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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
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執事の訪問

「傷口はどれも問題なさそうだね。(ひね)って腫れた所も2、3週間で治ると思うよ。怪我の具合から見ると結構な勢いで落ちたと思うけど、骨折してなくてよかったね。


ただ、今は振動が傷に響いて痛むと思うから、移動するのはもう少し先の方がいいだろうね」


そう言ってジュディさんは手際よく包帯を巻き直してくれた。


「はい、終わったよ」


「ありがとうございます」


僕は巻き直された包帯を繁々と見ていた。特に右手の。


「どうかしたのかい?」


「あ、いや、包帯がスッキリしたなと思って…」


それを聞いてジュディさんは大笑いした。


「さっきのエメが巻いたのは何かの(さなぎ)みたいだったね」


右手は手のひらも全ての指もまとめてぐるぐる巻きにされていた。それをジュディさんが、傷が深い手のひらと薬指、小指だけに包帯を巻いてくれたので、自由になった残りの三本指でスプーンも持てそうだ。



そんな話をしている時に、エメが我が家の執事ラリーを連れて戻ってきた。


「ラリーさんをお連れしました」


なんだか改まったエメの話し方に少し驚いた。エメは扉を大きく開けて「どうぞ、お入りください」とラリーへ声を掛けた。


ラリーが「ありがとうございます」とお礼を言い部屋に入るとすぐに寝台に座る僕の元に駆け寄ってきた。


「坊ちゃん、よくご無事で。旦那様と奥様をはじめ、家の者皆がどれほど心配をしたことか……」


「…ごめんなさい」


「いえ、坊ちゃんが謝る必要はございません。猟場の柵が倒れておりました。周辺に残った足跡からイノシシが倒したようで、おそらくそこから森に迷い込まれてしまったのかと」


「そうだったのか…」


「昨日の診察で、もうしばらくこちらで傷の状態が落ち着いてから移動した方が良いとのことでしたので、お着替えや身の回りの物をお持ちしました。他にご入用の物がありましたらお申し付けください」


「ありがとう、ラリー」


ラリーは僕の寝巻などが入っているであろう小さめの旅行鞄を寝台の横に置いた。そして、もう一つ手にしていた籠から出した包みをジュディさんに渡した。


「こちらは昨日、お医者様に言われたお薬と包帯などです。また足りなくなりましたら仰ってください」


ジュディさんは包の中身を確認した。


「はい、これだけあれば当面は十分です。ありがとうございます」


「あとこちらは坊ちゃんが好きなミートパイとクッキーです。よろしければ、皆様でお召し上がりください」


と、その籠ごとジュディさんに渡した。


「あら、嬉しい。お茶でも飲んで行かれますか?」


「いえ、私は戻らねばなりませんのでお気持ちだけ。ありがとうございます」


「ラリー…」


そろそろ帰ろうとするラリーに僕は声を掛けた。


「はい、坊ちゃん。なんでしょう」


「父上に心配を掛けて申し訳ありません、と伝えてくれるだろうか」


「はい、確かにお伝えいたします。旦那様も壊れた柵のことはご存知ですので、坊ちゃんが森に入られたことを怒ってはいらっしゃいませんよ。その点は気になさらず、しっかりとこちらで静養させていただいて屋敷へお帰りください」


僕が父上に怒られるかもと心配していることを見透かされていた。


「ありがとう、ラリー」


そして、僕はもう一つ付け加えた。


「あと、外で坊ちゃんと呼ぶのはやめてくれないだろうか…」


その言葉にラリーはハッとした顔をした。


「あっ、申し訳ございません、ぼっ、リュウ様。私も気が動転していたようで、つい……」


「いや、僕こそ心配を掛けてすまなかった」


「本当に、ご無事でよかったです。ジュディ様、エメ様には、本当に心より感謝申し上げます」


そう言ってラリーはジュディさんとエメに向かって、深々と頭を下げた。


「もう、何度もいいですよ。私達も彼を助けることができてホッとしていますから。あと一週間くらいかね、落ち着くまではこんな小屋だけど、しっかり休んでください」


「ありがとうございます、ジュディ様」


ラリーはもう一度お礼を言うと、エメの方を向いた。


「エメ様、毎回申し訳ありませんが、帰り道もご案内をお願いできますか」


「はい、かしこまりました」


すごく久しぶりにエメの声を聞いた。やっぱり話し方が全然違う。表情も硬い。緊張…?警戒しているのだろうか。


「エメ」


僕はエメに声を掛けた。


「ラリーの案内まで任せてごめんね」


「ううん、大丈夫よ。いってきます」


エメは小さく微笑んで「では、参りましょうか」とラリーに声を掛けて、戸口から出ていった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ジュディさんはエメが戻ったらお茶にしようと部屋を出ていったので、僕はひとり寝台の上でぼんやりしていた。


静かになってうとうとしてきた時、ジュディさんが少し急いだ様子で部屋に戻ってきた。と同時に板張りの玄関ポーチの階段をドスドスと上がる大きな足音がした。ジュディさんは、玄関横の窓から外を確認してすぐに扉を開けた。


入ってきたのは、ぐったりしたエメを抱えたラリーだった。

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