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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第5章 冬の休暇
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最速の帰郷

明日からの休暇を控え、今日は昼までで授業が終わる。僕は最後の授業が終わるのを、今か今かと何度も時計を見て待ち構えていた。


でも、授業もおろそかにしてはいけない。板書の要点を書き写しつつ、予習した自分の考えも一緒に書き込んでいく。この後の復習を省く作戦だ。


授業を受ける姿勢として良いか悪いかは別として、こんなに集中して授業を受けるのも、久しぶりかもしれない。


終業の鐘が鳴ると共に僕は立ち上がった。横に座っていたニコラが「そんなに急がなくても」と言いながら、笑っている。


「じゃあ、ニコ、よい休暇を!」


僕は、テキストや筆記用具を乱暴に鞄に突っ込むと、ニコラからの返事を聞くことなく、弾かれるように教室を出て、寄宿舎へ走った。


ニコラ達には、年明けから近衛兵団に入団することは伝え、この休暇がゆっくり領地に帰れる最後のチャンスかもしれないからと、今日、授業が終わったらすぐに寄宿舎(ここ)を発つことを話していた。


寄宿舎の部屋に戻るとテキストを入れた鞄は棚に放り込むように仕舞い、準備していた帰郷用の鞄を肩から下げ、寄宿舎の管理人スコットさんに休暇で領地に戻ることを告げた。


「シュライトンさん、今回は早いのですね」


「はい、年明けから忙しくなるので、一日でも早く領地に帰って、用事を済ませたいんです」


「そうなのですね。道中、お気を付けて」


「ありがとうございます。いってきます!」


厩舎までまた走り、自分の馬を出すと、フィレイナードへと出発した。



普段は、早くても終業日の翌日から、片道丸二日掛けて帰郷していた。朝から出発して、大きめの街に宿を取り、到着後に観光をしたり、美味しいものを食べたりしてのんびり楽しんだ。その次の日も、ゆっくりと起きて夕方までにコルンの屋敷に着けばいいと思っていた。


今回は、授業が終わって日暮れまでに行ける街を目指す。明日は、早朝に宿を出て、午後の日が高いうちにコルンに着けないかと思っている。少しでも早くエメに会いたい。その一心だった。



途中、馬を休ませる時に遅めの昼食を取り、日暮れ少し前に予定していた小さな街に着いた。旅人向けの店もないので、宿に着くと、持ってきたパンと干し肉で夕食を済ませ、体を拭いたら、翌日に備えてすぐに床に就いた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


翌朝は予定通り夜明けと共に宿を出て、昼過ぎにフィレイナード領に入った。夕暮れ前には着きそうだが、どんなに急いでも馬を休ませる時間は必要で、コルンに着くのは夕方になりそうだ。王都からは一日半は掛かるのかとため息が出た。


もし一日で来られたら、忙しくても時々なら帰郷できるんじゃないかと少し期待したのだが、やはり無理そうだった。



見慣れた領内の道を駆け抜け、丘陵地に入ると、遠くにエメが住む森が見えてきた。まだまだ遠いが、その緑を見ただけで心が弾むようだった。


街に入ったり林を抜けるたびに、森は建物や木々に隠れてしまうが、次に見える時には段々と近くなる。



その森を見ながら、僕はすごく迷っていた。


―――このまま真っ直ぐエメに会いにいくか。それとも、今日は屋敷に戻って、明日、身なりを整えてから会いにいくか……


隣町まで迷っていた。この街を抜ければ、すぐに森に着く。


―――会いたい、会いたい、会いたい、ああ、会いたい………でも汗臭い。やっぱり、今日は屋敷に帰ろう…



僕は我慢する気持ちを手綱を握る手に込めて、すぐにエメに会いたい気持ちを振り切るように、森の横を走り抜けた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


屋敷に着くと、執事のラリーが驚いて迎えの言葉を忘れていた。


「ラリー、ただいま」


「失礼いたしました。おかえりなさいませ」


ラリーは、気を取り直して挨拶をしてくれると、部屋へと向かう僕から上着を受け取りながら疑問を口にした。


「…しかし、お帰りは明日では?」


「急に帰ってきてすまない。どれくらい早く帰れるかと思って、試してみたんだ。もう少し早く帰れるかと思ったんだけど」


ラリーは、予定より早い帰郷に驚いていたが、僕の言葉でいろいろと察してくれたようだ。


「湯殿の準備までもう少し掛かりますので、お部屋でお待ちください。明日は朝からお出掛けでよろしいでしょうか」


「ああ、それで頼む」


「かしこまりました」


ラリーは屋敷の奥に下がり、僕は自室へと向かった。



部屋の窓からは夕陽に照らされた森が見えた。今すぐにでも会いたかったが、これでよかったと心の中で呟いた。早く帰ってきた分、明日はゆっくり時間があるのだから。

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