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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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順調な会談の後

レーンフィル領主パーカー伯爵邸の正面の門をくぐると、緩やかな坂を登り、小高い丘の上にある屋敷へと馬車は進んだ。


ここレーンフィル領は、山が多い地方で、良質な石が取れることで有名だ。パーカー邸の庭は綺麗に刈り込まれた生垣で囲われ、青々とした芝、点在するよく磨かれた石像と、シンプルだが、とても丁寧に手入れをされていた。


屋敷の正面に着くと、パーカー伯爵とディーンが出迎えてくれた。


一目見てディーンは父親似だと思うほどよく似ていた。パーカー伯が笑顔でエントランス前の数段の階段を降り、馬車へと歩いてきた。


「遠いところようこそ」


父上がパーカー伯と挨拶を交わし、近況などを話している。


パーカー伯は、ディーンよりもまだ背が高く、精悍な印象だ。顔に刻まれたシワも、くたびれた感じは一切なく、年月を重ねた色気のようなもをの感じ、こんなふうに年齢を重ねられたらかっこいいだろうな、などと思った。


我が父もくたびれているわけではないが、精悍な雰囲気はなく、どちらかというと穏やかな印象を人に与えると思う。まあ、その裏で常に先のことを考え、議論で負けることはほとんどない怖い人だと思うが…。


簡単な挨拶を済ませると、屋敷の中へと案内された。




大きな石の暖炉がある部屋に通され、父上達は慣れた様子ですぐに本題に入った。


事前に用意されていた書類に沿って、領境の警備の確認やそれぞれの領地の特産物の取り引きについてなど、時々、関連する最近の話題に脱線しながら一つずつ議題が片付けられていく。


良好な関係を保つことが定期的に会談する目的だと父上に聞いていた通り、内容としては難しいことはなく、議題が多いために今日と明日に予定が組まれているが、話は淡々と進められた。




今日の議題は予定より早く終わり、晩餐まで少し時間があるようなので、僕はディーンの部屋で時間を潰すことにした。


「それで、リュウ、()()渡したんだろ。どうだった?」


ディーンの部屋に入るなり、待ちきれないといった感じで聞いてきた。あれ、とはサファイアのネックレスのことだ。


この休暇に入る前に、寄宿舎でうっかり『土産っているんだろうか…?』と漏らした独り言を聞かれて…


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


___帰郷を二週間後に控えた週末、特に用事もないのに、いつもより朝早く目が覚めた日のこと。久しぶりに天気もいいし、街にでも出かけようかと考えていた。


簡単に身なりを整え、寄宿舎の食堂の行くと、まだ席はほとんどが空いていた。僕はパンとフルーツサラダと紅茶をトレイの乗せると、誰も座っていない窓際の席について食事を始めた。


窓の外に見えるイチョウの木は葉がほとんど落ち、落ち葉が転がるように風に吹かれていた。


―――街に行くとして、どこに行こうか。今は劇場も見たい演目ではないし、特に買い物の予定も……


「あ、土産っているんだろうか…?」


帰郷まであと二週間となり、自然とエメのことを思い浮かべていた。ぼんやりと外を眺めながら独り言を呟いて、パンを口に運んだ。


「土産って、誰に?」


「んぐっっ!……‼︎」


驚いてパンを飲み込み、喉に詰まるかと思った。胸の奥の方で引っ掛かっているような感じがして紅茶を流し込み、はぁっと大きく息を吐く。胸に当てた手のひらには、ドキンドキンと大きな鼓動が伝わってきた。


「だ、大丈夫か、リュウ?」


僕の独り言に答えたのはディーンだった。朝食が乗ったトレイを手に驚いていた。


「あ…、ああ……、死ぬかと思った…」


パンを喉に詰まらせてではなく、驚いて心臓が跳ね上がってだ。まだバクバクしている。


「驚かせてすまなかった。ここ、座っていいか?」


「…どうぞ。先にそう声を掛けてくれ」


「ははは、ごめん。それで、土産って?」


ディーンに誤魔化すべきか少し悩んだが、彼に相談してみたくなった。婚約前から、お相手の女性に贈り物をしていたのを知っている。ただ、その時は興味がなかったから、何を贈ったのかは聞いたことがなかったが。


そんなディーンに聞けば、何かいいアドバイスをくれるんじゃないだろうかと期待した。


「ディーンってさ、婚約者に贈り物をしてたよね…」


「ん??ああ、してたよ」


ディーンは僕が何を聞きたいか、ピンときたようだ。それなのに、ニヤッと笑って僕に最後まで言わせようとしている。


「…えっと、前に話した森に住んでいる女の子に……」


「その子に…?」


そう聞き返すディーンの片眉はわざとらしく大きく上がり、僕の次の言葉を待っている。エメのことを思うと、徐々に鼓動が大きくなり、顔が熱くなるのを感じた。


その先を察しているなら、答えをくれたらいいのに。ディーンは僕の様子を楽しんでいるようで、簡単にはアドバイスはくれなさそうだ。


僕は気持ちを落ち着けるために、小さくため息を吐いた。


「その子に、何か王都の土産を贈りたいんだ。でも何がいいか、さっぱりアイディアが浮かばなくて…。ディーンは、どうやって贈り物を選ぶんだ?」


「選び方?」


僕が最後まで言い切ったことに満足そうな顔をしたが、質問が少し思ったのと違うようだった。贈り物そのものを聞かれると思っていたようで「選び方かぁ…」と顎に手を当てて考えている。


「そうだな…、普段、話してる時に欲しいものの話題が出たら、覚えておくようにするな」


幼馴染と婚約したディーンだから、そんな話題が出ることもよくあるんだろう。羨ましい。


「欲しいものを聞く機会がなかったら?」


「好きなものとか…、あとは王都で流行ってるものとか?あ、オルゴールは?ウィルが、最近、女の子への贈り物に流行ってるって言ってただろ?」


「ああ……、それはもう贈ったんだ」


「そうなのか。……じゃあ、髪飾りとかは?いくつあってもいいらいいぞ」


「髪飾りは夏の終わりに……」


ディーンが目を丸くした。


「ははは、それももう贈ったのか。思ったより行動してるじゃないか」


「いや、たった二つだけだよ。それで次に何を贈ったらいいか、もうわからなくなってるんだから…」


「それなら、お前が贈りたいと思うものを選んだらいいと思うけどな。喜ぶものを贈りたいんだろうけど、それは相手次第で贈ってみないとわからないよ。縁がある子なら喜んでくれるし、そうじゃなかったら、渡した途端に微妙な空気が流れるらしいぞ」


「らしいって?」


「ウィルが言ってた」


「またウィルか」と僕が笑うと、ディーンも一緒に笑った。


ウィリアムは公爵家としての立場もあり、女性とも広く付き合いがあるようだから、そういった話題に詳しい。ただ、僕とはタイプが違いすぎて、あまり参考にならないことが多いが…。


「そのウィルの言葉を信じて、僕の贈りたいものを選ぼうかな」


「今日でよかったら、買いに行くの付き合ってやろうか?」


「えっ、いいのか?」


「ああ、今日なら予定がないから」


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


それで、その日はディーンに付き合ってもらって、街にエメへの贈り物を探しに行ったな…と思い出していた。


「………」


ハッと気づいて顔を上げると、ディーンが向かいのソファで大きく足を組み、肘置きに頬杖をついて呆れたようにこちらを見ていた。


「考え事は終わったか?」


「ご、ごめん、ディーン」


「で、あのネックレスを渡して、どうだったんだ?」


少し圧を感じるような口調で、顔は『待ってやったんだから、さあ話せ』と言っている。


「はははは……、はぁ…」


笑って誤魔化せないのはわかっていたが、とりあえず情けない笑いとため息が漏れた。話せることが限られていて面白くもないと思うが、それでもいいと言うのだから逃げられない…。

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