エメの行きたい場所
「わぁ、すごく豪華だね。今日も美味しそうだ」
ダイニングテーブルに並べられた料理は、盛り付けにも工夫を凝らし、食べきれるだろうかと思うほど、たくさんの品が並んでいた。
「ルゥのおうちの料理の方が豪華でしょう?」
「確かにシェフが晩餐会に用意する料理とかは豪華だけど、僕はエメの料理の方が好きだよ。僕、料理しないからよくわからないけど、こんなに用意するの、大変だっただろう?」
「ルゥが喜んでくれるかしらと思ったら、楽しかったわ。美味しいといいのだけど」
「いつもエメの料理は美味しいよ」
「ルゥはやっぱり優しいわ。ありがとう。さあ、食べましょう」
エメは僕の言葉がお世辞だと思っているようだ。「本当に美味しいと思ってるのに」とぶつぶつ言いながら僕は席に着いた。
すぐに奥のキッチンにいたジュディさんが、スープを運んできてくれた。そして少し遅れて師匠もやってきて、皆で料理を食べ始めた。
明日、朝早くに王都へ戻らないといけないため、この休暇で会えるのは今日が最後だ。それはエメにも伝えている。でも、そのことは一旦忘れて、エメが心を込めて用意してくれた料理を楽しむことにした。
ジュディさんと師匠は、エメの小さい頃の話を聞かせてくれた。エメが森で迷子になった話、怪我した動物を見つけては連れ帰ってきたこと、木の幹の穴の中から帰りたくないと大泣きした話…、どの話も無邪気な小さなエメの姿が思い浮かんで、もっともっと話を聞きたくなった。
どこかで木の実を食べてお腹を壊した話は、エメが「それは言わないで」と顔を赤くして拗ねていた。その口を尖らして睨んでいる顔も可愛かった。
早めに食事を始めたと思ったが、いつの間にか外はずいぶん暗くなっていた。僕が窓の外に目をやっているのに気づいて、皆の笑い声が止まった。
「……そろそろ帰ります」
僕が席を立つと、師匠が僕の前に立ち、肩をポンと叩いた。
「近衛兵と学業の両立は大変だと思うが、お前の実力なら通用するはずだ。自分を信じて、努力を続けなさい」
「はい、師匠。ありがとうございます」
「明日は早いのかい?」
師匠の横からジュディさんが声を掛けてくれた。
「はい、ギリギリまで出発を延ばしているので、早朝に発たないといけないんです。だから、明日はここには寄らない予定です」
「そうなんだね。じゃあ、体に気をつけるんだよ」
「ありがとうございます、ジュディさん」
そしてエメは……、師匠とジュディさんの後ろに俯いて立っていた。
「エメ…」
僕が呼び掛けると、肩をビクッと震わせて顔を上げた。
「今日は、」
「ルゥ…」
お礼を言おうとした僕と、遠慮がちなエメの声が重なった。
「何、エメ?」
「あ…、あの……もう少しだけ時間をもらえるかしら。一緒に行きたいところがあるの」
「行きたいところ?いいよ、行こう」
エメは寂しい気持ちを隠さずに、笑顔を作っていた。
僕は師匠とジュディさんにこの休暇のお礼と、数年先になるかもしれないけれど、またここを訪れたい気持ちを伝えた。
そして、エメの行きたいという所へ向かうために手を繋いで家を出た。
◇ ・ ◇ ・ ◇
エメは俯いたまま、僕の手を引いて歩いていた。行き先はまだ聞いていないが、エメが言わないなら、ただ着いていこうと思った。繋いだ手は、いつもより固く握られている。行き先を言わないのではなくて、口を開いたら泣き出してしまうから何も言わないでいる気がした。
歩いているのは、森の出口へと向かう歩き慣れた道だ。小屋にでも見せたいものがあるのだろうか?そう思った時、エメの足が止まった。
「ここは…、エメが一番好きって言ってた……」
エメは、ようやく振り返って少し微笑んだ。そこは木々が開け、空が見える場所だ。
見上げると、まだ日が沈んだばかりで少し明るさが残る薄紫の空に、星が見え始めていた。
「まだ少し時間が早いけど、ルゥとここで星空を見たかったの」
「エメの好きな場所に連れてきてくれてありがとう。もう少し星が出るまで、ここで待ってもいいかな?」
「帰らないといけないのに、わがまま言ってごめんなさい」
エメはいつも僕の都合ばかりを心配してくれる。
「エメ、僕の方こそ…、いつも僕の予定で振り回してごめん。今日この後は、僕ならいくらでも時間があるよ。エメを遅くまで連れ出したらいけないと思うだけで」
「本当…?」
「ああ、星が綺麗に見えるまで待つよ。僕もエメの好きな空が見たいから」
僕もエメも厚手の外套を着ている。もうしばらくしたら、日が沈み切るだろうから、星がもっと綺麗に見えるだろう。
エメは僕の返事を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。




