国王派と皇太子派
収穫祭からひと月ほどが経ち、吹きつける風が冷たくなってきた頃、王家の晩秋の行事である鷹狩りが行われた。
国王陛下がご病気となられてから十年以上開催が見送られてきたが、皇太子殿下が成人を迎えられ、今年からまた恒例行事として復活することになったのだ。
皇太子殿下と公爵家当主らが狩りを行い、近衛兵が護衛兼、狩りの補佐を行う。
近衛兵団には五つの班があり、第一班には国王の、第二班には皇太子の側近が所属し、それぞれ専属で護衛をする。
今日の鷹狩りも、皇太子殿下の護衛には第二班が当たる。国王陛下はご病気で狩りには出られないので、宰相と関係が深いロックウェル公爵が代理を務められるが、第一班の近衛兵は陛下のお側を離れないので、公爵の護衛は国王派の第三班から数名がつくようだ。
残りの班の近衛兵は、参加される公爵方の人数に合わせて三、四人ずつ護衛を振り分けられ、僕はウィリアムの父、ウォルシュ公爵の護衛を務めることになった。
ウォルシュ公爵と一緒にウィリアムも狩りに参加するので彼も護衛の一人に数えられ、僕の他にもう一人、僕が所属する第五班の班長デニス・キャスパー侯爵が護衛に選ばれていた。
「デニス殿、おはようございます」
近衛兵団に入団した時に、キャスパー侯爵と呼ぶなと言われたので、デニス殿と呼んでる。面倒見が良く、気さくな方だ。
そのデニス殿が小声で僕に話しかけた。
「リュウ、こういった場は初めてだと思う。一つだけ注意しておくが、くだらないと思っても、決してそれを口にしないように」
こういった場、というのは、国王派と皇太子派が一堂に会する場であろう。確かに、これほど王家に近い貴族だけで国王派と一緒になるのは初めてだ。
「わかりました。でもデニス殿、殿下もいらっしゃる場で、くだらないと言いたくなるようなことは、さすがにないでしょう」
そう僕が笑うと、デニス殿も笑った。「そうだといいのだが」と。
◇ ・ ◇ ・ ◇
獲物を探して馬を走らせるウォルシュ公爵の側を、僕らも騎乗して護衛についていた。公爵の右手側にはウィリアムが並び、その反対にデニス殿、僕は公爵の後方に控えた。
ウィリアムは母親似だと本人から聞いていた通り、公爵とはあまり似ていなかった。ウィリアムが甘い雰囲気を漂わせ、女性から人気があるのに対して、公爵は精悍な雰囲気で、鷹を操る姿が同性の僕も見惚れるほどかっこいいと思った。
狩りが始まると、デニス殿の先程の言葉の意味がすぐにわかった。
狩場を移動していると、しばしば他の参加者と顔を合わす。社交の場であるから、公爵同士は言葉を交わし、護衛はその間は待機する。
国王派の護衛を務める近衛兵らは、わざわざ関わる必要はないのに、やたらと僕のような伯爵家以下の者達を見下し、牽制してくる。
近衛兵団は実力主義のはずだし、少なくとも僕の所属する班で身分で何かを判断されたことはない。
それに対して国王派の近衛兵からは、口から人を蔑む言葉が流れるように出てくる。三班は、ほとんどが宰相に近い立場をとる公爵家や侯爵家の子息で構成されているが、身分で入団者を選んだのか、伯爵家以下の者が愛想を尽かせて辞めていったのではないかと思った。
「___リュウ、大丈夫か?」
呼び掛けられる声にハッと顔を上げた。ウィリアムが僕の方を気遣うように振り返っていた。いつの間にか考え込んでいたようだ。
「ごめん、ウィル。話を聞いてなかった」
「いや、特にこれといって話してないよ。まあ、今日はお前に対して当たりが強いから大変だろう」
「それは、僕だけじゃないだろう」
皇太子派の近衛兵には、伯爵家はもちろん、男爵、子爵家の者も多くいるから、僕と同じように嫌味を言われたりしているんじゃないだろうか。
「そうだけど、お前は卒業前に近衛兵に選ばれて、既に実力はトップクラスだ。更に殿下の信頼も得てるとなれば、あいつらは嫉妬心でいっぱいだろうな。他の近衛兵らにもくだらないことを言ってるが、お前への言葉は、本当に腹ただしい」
「ははは、ウィルがそんなに怒らなくても」
「お前はもう少し怒ってもいいと思うぞ。あいつら、身分の高さを自分の実力だと勘違いしてるからな。自分の言動が品がないことだと何故わからないんだろうな」
僕が言えば問題になりそうな言葉を、ウィリアムが代弁してくれているようだった。
「身分や権利にこだわる人はどこにでもいるしね。それよりも、ウィルみたいに僕の味方をしてくれる人が近くにいる人がいるのを実感して、嬉しい気持ちの方が大きいかな」
「………お前、相当なお人好しだな」
ウィリアムが呆れた顔で僕を見ていた。僕がいつものように「ははは」と誤魔化すような笑い声が漏れそうになった時、ウォルシュ公爵の張りのある笑い声が被さった。
「はははっ、リュウ、其方は噂以上に頭が切れるようだな。あの国王派の勝手な振る舞いを止めるために殿下が動かれようとする今、其方のように冷静に考えられる若い者が、殿下の側にいるというのは心強い」
声はウィリアムとよく似た、心地の良い低い声だ。しかし話口調で印象は変わるもので、落ち着いた威厳も感じるようなその言葉に背筋が伸びた。
「そんな、大層なことは何も…。でも、そのように仰っていただき光栄です」
冷静と仰っていただいたが、諦めと言った方が正しい気もするが、ウォルシュ公爵に認められた言葉を掛けていただき、緊張するやら、恐縮するやら…。
ただ、公爵が仰った通り、宰相やそれに近い国王派と呼ばれる貴族達が、自分達に都合のいいように法を作り替えて私腹を肥やしている現状を変えようとされているアレン殿下をお支えしなければならない。
陛下が病床に伏されているのをいいことに、好き勝手にしていたところに、アレン殿下が力を付けられて、彼らの悪事を正そうとしているのを、宰相らはかなり面白く思っていないのは明らかだ。殿下の王位継承をなんとか阻止しようと画策しているとまで噂されている。
殿下の御身をお守りし、成し遂げられようとされることのお力になれるよう、力を尽くそうと決意を新たにした。




