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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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好きなところ

晩餐まで時間があるのでディーンの部屋で待つことにしたのだが、僕がエメにネックレスをあげた時の様子を興味津々に聞かれた。……いや、興味津々などと好意的ではなく、買い物にも付き合ってやったんだから聞く権利があると言わんばかりの態度で目の前に座っている。


ディーンは僕の向かいのソファに座り、組んでいた足を解いて、今度は両膝の上に肘を置いて前のめりになって僕の話が始まるのを待っていた。


さあ話せという雰囲気は、僕が話し出しやすくするためにわざとそうしているんだろうけど……


僕は大きな二人掛けのソファに座り、ディーンの好奇心の圧に押されつつ、何を話したらいいかと考えた。


出された紅茶を一口頂き、その温かさと香りで気持ちは少し落ち着いた。でも、手にしたカップのお茶には、眉尻の下がった情けない自分の顔が映っていてため息が出た。やはりどう話したらいいかまとまらない。


「やっぱり、特に話すほどのことはないかな…」


「そんなことないだろ。なんでもいいから、お前の恋バナが聞きたいんだ。ネックレスを受け取った彼女を見てドキドキしたとか、喜んで抱きついてくれたとか、ほら、こう…、リュウがふわふわ浮かれたり、デレデレしたことはなかったのかって聞いてるの」


「恋バナって…」


そんな言葉を寄宿舎の談話室でどこからか耳にしたことはあった。でも、これまでの僕には無縁の話だった。ディーンは、僕に何を期待しているのだろうか…。ドキドキしたり、デレデレすることもあったけど、それをどう説明したらいいかわからないんだ。


馬車の中でエメにネックレスを着けてあげようとした時に見たなめらかの首筋や、よく似合っていたドレス、父親の瞳の色と同じだと愛おしそうにペンダントトップを見つめるその石よりも綺麗な瞳、そして別れ際に頬にキスして大好きだと言ってくれたこと……



「___ぁ、おい、リュウ!一人で思い出して赤くなるな。それを話せって言ってっんだっ!」


「え?」


「何、思い出してたんだ?」


「………何も」


「そんな訳あるか!」


「はははは…」


ディーンの勢いに押されて、僕は笑うしかなかった。それを見て、ディーンは少し不貞腐れて肘をついたてに顎を乗せ、ため息を吐いた。


「じゃあ、俺が聞きたいことを聞く!」


「えっ…」


―――何を聞かれるんだろう…。


エメについては、どこに縁があるのかわからないから、余計なことは話したくないのに。


「そんな心配そうな顔するな。別にお前が隠したいことを聞き出すようなことはしないよ。言いたくないことは、そう言えばいい。とにかく答えられるものだけ答えろ」


ディーンはいつも通り気楽な雰囲気で話を続けた。


「そうだなぁ…、その子の瞳の色は、お前が買ったネックレスの石と同じ色なんだろ?その目はどんな感じなんだ?」


「どんな……、ぱっちりしてるかな。まつ毛が長くて、普段は上から見るから伏せ目がちに見えるけど、そこから僕の方を見てくれると嬉しくなるね…」


僕はエメの顔を思い出していた。僕のことを見上げて、ふっと嬉しそうに微笑んでくれるんだ。


………ハッと我に返った。顔がニヤけていることを、ディーンに揶揄(からか)われる…と思って彼を見た。


それは、僕の杞憂だった。笑顔でこちらを見ていて、揶揄う様子はない。


「いいじゃん。じゃあ、他に好きなところは?」


「髪、かな。艶やかで緩く波打ってふわふわっとしてるんだ。その髪をなびかせて森を歩いてる姿が、すごく綺麗なんだ」


「へぇ…、それで、一緒に過ごす時は何するんだ?」


「お茶飲みながら話すことが多いな。ミルクティーが好きなんだ。あと、彼女はハーブを育ててるから、その手入れをしてるのを眺めてることもあるし………って、こんな話、面白いのか?」


僕はエメのことを思い出して幸せな気分になってるけど、ディーンはつまらなくないのだろうか。急に心配になった。


ディーンはリラックスした姿勢でソファに座り、不安そうにする僕を笑った。


「ああ、楽しいよ。今までリュウとこんな話したことなかったもんな。リュウもそんなデレデレした顔するんだな」


「はぁっ?」


今、僕はどんな顔をしてるんだろうか。急に恥ずかしくなった。顔が熱くなるのを感じて、両手で顔を覆った。


それを見て、ディーンは大笑いし始めた。笑い転げるディーンにつられて僕も笑った。


「次は、ディーンの話を聞かせてくれよ」


ディーンの婚約者は幼馴染だとは聞いているが、それ以上は知らなかった。出会いからお互いに好きだと思った頃の話。恋人となってから、どう過ごしてたのか。そして、どんな女性で、どこが好きなのか……、次から次へと質問が出てきて驚いた。


そしてもっと驚いたのは、ディーンの話がすごく楽しかったことだ。普段の過ごし方とか、二人で街で買い物した時の話とか、他人(ひと)の恋バナがこんなに楽しいだなんて知らなかった。ディーンが嬉しそうに話し、僕はそれを時々冷やかしながら聞いた。


「ディーンだってデレデレしてるじゃないか」


さっき僕がそう言われたのを言い返してやったが、ディーンは「そうか?」と(とぼ)けて笑っている。


好きな人のことをお互いに話すのは、こんなに楽しいものなんだな、と思っていると、ディーンがまた揶揄ってきた。


「またその子のことを思い出して俺のこと忘れてるんじゃないか?」


―――そんなことはないけど…


そう言いかけて、ディーンの言葉を否定することなく答えた。


「そうかも。何を聞いても彼女のことを考えてしまうな。ああ、今すぐ帰って彼女に会いたいよ」


「お前、ベタ惚れじゃないか」とディーンが笑った。


何を話せばいいかと戸惑っていたのが嘘のように楽しい時間だった。僕が心配していたようなことは一つも口にすることなく、ただエメの大好きなところを、その気持ちを隠すことなく話せることが嬉しかった。


それにしても、一度言葉にすると、その気持ちは大きくなってしまった。


―――ああ、エメに会いたい。今すぐに。

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