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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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ただいま

帰郷から一夜が明け、今度こそと屋敷を出た。昨日の旅で汚れた格好ではなく、朝からゆっくりと身なりを整えて晴れやかな気持ちで森へ向かった。



森の入り口で、いつものようにあの石のネックレスを取り出す。王都では光らなかったそれが、淡い緑色に光っている。嬉しい気持ちになったその時、ふっと違和感を感じた。


嫌な感じではない。


何と言ったらいいのだろうか…


風にのって漂う綿毛が頬にかすめていったような……


そちらの方向を見ると、手にした石の光が強くなった。


僕は石から手を離し森の奥へ視線を向けた。そのフワッと感じる方へ一歩、また一歩と歩みを進めた。


それは、最近の剣術で相手の剣筋を読み取る感覚にも似てる気がする。説明はできないけど、その感覚には確信があった。


―――エメだ。


僕の鼓動は早くなっていた。エメに会える歓びに加えて、エメが感じていたものを僕も感じているかもしれないという興奮と言うべきだろうか。


とにかくドキドキしながら、自分の感覚を信じて森の中を進んだ。


確かめるように歩いていたのが、早足に。そして少し駆けるように進んだ。


「ルゥ!」


木々の向こうから待ち望んだ声が聞こえた。走ってくる彼女に僕も駆け寄り、抱きしめた。


「エメ………、あ…会いたかった…」


泣きそうになるのは(こら)えたが、声が震えた。この数ヶ月、会いたくて仕方がなかったエメがここにいることに心から安堵した。ぎゅっと抱きしめると、僕の頬にはエメの柔らかな髪が触れた。


―――よかった……、エメがいる。




「……えっと…ルゥ?」


エメが困惑した声で僕の名を呼んだ。いつまでも抱きしめていることに戸惑っているようだった。


僕は、追手か何か問題があればエメがこの地を離れてしまうと父上に聞いていたから、ある日突然、エメに会えなくなるかもと不安だった。夏の休暇明けから今日まで、僕が王都にいる間にエメがいなくなってしまう悪夢を何度も見た。


そのエメがこうしてここにいることが、僕は奇跡のように嬉しくて、その存在を確かめるように長く抱きしめてしまった。でも、エメは違うのかもしれない。


エメがこの地を離れる可能性を聞いていなかったら、僕がこれほど喜ぶことを不思議に思うだろう。と同時に、もしエメが知らないなら、彼女に無用な不安を与えるようなことは言わないように気を付けねばならないことに気付いた。


僕は、ふぅっと一息吐いて顔を上げ、腕の中にいるエメを見た。


きょとんと丸い目で見上げる彼女は、なんと可愛らしいんだろうか。自然と僕の頬も緩んだ。


「ごめん、エメ。会えたのが嬉しくて、その気分に浸ってた」


「ふふふ、私もルゥが来てくれて嬉しい」


エメの柔らかな笑顔を見たら、疲れが一気に吹き飛んだ。


「ただいま、エメ」


見下ろしたエメのおでこに、軽くキスをした。エメは少し照れた顔で「おかえり」と言って笑った。


「ルゥ、背が伸びた?」


エメが僕を見上げながら聞いた。


「そう、かな?」


言われてみれば、エメの顔が少し遠くなったかも。さっきおでこにキスをする時も、前より屈んだ気がする。


背は伸びてほしいが、エメの顔は近い方がいいな、だなんて思いながら、抱きしめていた腕を解いた。


離れた途端に、また抱きしめたくなるのは、ぐっと(こら)えた。



「今日は急いで帰らないといけない?」


心配そうにエメが聞いた。昨日のうちに帰ってきたおかげで、今日は時間はたっぷりある。体のあちこちが少し痛いが、頑張って予定を早めてよかった。


「今日は他に予定がないから、ゆっくりできるよ」


「本当?嬉しい!じゃあ、家に来てもらってもいいかしら?」


「ああ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらおうかな」


エメが僕との再会を心から喜んでくれているのが伝わってきて、僕も笑顔になった。


「さあ、行きましょう」


エメは僕の手を取って軽やかに歩き出した。裾を白いレースで縁取られた紺色の厚手のワンピースと、上に羽織ったオリーブ色のマントが歩くのに合わせて柔らかくなびいている。


「あっ…」


僕の声に、エメは振り返って小さく首を傾げた。緩く結った髪に、僕が夏に贈った緑の髪留めを着けてくれていることに気づいて思わず声が漏れてしまったのだ。


髪が崩れないように、そっと触れると、エメは少し照れたように微笑んだ。


「これ…、着けてくれてるの嬉しいな。よく似合ってるね、エメ」


「ありがとう。今日はルゥに会えるから…」


「今日、僕が来るの知ってたの⁈」


大体の予定は手紙に書いていたけど、過去には、出発が遅れたことも、悪天候で途中で足止めされたこともある。だから、具体的な日にちは伝えていなかったのに。


驚いた僕に対して、エメはにっこりと微笑んだ。


「だって、昨日の夕方、森の前をルゥが通ったでしょ」


「知ってたの⁈」


「ええ、森が教えてくれたの。そろそろルゥが帰ってくると思って待ってたから、森に入らなくても、近くを通ったのを感じたんだと思うわ」


エメが昨日、僕が帰ってきたことを気付いたことに驚いたが、それ以上に『待ってた』という言葉は、なんと嬉しく響くんだろうか。


「待っててくれてありがとう、エメ。いつもだけど…、連絡もなく来てごめん」


「いつでも大丈夫よ。来てくれてありがとう、ルゥ」


そう笑うエメの手を引き寄せて、抱きしめた。僕は大きな安堵のため息を吐いた。


「本当に、ずっとエメに会いたかった……」


ぎゅっと抱き締める僕の背中に、エメもきゅっと両手を回してくれた。

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