思い出のリボン
「ジュディ様、エメ様の寝台はどちらに?」
エメを抱えたラリーは、ジュディさんの後ろをついて、僕がいる部屋を横切って隣の部屋へと向かった。
「疲れが出たんだね、ご迷惑をお掛けしてすみません。取り敢えず、こちらに寝かしてやってくれますか」
「いいえ、エメ様にも、ジュディ様にも、ご迷惑をお掛けしているのはこちらの方です」
―――いったいエメはどうしたんだろうか…。ラリーを連れてきてから様子がおかしかったけど、あの時から体調が悪かったんだろうか?
寝台の横を通る時に、ラリーに抱えられたエメの顔を見ようと少し伸びあがったら、また体のあちこちが痛かったが、なんとか声を上げるのは堪えた。今、心配されるべきは僕じゃない。
僕のところからは、隣の部屋は見えない。すごく気になるが、落ち着くまでは大人しく待つことにした。
ラリーが隣の部屋へ入った途端、少し驚いた声でジュディさんに聞いた。
「寝台はないのですか?」
「ええ、この小屋は普段はあまり寝泊まりしないから、寝台は一つしかないんですよ」
「でも、このソファでは足を伸ばして寝られないではないですか…」
「しばらく休めばこの子は大丈夫だと思うから、ここに寝かしてやってください」
―――そんな……、この小屋に一つしかない寝台を僕が占領していて、エメは碌に休めないまま僕の看病をしたり、ラリーが森で迷わないように送り迎えをしてくれていたなんて。
僕は申し訳なさでいっぱいになった。
そこへラリーが隣の部屋から出てきた。
「ラリー、僕はすぐにでも屋敷へ移るべきじゃないだろうか」
それに返事をしたのはラリーではなく、ジュディさんだった。
「馬鹿なこと言ってないで、あなたは安静にして早く治すことだけを考えなさい。無理して動いて悪化でもしたら、それこそあの子が悲しむよ」
「でも……」
「あなたが助かるとわかった時、あの子は本当に嬉しそうで、私が驚いたくらいだよ。これまであの子が人に気持ちを寄せることなんてなかったからね。
だから、ここでしっかり休んでから帰ってほしいと思ってるよ」
「………いいんですか?」
「せっかく助けたんだから、元気になってほしいんだよ、エメも私も。だからあなたは遠慮しなくていい」
「はい……、ありがとうございます」
―――本当にいいんだろうか。
「あの、」
今度はラリーが遠慮がちに口を開いた。
「我が家にある寝台を一つこちらにお持ちしてもいいでしょうか。できるだけ小さいものにしますから。
それでもお邪魔になってご迷惑でしょうけど…」
「じゃあ、お願いしようかね。その方がルゥも遠慮せず休めるだろうしね。森を出るところまでは私が案内するよ。
……そうだ、ちょっと待っててくださいな」
そう言ってジュディさんは隣の部屋からリボンの束を持ってきた。肩幅ほどの長さで、赤、黄、青の色ごとに20本ずつくらいあるようだった。
「ジュディさん、これは?」
僕は思わず聞いた。するとジュディさんは「懐かしいねぇ」とリボンを見てから、僕の疑問に答えてくれた。
「エメが小さい時に迷子にならないように使っていたものだよ。木の枝に結んで、目印にしてたんだ。今日は赤にしようかね」
「エメも迷子になってたんですか?」
「ああ、何度も迷子になって、探し回ったものだよ」
「そうなんですね。小さい時から森の妖精のように飛び回っていたのかと」
驚く僕を見て、ジュディさんは笑った。
「ははは、慣れたところでは飛び回ってたね。でも、すぐにそこを外れて迷子になっては泣いてたよ。さあ、ラリーさん、行きましょうか」
「はい、よろしくお願いいたします」
◇ ・ ◇ ・ ◇
ジュディさんとラリーが二人で出掛けてしまうと、家の中は静かになって、外の鳥の声、川や木々の葉が揺れる音が聞こえてきた。
戸を開けたままの隣の部屋には、エメがいる。こんなに近いのに、顔を見に行くこともできないのがもどかしかった。側で様子を見てあげたいのに。
少しだけでも部屋を覗くことができないかと体を起こしてみようと思ったが、やっぱり痛みが走って、体が「やめておけ」と言っているようだった。
まずは休んで治すこと。エメに何かしたいのならそれからだ。情けないけれど、自分にそう言い聞かせた。




