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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第6章 冬の訪れ
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書類整理(前編)

「今日もまた冷えるな…」


僕は独り言を言いながら、肩をすくめて廊下の窓から外を見た。季節はすっかり冬へと移っていた。木々は葉を落とし、つい先日は、初雪がチラッと降っていた。


今日は、夕方から野外訓練のため、朝から昼過ぎまでは自由時間だ。冬の林の中で野営するなんて、考えただけで体が冷えてくる。そのため、訓練の時間までは、ほとんどの者は温かい室内でのんびり過ごしているはずだ。


僕もそのつもりで城内を歩いていた。図書室の大きな暖炉の前で本でも読もうかと。



廊下を歩いていたら、前に大量の書類の束を抱えて歩くニコラが見えた。僕は小走りに追いかけて彼に並ぶと、驚かさないように声を掛けた。


「ニコラ、久しぶり。少し持つよ」


「あ、リュウ。久しぶり。運んでくれるの?助かるよ。二回に分けて運べばよかったと思ってたところなんだ」


彼が手にしている書類の上から半分くらいを取って抱えた。ニコラは重そうにしているが、僕はまだ余裕があった。更にもう半分の書類を自分が抱える書類の上に乗せた。


「あ…ありがとう。そんなに持って重くない?」


「平気だよ。全部持とうか?」


僕は少し意地悪く聞いた。


「いや、格好がつかないから、僕にも持たせてくれ」


「はははは、じゃあ、残りはニコに任せるよ」


「リュウ、随分逞しくなったな。やっぱり鍛えてると違うね」


ニコラとゆっくり話すのは、思えば久しぶりだ。彼の穏やかな話し方に学生の時に戻ったような気分になった。


「それで、どこまで運ぶの?執務棟?」


「ああ、どこか空いてる部屋でこの書類の整理をしようと思って」


執務棟は各部署の大部屋があり、文官は基本的にはそこで働いている。他に、大小様々な部屋があり、会議や個別作業を行うことができる。ニコラはそのうちの小さな部屋で、集中して作業をするつもりなのだろう。


「なんの書類なの?…あっ、差し障りなければ」


扱う内容によっては機密事項もあるだろう。気軽に聞いてから、僕は少し慌てた。それを見て、ニコラは笑って答えた。


「今回は何も秘密にするようなことはないよ。先の流行病の死亡者を洗い直すことになってね」


「死亡者を?」


「なんでも、当時の混乱に乗じて死者を水増しして、納税を免れている者がいるから、その不正を洗い出すように、と宰相直々に命じられたようでね」


「宰相が?………たとえそんな不正があったとしても、件数はわずかだろうに。調べる労力をかける価値があるのかなぁ…」


宰相――ブルック侯爵は国王陛下が若い頃からの最側近だ。陛下がお元気な頃は、とても有能で陛下も頼りにされていたようだが、陛下が病に倒れてからは、陛下の権限を我が物顔で振りかざすようになったとアレン殿下が苦々しそうに話されるのを聞いたことがある。


僕が疑問を口にすると、ニコラは諦めたように笑った。彼もそんなことは()うに考えていたのだ。


「……命令だからね。まあ、既に個別の調査は済んでいるから、それを報告用にまとめるだけなんだ」


「じゃあ、手伝うよ。僕、昼過ぎまで暇だし」


「そんな、リュウの自由時間だろう。悪いよ」


「昼食(おご)ってくれたら、どうってことないよ」


「ははは、わかったよ。じゃあ、手伝ってもらおうか」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ニコラが「ここにするよ」と言って入っていった部屋に僕も続いて入り、中央にある大きなテーブルに書類を置いた。


その書類をニコラが手際よく左右に分けていく。僕はそれを横から眺めていた。


実際に調査を行った時に書き込んだと思われる書類が数十枚ごとに紐で束ねられている。それを添えられたメモを見ながら、右へ、左へ…。


「ニコ、何を基準に分けてるの?」


「ん?ああ、これね。右が疑いなしで、左は死亡が間違いだったり、再調査が必要なものだよ」


「それで右の方が多いんだね」


「ああ、そうなんだ。やっぱり死亡を偽っていることはそんなになくてね。死亡届が間違って出されてて、本人が知らず生活してたりする程度なんだ」


ニコラは、僕の疑問に答えながらも、手は休めずに書類を分けていく。


「死亡届が出されてて、十年以上も気づかないものかい?」


「農民とかは、戸籍を確認するのなんて、結婚とか子供が生まれたとか限られた時だけなんだ。だから、そういった時期を過ぎた者は、次に戸籍を見るのは死亡届、ということも少なくないから気づかなくても不思議じゃないらしい」


「納税逃れでも気づかなかったのか?」


「それはね、領主が戸籍じゃなくて、実際に何人で生活しているかを把握して税を課してる所が多いんだよ。死亡を誤魔化すことは少なくても、出生届を出さずに子供の数を少なく見せようとすることはよくあるみたいで、領主らはあまり戸籍を当てにしていないのさ」


「なるほどね。じゃあ、ますます、今回の調査対象に当てはまる事例は少なそうだね」


「そうなんだよ。今回の調査の目的がいまいちわからないんだよね…」


そう首を傾げながら、ニコラは手にした書類の束を振った。


確かに調査の目的もよくわからないし、それをニコラが所属する王城直轄の部署に命じるのも不可解だ。普通なら、王都にあるいずれかの騎士団に調査、報告をさせるような内容だろう。


―――この調査は、宰相直々の命令だと言っていた。宰相が、もしくは国王派が、流行病の混乱に乗じて身を隠した誰かを急いで洗い出したいとか………


そう考えて、ドキッとした。エメ達が当てはまるのだ。さすがに宰相を敵に回して逃げたのは、他の誰かだろうと思うが…。



「ふぅ、整理できた。リュウ、多い方で悪いが、右側を頼めるだろうか。このリストに漏れがないか確認してほしいんだ」


ニコラが、きれいに紐で綴じられた報告用と思われるリスト数冊を僕に手渡してきた。


「ああ、いいよ。死亡に関して疑いなしの分だね」


僕は、この調査の意図の可能性に動揺しそうなところをぐっと押し込めて、そのリストを受け取った。

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