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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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希望の光

僕の剣の師匠であるディックが、何らかの理由でエメが王都から逃れるために、ジュディさんと共にこのフィレイナードまでやって来たジェフという人物で間違いなかった。


「私からも少し話したほうがいいだろう」


そう言って薪や(なた)を片付けながら、師匠は僕に小屋の前にあるベンチに腰掛けるよう勧め、自分は薪割りに使っていた切り株に腰掛けた。


「さて、最初に言っておくが、我々がここに来た理由を話すつもりはない」


「はい、わかっています。僕が知っておくべきことがあれば、教えてください」


僕は、話をする意図を正しく理解したようで、師匠は満足そうに笑った。


「まず、エメにはここに来た理由を詳しく話していない。両親が病気で亡くなったから、母親の遺言で静かなこの地で暮らしているだけだと思っている。お前が知るように、あんな雨の中を逃げて来たとは思っていない」


「では、追っ手が来るようなことは彼女は考えてはいないということですね」


「ああ、その通りだ。この先も、ずっとここで暮らしていくものと思っているだろう」


それを聞いて、今日、再会した時に、やはり僕とエメとの気持ちに温度差があったのだと納得した。


「エメは、ジュディさんと二人でこの地に来たと話していたと思うのですが、師匠はそれ以前からここに住んでいることになっているんですか?」


「まあ、そう話したわけじゃないが、エメが物心ついた時からここにいるから、そう思っているようだ。だから、お前もそのように話を合わせてくれるか?」


「はい、わかりました」


エメがどこまで知っているのか、これまで曖昧だった部分がはっきりした。それ以上の事情は聞いても答えてはもらえないと思うが、僕が抱いていた疑問を聞いてみた。


「あの…、エメは今も追われる身なのですか?表立った集まりへの出席は問題になるのでしょうか…」


「それは、お前がエメを夜会などに連れて行きたいということか?」


「はい…。もちろん、問題がなければの話です」


師匠は、僕の顔をじっと見た。僕は伸ばしていた背筋をさらに正して、師匠の言葉を待った。


しばらく僕を観察するように見ていた師匠が「なるほどな」と言って笑った。


「リュウ、エメのことをどう思っているんだ?」


「……僕が崖から落ちて怪我した時に助けてくれた恩人です」


「それだけか?」


「それだけ、とは?」


「恩人としてだけの存在か、と聞いている」


「………」


何と答えていいのか、言葉が出てこなかった。最近はこの手の話を振られても平然としていられるようになったと思っていたのに、師匠の視線が鋭いからだろうか、心臓の音が大きく聞こえ、顔が段々と赤くなっていくのを感じた。


しばらく黙り込んだ僕を見て、師匠はふっと笑った。


「恋人か、婚約者として望んでいるということじゃないのか」


やはり隠しきれなかった。僕はため息を吐いて答えた。


「………叶うものなら。……でも…」


「そうだな、お前が心配したように今もまだ、王都にエメの存在が伝わってしまえば追っ手がかかるだろう。お前の立場だと、どんなに気をつけてもその存在を隠すことは難しいだろうから、お前が公式の場に彼女を連れて行くのは避けたほうがいい」


「しかし、なぜ追っ手が?捕まってしまったら、どうなるのですか?」


疑問が口を()いて出たが、聞いてはいけないことだと気付いた。


「すまない、リュウ。それは答えられない」


「いえ、わかっていたのに聞いてしまいました」


「そうだな……詳しいことは話せないが、エメの問題は我々が解決できることではない。だが、もしかしたら、五年、十年後には状況が変わっているかもしれない」


「時が解決してくれるんですか?」


「時だけでは解決しないが、エメが追われることなく暮らせるようになることは期待している」


何をどう解決したらいいのか、さっぱりわからないが、いつかは解決するかもしれないというのは、小さな希望の光のように感じた。


「まあ、現在の問題が解決したところで、お前がエメに求婚できるかどうかは、また別問題だがな」


「そう……ですよね…」


問題が解決したら、きっとエメは元の家に戻るんだろう。父上の話からその家は侯爵家か、はたまた公爵家か…。地方の伯爵家の僕では相手にされないかもしれない。


一瞬見えた希望の光は、淡くゆらめいて消えてしまいそうだ。まあ、僕の想いは実らなくても、エメが平穏に暮らせるようになるのなら、それだけでもいいと思った。



そんなふうに考えを巡らせていた僕をよそに、師匠がため息を吐いた。


「それにしても、父親の気持ちとは、こういうものなのかな」


重苦しかった空気が、師匠の冗談めかした言葉で少し緩んだ。


「父親……ですか?エメの?」


「これまでずっと成長を見守ってきたからな。そんなエメに、ついに友達ができたと聞いて嬉しかったんだが、それが男だと聞いて『なんだ、けしからん!どんな奴だ!』と今回も憤慨してしまったからな」


「今回も?」


「エメが五歳くらいの頃かな、友達ができたって嬉しそうに話したのが最初だな」


「それも僕ですね…」


「ははは、そうらしいな。その時は迷子に道案内しただけだって聞いたが、この夏に『ルゥに再会して、今度こそ友達になった』と話すから、そんなふざけた名前の奴は、どこのどいつだ!なよなよした頼りない男なら追い返してやる!と思ってたが、まさかリュウだったとはな」


顔は笑っているが、目は真剣だ。こんな(いか)つい人が父親だ、って鋭い目つきで出てこられたら怖いだろうな。知り合いでよかった。


「ふざけた名前って、エメが小さい時にリュウって呼べなかっただけですよ…」


「ははは、あの頃は舌足らずで可愛かったな。私の名は最初からディックって呼んでくれたぞ」


―――師匠…、そんなことで対抗心を燃やさないでください…


僕は、諦めたように笑った。


「そうだ、まだ時間がありそうだから、手合わせでもするか」


そう言って師匠は膝をパンッと叩いて立ち上がった。僕も続いて立ち上がった。久しぶりに師匠に剣を見てもらえるのは嬉しい。


「はい、ぜひお願いします」

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