見極める力
準決勝は、その前の試合と比べると打ち合いが続いたが、落ち着いて勝つことができた。特に派手なことも起こらず、「準決勝なんだから、少しは盛り上げろよ」とウィリアムに文句を言われた。
「あんなに挑発しておいて、勝ち上がってこない奴に言われたくないよ」
冗談めかして言う僕の頭を、ウィリアムは「うるさい」と笑って叩いた。にこやかな表情の割に力がこもっている…。
僕は後頭部をさすりながら、先を歩いていったウィリアムの背中を睨み、それを横で見ていたディーンに笑いながら慰められた。
その足で、皆でアレン殿下の準決勝会場へ向かった。
殿下の相手は、その前の試合でディーンを破ったんだという。試合時間内に決着がつかず、獲得ポイントで負けてしまったとディーンは悔しがっている。
顔は知っているが、クラスも違い、話したこともない。トーナメント表を見ると、名前はヴィクター・レインというらしい。剣術が強いとは聞いたことがないが…、剣の師を変えると急に強くなる者がいる。彼もその一人なんだろう。
「剣の動きが不規則で、わかりにくかったんだよな…」
始まった試合を腕組みして見つめながら、僕の隣に座るディーンが呟いた。
「確かに…、多くの流派とはリズムが違うね。でも、不規則ってわけじゃないよ。ちゃんと彼のリズムで動いてる。……そこ、右上から斜めに、…、次、下から真上へ、…、一歩引いて左から右……、ってね」
僕は、見えるままにヴィクターが次に取るであろう動きを口にした。
「………」
両側に座る皆からの反応が一切ない。
「………えっ?どうしたの、みんな?」
僕が左右を見ると、ディーンの反対隣に座るジョージがため息を吐いて言った。
「ってね、じゃないよ。なんでそんな動きがわかるんだよ?」
「動きの流れをいくつか見てたら、リズムとか型とかが見えてくるだろう?」
「見えないよ。なにが『見えてくるだろう?』だ」
「ははは、リュウは、それが見える何かを掴んだんだろうね」
ニコラが憤慨するジョージをなだめていた。
僕は、ふっとエメの言葉を思い出していた。
『___風の音とか匂いとか、晴れてる時とは違うでしょう?』
あれは、エメが雨が降るのを感じて鼻歌を歌った時にそう言っていた。僕には、それがまるでエメが歌を歌って雨を降らせたように見えた。僕にはわからないけど、エメにだけ感じる何か……。
剣筋も、皆には伝わらないけど、僕にだけ見える何かがあるっていうことだろうか?もしそうなら、エメの感覚が少しだけど理解できた気がして嬉しくなった。
―――それとも、この間、額を強打してからおかしいのかな?
「リュウ、眉間に皺が寄ったり、顔がニヤけたり、おかしいぞ。考え事するなら、一人の時にしろ」
ディーンが視線を試合場に向けたまま、他には聞こえないように小声で言った。
先日、エメのことを少しだけ話してから、陰ながら心配してくれているのがわかる。
「……ありがとう」
僕も小声で返し、アレン殿下の試合の観戦に集中することにした。この後どちらかと対戦するのだから、よく見ておかないと。
「あ、違う。そこは右!」
思わず僕が声を上げた瞬間、左に引いた殿下の剣は弾かれて地面に落ちた。
「勝者、ヴィクター・レイン!」
横ではディーンが「ふーん、リュウに見える何かね。面白いな」と言って、僕の頭をくしゃっと撫でて立ち上がった。
僕は乱れた髪を直しながら、ディーンにの後をついて試合を終えた殿下の元へと向かった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
決勝の会場に踏み入れる前に、いつも通りふぅっと息を吐いて背筋を伸ばす。決勝だけは制限時間がなく、決着をつけなければいけない。いくつかの試合運びをイメージすると、僕はゆっくりと歩き出した。
試合場の真ん中では、準決勝で殿下と対戦したヴィクターが先に待っていた。
互いに一礼して静かに剣を構える。「始め!」の声に被るように剣のぶつかる音が響いた。
実際に対戦してみると、確かにリズムが独特で戦いにくい。でも、さっきの観戦でだいぶイメージが掴めていた。そして近くで見ると、相手の動きがよりはっきりとわかる。
相手のリズムに乗らないように、ヴィクターの剣を受けると、すぐさま僕も打ち込んでいく。今大会で一番の打ち合いとなり、観客席からどよめきが聞こえた。
身軽に場内を動くヴィクターに対して、僕はそれについていくことなく自分の動きに集中して応じた。
打ち合いをする中で、ふと体重移動が大きい型があることに気付いた。ヴィクターが思い切り左足に体重が乗るのに合わせて、僕も体重を乗せてその方向へ打ち込んだ。
ヴィクターは体制を崩して倒れ込み、僕の剣先は彼の首元を捉えていた。
「勝者、リュウ・シュライトン!」
こんなに激しい試合は久しぶりだった。息が乱れ、汗が流れ落ちる。地面に膝をついたままの相手も同じようだ。僕は剣を鞘に戻すとヴィクターに歩み寄り、右手を差し出した。
「いい試合だった、ヴィクター・レイン。ありがとう」
ヴィクターも顔を上げ笑顔になると、僕の手を握り返して立ち上がり、乱れた息をぐっと抑えて答えてくれた。
「ああ、楽しかった。こちらこそありがとう、リュウ」
観客席を見ると、殿下やディーン達が立ち上がって僕の優勝を喜んでくれていた。
僕も片手を高く挙げ、笑顔でそれに応えた。




