森の小屋で待つ時間
静まり返った部屋の中、寝台の上で座ったまま身動きが取れない僕は、ただジュディさんが帰ってくるのを待つしかなかった。寝起きすら手伝ってもらわないとできないなんて情けない。
他にできることもなく、改めて周りを見回していた。
僕の左側、部屋の角にある寝台とは反対側の壁寄りには小さめのテーブルと椅子が二脚、その向こうに大きな窓がある。家のすぐ前は木が立っていないので陽の光が入り、部屋の中まで明るい。
その窓と並ぶように、壁の中央より少し右にモスグリーンの玄関扉がある。真鍮のドアノブが鈍く光っている。
玄関扉の向こうにも、もう一つ小さめの縦長の窓がある。ジュディさんが来訪者の確認をしていた窓だ。
寝台の足元の方の壁際の中央あたりには、天井近くまでの高さの大きな棚があり、いろいろな本や部屋の中で使う道具を入れたカゴが収まっていた。
その棚の近くの天井からは、いろんな種類のドライフラワー……というか草の束がぶら下がっている。薬草だろうか?
寝台側の壁には二つの扉がある。どちらの部屋もここから中が見えないが、奥の扉が空いている方はさっきエメが運ばれた部屋で、手前はおそらくキッチンがあると思う。
寝台の右手、壁との間にはサイドテーブルがあり、僕のために水差しとコップが置いてある。自分ではコップに水を注げないけど。
「いててて…」
振り返ってベッドのヘッドボードの左側に並ぶようにある窓の外を見ようと思ったが、やっぱり痛くて無理だった。木々が迫っているようで、ここからはほとんど陽は差し込まず、昼間も寝台の周りは程よく薄暗い。
この窓のすぐ向こうに小川が流れているのか、水が流れる音もまた眠気を誘いそうだ。けれども、今はその音がなんだかはっきり聞こえていた。
こうして一人になると、部屋がやけに広く感じた。
部屋を一通り見終わると、またやる事がなくなってしまった。正面の棚の本のタイトルでも確認しようかと思った時、ジュディさんが帰ってきた。
「ジュディさん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。気分はどうだい?」
「はい、大丈夫です」
「そうかい。それならよかった」
そう言いながら、ジュディさんはエメが寝ている部屋に歩いていった。
僕はその姿を目で追って体を少し伸ばしたが、脇腹あたりにピリッと痛みが走った。「くぅぅ…」と歯を食いしばって、声を上げるのを耐え、ふぅとため息を吐いた。
ジュディさんがその部屋に入ると、「ん…かあさん?」とエメの寝起きの感じがする小さな声が聞こえた。
「起こしちゃったかい、ごめんね」
「私……」
エメはまだ状況が飲み込めていないようだ。
「あんた、ラリーさんを送る途中で倒れたんだよ」
「…そうだった……ラリーさんは?…ルゥは?」
エメは、自分が倒れてもまだ僕のことを心配してくれている。申し訳ない……
「ラリーさんは私が送っていったよ。それから、ルゥはベッドで休んでる。あんたは少し休みなさい。ルゥはあんたが心配で、見えもしないこの部屋の様子を伺おうと動いては痛がってるよ。早く元気になって顔を見せておあげ」
ジュディさんに全部バレてる。恥ずかしい……
「はい、かあさん」
「熱がだいぶあるね。これ熱冷ましだから飲んでおきな。寒くはないかい?」
「ん、大丈夫。ありがとう」
◇ ・ ◇ ・ ◇
会話が途切れてしばらくしてから、ジュディさんが戻ってきた。エメは眠ったんだろうか。
「エメは?」
「大丈夫だよ。薬を飲んで寝たら、熱も下がるんじゃないかね。すまないね、いらない心配を掛けて」
「どう考えても僕のせいです…」
「ははは、そんな落ち込まないよ。なら、早く元気になって、あの子を安心させてやってくれるかい?
さあ、ラリーさんが持ってきてくれたミートパイを頂こうかね。ルゥはどうするかい?スープの方がよければまだ残ってるよ」
「ミートパイをお願いします」
「食欲があるんだね。じゃあ、用意するね」
ジュディさんは、にっこり笑って部屋を出ていった。程なくして、切り分けたミートパイと紅茶を入れたカップをトレーに乗せて戻ってきた。
僕の膝の上にトレーを乗せた。
「痛くないかい?」
「はい、大丈夫です」
そしてジュディさんは、自分の分を持って窓際のテーブルに座って食べ始めた。
「あら、これは美味しいね」
我が家のミートパイを褒めてもらって、僕が作ったわけじゃないのになんだか嬉しくなった。
僕も自由になった右手の三本指でフォークを持って、ミートパイを口に運んだ。
「僕の昔からの好物なんです。小さい頃は何か食べたいもの、と聞かれたらミートパイしか言わなかったと笑われるくらい」
懐かしい思い出と、食べ慣れた味、そして、ジュディさんがそこにいることにほっとしていた。そこで初めて、一人で待つことに心細く感じていたことに気づいた。
―――本当に情けないな…。
「ルゥ?」
ジュディさんの呼びかけに、ハッと顔を上げた。いつの間にか、下を向いて考え込んでいた。
「あ、ごめんなさい」
「何も謝ることはないんだよ。怪我をして動けないと、どうしても落ち込んだり、心細くなったりするだろうけど、気にすることないよ」
「でも…、ご迷惑をかけてばかりだし…」
「じゃあ、怪我が治ったら、何か手伝ってもらおうかね。薪割りとか」
「はい、ぜひ」
「今回のあなたの休暇中は無理そうだから、気長に待っておくよ」
そう言ってジュディさんは快活に笑った。その笑い声は僕の沈んだ気持ちを少し軽くしてくれた。




