを乗せた。


「痛くないかい?」


「はい、大丈夫です」


そしてジュディさんは、自分の分を持って窓際のテーブルに座って食べ始めた。


「あら、これは美味しいね」


我が家のミートパイを褒めてもらって、僕が作ったわけじゃないのになんだか嬉しくなった。


僕も自由になった右手の三本指でフォークを持って、ミートパイを口に運んだ。


「僕の昔からの好物なんです。小さい頃は何か食べたいもの、と聞かれたらミートパイしか言わなかったと笑われるくらい」


懐かしい思い出と、食べ慣れた味、そして、ジュディさんがそこにいることにほっとしていた。そこで初めて、一人で待つことに心細く感じていたことに気づいた。


―――本当に情けないな…。


「ルゥ?」


ジュディさんの呼びかけに、ハッと顔を上げた。いつの間にか、下を向いて考え込んでいた。


「あ、ごめんなさい」


「何も謝ることはないんだよ。怪我をして動けないと、どうしても落ち込んだり、心細くなったりするだろうけど、気にすることないよ」


「でも…、ご迷惑をかけてばかりだし…」


「じゃあ、怪我が治ったら、何か手伝ってもらおうかね。薪割りとか」


「はい、ぜひ」


「今回のあなたの休暇中は無理そうだから、気長に待っておくよ」


そう言ってジュディさんは快活に笑った。その笑い声は僕の沈んだ気持ちを少し軽くしてくれた。

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