表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
68/115

エメの行きたい場所

「わぁ、すごく豪華だね。今日も美味しそうだ」


ダイニングテーブルに並べられた料理は、盛り付けにも工夫を凝らし、食べきれるだろうかと思うほど、たくさんの品が並んでいた。


「ルゥのおうちの料理の方が豪華でしょう?」


「確かにシェフが晩餐会に用意する料理とかは豪華だけど、僕はエメの料理の方が好きだよ。僕、料理しないからよくわからないけど、こんなに用意するの、大変だっただろう?」


「ルゥが喜んでくれるかしらと思ったら、楽しかったわ。美味しいといいのだけど」


「いつもエメの料理は美味しいよ」


「ルゥはやっぱり優しいわ。ありがとう。さあ、食べましょう」


エメは僕の言葉がお世辞だと思っているようだ。「本当に美味しいと思ってるのに」とぶつぶつ言いながら僕は席に着いた。


すぐに奥のキッチンにいたジュディさんが、スープを運んできてくれた。そして少し遅れて師匠もやってきて、皆で料理を食べ始めた。


明日、朝早くに王都へ戻らないといけないため、この休暇で会えるのは今日が最後だ。それはエメにも伝えている。でも、そのことは一旦忘れて、エメが心を込めて用意してくれた料理を楽しむことにした。


ジュディさんと師匠は、エメの小さい頃の話を聞かせてくれた。エメが森で迷子になった話、怪我した動物を見つけては連れ帰ってきたこと、木の幹の穴の中から帰りたくないと大泣きした話…、どの話も無邪気な小さなエメの姿が思い浮かんで、もっともっと話を聞きたくなった。


どこかで木の実を食べてお腹を壊した話は、エメが「それは言わないで」と顔を赤くして拗ねていた。その口を尖らして睨んでいる顔も可愛かった。


早めに食事を始めたと思ったが、いつの間にか外はずいぶん暗くなっていた。僕が窓の外に目をやっているのに気づいて、皆の笑い声が止まった。


「……そろそろ帰ります」


僕が席を立つと、師匠が僕の前に立ち、肩をポンと叩いた。


「近衛兵と学業の両立は大変だと思うが、お前の実力なら通用するはずだ。自分を信じて、努力を続けなさい」


「はい、師匠。ありがとうございます」


「明日は早いのかい?」


師匠の横からジュディさんが声を掛けてくれた。


「はい、ギリギリまで出発を延ばしているので、早朝に発たないといけないんです。だから、明日はここには寄らない予定です」


「そうなんだね。じゃあ、体に気をつけるんだよ」


「ありがとうございます、ジュディさん」


そしてエメは……、師匠とジュディさんの後ろに(うつむ)いて立っていた。


「エメ…」


僕が呼び掛けると、肩をビクッと震わせて顔を上げた。


「今日は、」

「ルゥ…」


お礼を言おうとした僕と、遠慮がちなエメの声が重なった。


「何、エメ?」


「あ…、あの……もう少しだけ時間をもらえるかしら。一緒に行きたいところがあるの」


「行きたいところ?いいよ、行こう」


エメは寂しい気持ちを隠さずに、笑顔を作っていた。


僕は師匠とジュディさんにこの休暇のお礼と、数年先になるかもしれないけれど、またここを訪れたい気持ちを伝えた。


そして、エメの行きたいという所へ向かうために手を繋いで家を出た。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


エメは俯いたまま、僕の手を引いて歩いていた。行き先はまだ聞いていないが、エメが言わないなら、ただ着いていこうと思った。繋いだ手は、いつもより固く握られている。行き先を言わないのではなくて、口を開いたら泣き出してしまうから何も言わないでいる気がした。


歩いているのは、森の出口へと向かう歩き慣れた道だ。小屋にでも見せたいものがあるのだろうか?そう思った時、エメの足が止まった。


「ここは…、エメが一番好きって言ってた……」


エメは、ようやく振り返って少し微笑んだ。そこは木々が開け、空が見える場所だ。


見上げると、まだ日が沈んだばかりで少し明るさが残る薄紫の空に、星が見え始めていた。


「まだ少し時間が早いけど、ルゥとここで星空を見たかったの」


「エメの好きな場所に連れてきてくれてありがとう。もう少し星が出るまで、ここで待ってもいいかな?」


「帰らないといけないのに、わがまま言ってごめんなさい」


エメはいつも僕の都合ばかりを心配してくれる。


「エメ、僕の方こそ…、いつも僕の予定で振り回してごめん。今日この後は、僕ならいくらでも時間があるよ。エメを遅くまで連れ出したらいけないと思うだけで」


「本当…?」


「ああ、星が綺麗に見えるまで待つよ。僕もエメの好きな空が見たいから」


僕もエメも厚手の外套を着ている。もうしばらくしたら、日が沈み切るだろうから、星がもっと綺麗に見えるだろう。


エメは僕の返事を聞いて、嬉しそうに微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ