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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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揺れる馬車とネックレス

エメと招待された茶会の日が来た。エドウィンからの招待状を受け取ってから数ヶ月、この日をどれだけ楽しみにしてきたことか。



約束の時間に馬車で森に着くと、すぐに木々の間からエメが出てきてくれた。僕もキャビンから降りてエメを迎えた。


今日のエメは一段と綺麗だった。


先日のオリーブ色のマントではなく、クリーム色の厚手だが柔らかそうな生地のコートを羽織り、その裾からのぞく淡いピンク色のスカートが風に吹かれて揺れている。艶やかな髪は緩く編み込んでまとめられ、スカート同じピンク色の髪飾りで留められていた。頬がうっすらと赤く染まり、少し照れたように伏せられていた瞳は、僕がエメの前に立つと、こちらを見上げ、微笑むのに合わせて細められた。


その様子すべてが花のように美しくて、僕はエメに声を掛けるのを忘れていた。


「あの…、私の格好、……変じゃないかしら…?」


見惚れて何も言わない僕にエメは心配になったようだ。


「ごめん、エメ。すごく綺麗だ。言葉を忘れるくらい綺麗だよ」


慌てて僕の正直な気持ちを伝えると、エメの顔はみるみる赤くなった。


「ルゥのばか!」


久しぶりに聞くその言葉に僕は笑い、エメも頬を赤らめたまま一緒に笑った。



「さあ、乗って」


僕がエメに右手を差し出すと、エメはその手を取ってキャビンへのステップをゆっくりと上がった。ただ馬車に乗り込むだけなのに、どこか特別なように感じた。エメが光を纏ったようにキラキラ輝いて見えた。もちろん、本当に光ってるわけではないが。


―――はぁ、馬車に乗り込むだけでこんなに幸せだなんて。


浮かれた僕とは違い、エメは慣れない様子で席に座って、少し不安そうにこちらを見て僕が来るのを待っているようだった。僕も乗り込み、彼女の向かいに座った。


僕がすぐ後ろの窓から御者台に座るラリーに「出してくれ」と声を掛けると、馬車は静かに走り出した。


馬車が森を抜けて周りが開ける頃には不安も和らいだようで、エメは車窓を流れる景色に目を輝かせていた。


「私、こんな馬車に乗るの初めてなの」


今日は、寒い季節ということもあるが、僕とエメが出掛けるのをできるだけ見られないように、キャビンのある馬車を用意した。エメは、街へ出掛ける時に乗合馬車には乗ったことはあるようだが、このような馬車に乗る機会がなかったのは想像に(かた)くない。


嬉しそうに窓の外を眺めるエメを見て、僕の頬も緩んだ。



「エメ、渡したい物があるんだけど」


こちらを向いてくれたエメに、僕は小さな細長い箱を渡した。


「これは?」


「エメへのお土産」


「ありがとう!開けていい?」


「もちろん」と平静を装って答えたが、その中身をエメはどう思うだろうかと内心はドキドキしながら、彼女がそれを開けるのを見ていた。


エメは一度僕を見て照れたようににこっと笑ってから、そっと蓋を開けると「わぁ…素敵…」と呟いた。箱には小さなサファイアをあしらったネックレスが入っている。僕はそれを聞いてほっとした。


「これを、私に?」


「ああ、受け取ってくれる?」


「嬉しい…、ありがとう。今、着けてもいいかしら?」


「そうしてくれたら嬉しいよ」


エメはそっとネックレスを手にすると、金具を外して首の後ろで留めようとした。


「あ、あれ…、んっ……、あっ…」


馬車が揺れることもあり、金具がうまく掛からないようだ。


「僕が代わろうか?」


僕はエメの隣に座ると、エメは少し体を捻って僕に背中を向けた。すらりとした首にほつれたいく束かの髪がかかるのを間近に見て、ドキッとしてしまった。僕はそれをできるだけ意識しないように、受け取ったネックレスを留めようとした。でも、ガタガタと馬車が揺れて、金具が掛かりそうでなかなか掛からない。


「あれ、あ…、あっ、掛かりそうだったのに!」


「ふふっ、ふくくく…」


エメは体が揺れて僕の邪魔にならないように、笑いを(こら)えているようだ。その可愛らしさに、後ろから抱きしめたくなるのを「ふぅ……」と息を吐いて誤魔化した。


そして、次こそはと集中すると、ようやく金具を留めることができた。


「エメ、できたよ」


僕がほっとして声を掛け、元の向かいの席に戻ると、エメも座り直して我慢していたのを吐き出すように笑い出した。


「あははは、馬車の中でネックレスを着けるのって、こんなに難しいのね」


「ははは、ネックレスは馬車に乗る前に渡さないといけないね。次は気をつけるよ」


一頻(ひとしき)り笑った後、エメは胸元のペンダントトップをそっと手にして「綺麗ね…」と見つめた。


「エメの瞳と同じ色だから…」


「それで選んでくれたの?」


その深い青色の石は、王都の街でエメへの土産を探している時に一目見て気に入って選んだのに、瞳の色で選んだなんて恋人にするようなことを口にしたら、急に恥ずかしくなった。今度は僕の顔が赤くなっているかもしれない。


エメは僕がドキドキしているのには気づいていない様子で、もう一度その石を見つめて「嬉しい…」と言って、目を細めた。顔を上げてこちらを向いた瞳は、本当に宝石のように綺麗だと思った。


その時、馬車が速度を緩め、そして止まった。外を見るとサドラー家の門をくぐるところだった。


「どうしよう、ルゥ」


その声に、何か問題でも起こったのかと心臓が跳ねた。


「えっ、どうした⁈」


「私、緊張してきた…」


眉尻が下がり、すがるような目で僕を見ている。


「大丈夫だって、エメ。堅苦しい集まりではないから。もしそうだとしても、エメの服装もマナーも問題ないよ。だから、今日は楽しんで」


「………無理かも…」


緊張して膝の上で握った手を見つめるエメを、大丈夫と抱きしめてあげたくなったけど、馬車は屋敷の正面で待つエドウィンとマリーの前で止まった。


僕はエメの肩にそっと手を添えて、声を掛けた。


「エメ、行こうか。僕、エメと茶会に行けるのを、招待状をもらってからすごく楽しみにしてたんだ。隣に座っていてくれるだけで十分だから、心配しないで行こう。ね、エメ」


顔を上げたエメは、小さく頷いて微笑んだ。

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