踏み荒らされた森
殿下にいただいた許可証に記された二箇所で馬を乗り継ぎ、翌日の日が暮れ始めるより前にフィレイナード騎士団の拠点へと着いた。
乗り継ぎの際に携帯食を口にする以外は、ほとんど休憩も取らずに走り続けてきたから、今にも倒れ込んで休みたいところだが、今からがエメを助ける本番だ。
「サドラー班長!どうされたのですか!」
僕らに気づいた団員達が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「水…、あと、すぐに食べられる物をくれ…、はぁ…」
「はい!少しお待ちください」
エドウィンが息を切らしながら、近くにいた兵に頼むと、その兵は建物の方へ走っていった。
「エド…、はぁ…、大丈夫か…?」
僕も息が切れていた。最後の方、フィレイナード領に入ってからここまでは、馬から落ちないよう必死だった。エドウィンは、休憩なしの無茶な移動に一言の文句を言う事なく、ここまで着いてきてくれた。
「あー、尻が痛い…」
笑いながらそう言うエドウィンには、感謝しかなかった。
馬を近くに繋いでおくよう別の兵に預けると、さっきの兵が皿やコップを乗せたトレーを手に戻ってきた。
「班長、こちらを。ちょうど夕食の支度をしているところで、少しもらってきました」
そう言って差し出された皿には、肉と野菜の串焼きが乗っていた。
「ありがとう、助かった。さあ、リュウも食え。力を付けないとな」
「ああ、ありがとう。いただきます」
僕が串を一本取って肉を食べ始めると、「あっ」と料理を運んできた兵が僕に気づいて声を上げた。
「リュウ様ではないですか。今日はどうされたのですか?先程も近衛兵団が…」
「ここへ来たのか?」
エドウィンが肉を頬張りながら、険しい顔で聞く。僕も食べながら、その話を聞いた。
「はい、ある娘を探しているとかで絵姿を見せられました。私は知らない顔でしたが、一人がコルンの街中で見たことがあると…」
「そう答えたのか⁈」
僕は思わず、身を乗り出して聞いていた。
「は、はい。それで、近衛兵団はコルンに向かうと言って、ここを立ち去りました。そのすぐ後に、レオン殿がお一人で慌てた様子で出ていかれ、マーク殿が団員を連れて後を追われました。我々は、サドラー班長かシュライトン家の指示があるまで待機と言われまして…、一体、何があったのですか?」
エドウィンは僕の方を見た。どこまで話すべきか、迷っているようだった。
「エド、僕から説明するよ」と言って、上着の内ポケットから、殿下からの命令書を出すと、騎士団員達の前に立った。
「皆、聞いてほしい。
フィレイナード領内の森に住む少女が、我が国の王女である可能性が高いことがわかった。
先に到着している近衛兵団は、宰相の指示を受け、宰相及びその縁者の私腹を肥やすために、王女を利用するために捕えようとしている。
ここに、アレン皇太子殿下からの命令書を賜っている。殿下は、この国と王女の幸せをお考えである。
命令書に従い、王女を救出し、我がシュライトン邸にて保護することに力を貸していただきたい」
僕の横に、エドウィンが立った。
「私も殿下からの命を受け、急ぎここへ戻ってきた。準備出来次第、すぐに出発する!」
「「はっ!」」
待機していたエドウィンの班の兵達が、手際よく準備を始めた。僕とエドウィンも、串に刺さった残りの肉を口に入れ、急いで馬を取りに戻った。
僕が馬に乗ろうとした時、一人の兵が声を掛けてきた。
「あの、リュウ様、その格好では敵方と見分けがつきませんので、こちらを着けていただけないでしょうか」
彼は、フィレイナード騎士団の戦闘服を手にしていた。確かに、僕は相手方と同じ近衛兵の制服を着ている。
「貴殿の言う通りだ。ありがとう」
僕はその戦闘服に着替えた。兜はいらないだろうと思ったが、エドウィンに「お前の顔、向こうに知られてるんだろう」と言われ、それも着けることにした。
皆の準備が整ったことが報告された。
「森のことはお前が一番詳しいだろう。先導してくれ」
そうエドウィンに言われ、僕は頷き、馬を森へ向けて走らせた。その後ろにエドウィン、そして兵達を引き連れて。
◇ ・ ◇ ・ ◇
森に着くと、いつもと様子が違った。下草が踏み荒らされ、あちこちから大勢の者が入っていった跡がある。
寒気と言うべきか、怒りと言うべきか、全身を言葉に表せない感覚が駆け巡った。
―――エメはどこに?
神経を尖らせて、彼女の気配を探る。
―――家にいるのか?
そして森への侵入者達へと意識を向ける。まだ森に入って間もないようだ。小屋は見つけたようだが、森の奥にある家まで辿り着いた者はまだいない。ただ、時間の問題で、先回りするのは難しそうだ。
エメは間違いなく侵入者達の気配を感じているはずだ。奴らに出くわす前に、逃げてくれることを祈るしかない。
「エド、エメがいると思う場所へ、とにかく急いで向かう。着いてきてくれ」
「わかった」
エドを含め五人の兵が僕と行動を共にし、他の者達も分かれて侵入者の確保へと向かう。
僕は、大きく息を吐き気持ちを落ち着けると、森へと一歩踏み入れた。
その途端、足元に急に冷たい風が流れてきたかと思うと、辺りは白く霧に包まれ始めた。




