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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第4章 騎士学校
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招待状

剣術大会からは一ヶ月ほどが経ち、しばらくは大きな行事もなく平穏な日々が過ぎていた。


一日の授業を終えて一人で寄宿舎に帰ってきた。ニコラは先生に呼ばれて帰りが遅くなる予定だ。



寄宿舎の入り口で管理人のスコットさんに呼び止められた。


「シュライトンさん、手紙が届いていますよ」


「ありがとうございます」


僕はそれを受け取り、自室に向かって歩き出した。差出人は…、と思って封筒を裏返すと、そこにはエドウィンの名が記されていた。


僕は首を傾げた。おそらく、冬に予定されているエドウィンとサリーの婚約披露への招待状だろう。でも、ミラー家は美術品などの取引きに関して我が家を頻繁に出入りするから、招待状であれば、そのついでに我が家に直接届けると思う。なぜ今回はわざわざ寄宿舎(こちら)に送ってきたんだろうか…?



部屋に戻って着替えると、ペーパーナイフで封筒を開いた。まず取り出したのは、思った通り婚約披露の夜会への招待状だった。クリーム色の厚手の紙に金の綺麗な装飾が施された招待状には、日付とサドラー邸で執り行われることが書かれてあった。


そしてあと二通、少しシンプルな招待状が入っていた。これらは新緑のような優しい緑色で、一通は僕宛て、もう一通の宛名は――『森のエメ様』。


「えっ?」


僕は思わず声を上げて、慌ててニコラの机の方を見た。そうだ、ニコラはまだ帰っていないんだった。


ふぅ…と息を吐いて気持ちを落ち着け、自分宛ての招待状を開いて内容を確認した。茶会への誘いだった。日付は婚約披露の夜会の前日、場所は同じくサドラー邸となっている。


エドウィンからの手紙も添えられていた。


___


 リュウ、


 元気でやってるか?


 婚約披露の前に、お前とエメちゃんにお礼の場を設けさせてほしいと思って、二人への招待状をお前に送る。


 俺とマリーとの四人だけの茶会だから、服装もマナーも一切気にせず、ただ来てくれたら嬉しい。


 もし、都合がつかなかったり、気が向かなければ、それでも構わない。非公式の招待だから、来られない場合も特に知らせはいらない。その時はマリーと二人の時間を楽しめるからな。


 では、婚約披露の宴では会えることを期待している。


 エドウィン・ミラー


___


エドウィンからの手紙をたたみ、僕は二通の緑の招待状を眺めた。


―――お礼だなんて、僕はエメに会いたくてサドラー家との茶会をすっぽかしたのに…、運命はどう転ぶかわからないものだな。


そう思って静かに笑いながら、思いもよらない誘いに僕はワクワクしていた。


―――エメと…、一緒に茶会へ行ける?


と同時に、エメのこととなるとわからないことが多く、どうしても不安になった。森で密かに会うのはいいが、一緒に出掛けることに何か問題はないだろうか……。


心配しだすとキリがないが、茶会への出席の返事について心配しなくていいのはありがたかった。エドウィンとマリーが、出席するかどうかを僕らが柔軟に選べるように用意してくれていることに感謝した。


ここで一人で悩んでいても答えは出ない。エメが茶会に行きたいか、周りが僕らが出掛けることに反対しないか、その反応で決めよう。僕は、もしエメと茶会に行けるのであれば、喜んで行きたいのだから。



僕は、手紙を二通書いた。


一通はエメへ。ジュディさんと相談して、茶会への行きたいか決めてほしいと。断ってもいいことと、準備は何もいらないことも書き添えた。


二通目は母上へ。エメと二人で茶会へ誘われたことを伝え、その招待状をエメに届けてもらえるようお願いをした。


それらの手紙とエメ宛ての招待状を封筒に入れた。


―――エメと茶会に行けたら、楽しいだろうな…


森でエメに会えるだけでも、もちろん嬉しい。でも、やはり大切に思う人をエスコートしたいと思ってしまう。


茶会には行けても行けなくてもどちらでもいいと思いつつ、少しだけ祈りを込めて封蝋をした。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


手紙を送る手続きをして部屋に帰ってから、もう一度、机の上に置いたエメとお揃いの招待状を見ていた。


「エメ、招待状が届いたら、なんて思うんだろうね。喜んでくれるだろうか…」


僕は首元から取り出した石に問いかけた。あの森から遠い王都では、方角が合っていても石は光ることはない。そんなただの小石でいいから、誰にも話せないことを口にしたくなったのだ。


何の反応もない石を見て、自分のことをふっと笑った。エメと一緒に招待されたことに、少し浮かれているらしい。


と、その時、部屋の扉がガチャっと開いた。


うわっ、と声を上げそうなのを何とか(こら)えた。


「ああ、ニコラ、おかえり」


「ただいま。……リュウ、顔赤くない?熱でもある?」


「この部屋、暑くて」


「……そう?僕は肌寒いくらいだけど…。熱があるようなら、薬もらってこようか」


「うん、ありがとう。でも熱はないよ。大丈夫だ」


「そう、それならよかった」


ニコラが、こういったことはサラッと流してくれる性格でよかった。


僕は火照った顔をニコラから隠して、招待状をそっと引き出しに仕舞った。

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