初めての茶会(後編)
エメとマリーが部屋を出て行き、エドと二人だけ残されると、急に緊張が解けたように姿勢を崩した。お互い、大切に想う人の横で無意識に背筋が伸びていたようだ。
「なあ、リュウ、エメちゃんがあんな美人だなんて聞いてないぞ」
「そんな話、する時なかったじゃないか」
「それにしても、立ち振る舞いが貴族令嬢のようだな。お辞儀なんて、手本以上じゃないか?」
「僕もそれは驚いたよ。親代わりに一緒に暮らしてる人が、厳しかったらしいんだ」
「へぇ…。エメちゃんなら、どこの貴族の家でも養女になって、お前と釣り合う身分になれそうなのにな。それは難しいんだろ?」
「ああ……」
「まあ、俺ができることなんてないだろうけど、今日みたいな茶会ならいつでも用意するぞ。帰ってくる時は、先に連絡してくれ」
エドウィンの申し出はすごく嬉しかった。これまで通りに帰ってこられるなら、エメを誘って出掛けられるのだから。でも…
「それがさ、一、二年は帰ってこられなさそうなんだ…」
「えっ、リュウが?どうして?」
「年明けから近衛兵団に入ることになったんだ」
「近衛兵団⁉︎」
エドウィンは驚いて立ち上がったが、すぐに「ああ、すまない」と言って座ると、僕の顔をじーっと見た。そんなに見られると落ち着かない…。
「王城の騎士団くらいには入るかもと思ってたけど、近衛兵団ときたか…。あれ?リュウは卒業したんだっけ?」
「あと一年ある」
「………はぁ、すごいな。そりゃぁ、帰ってくる間もないだろうな…。で、エメちゃんはどうするの?待たせるのか?」
「そんな無責任なこと言えないよ…」
僕が大きなため息を吐くと、エドウィンはテーブル越しに僕の方をポンッと叩いて慰めてくれた。
カチャッ
扉が開く音がしてそちらを向くと、マリーが顔だけを覗かせていた。何をしているのだろうか?
マリーはさっと部屋に入ってきたが、エメは続いて入ってはこなかった。でも、扉の向こうにはいるようだ。
僕は席を立って扉の方へ歩き出そうとすると、マリーに「そこで待っててくださるかしら」と止められた。
「エメちゃん、入っていらして」
マリーに呼ばれて扉の影から出てきたのは――
水色のドレスに着替えたエメだった。よく見ると、マリーが着ている薄い黄色のドレスと色違いだ。柔らかな生地を幾重にも重ねたスカートがバラのようで、エメにとてもよく似合っていた。
エメの胸元で小さく輝くサファイアも、ドレスの色によく馴染んでいる。ワンピースに合わせるなら小さい石の方が、と王都の街の宝飾店の店員とお節介で付いてきたディーンに勧められたけど、ドレスを着るならもう少し大きくてもよかったな、なんて思ったりした。
ドレスに合わせて髪も結い直したようだ。髪飾りもお揃いの物を着けて、嬉しそうに二人で並んでこちらを見ている。
エドウィンは、マリーの側に歩み寄り、ごく自然に肩を抱いてキスをした。
「念願のお揃いってやつだね」
マリーは嬉しそうな顔をしてエドウィンに頷いてから、僕に教えてくれた。
「私、一人っ子で、従姉はだいぶ年上だから、お揃いに憧れてたの。エメちゃんのおかげで、願いが叶ったわ」
「それはよかった。エメもとても綺麗だよ」
「ありがとう。嬉しい…」
エメは自分のスカートを見ていた視線を上げ、少し照れたように、そして、とびきり嬉しそうに僕に微笑んだ。
その笑顔も、格好も可愛らしくて、僕は、席へ戻るエドウィンとマリーの後ろで、エメの方をそっと抱き寄せて、おでこに軽くキスをした。
「すごくすごく可愛い。お姫様みたいだ」
そう耳元で囁くと、耳をぱっと押さえて頬も耳も赤くして僕を可愛らしく睨んだ。声は出さずに唇だけ動いている。
《ルゥ、の、ば、か!》
―――あぁ、可愛い…。抱き締めて、その可愛らしい唇にキスができたらいいのに……
エドウィンとマリーが羨ましくなった。想いが通じ合い、婚約者同士となれることは、なんて幸運なことなんだろうか。僕にも、その幸運が訪れる日は来るのだろうか。僕は誰にも聞こえないように小さくため息を吐いた。
「あら、エメちゃん、顔が赤いわ。大丈夫?コルセット、苦しくない?」
「だ、大丈夫です」
心配するマリーにエメが慌てた。
それを見て、エドウィンが笑って言った。
「リュウがエメちゃんにくっつきすぎなんだよ」
「可愛いって褒めすぎたら、怒られました」
僕はエメの肩を抱いたままおどけて言うと、エドウィンとマリーは楽しそうに笑った。一方、エメは恥ずかしそうにしている。でもその赤くなった顔は、僕の肩に埋めて隠した。
その仕草に、今度は僕がドキドキした。




