表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第4章 騎士学校
50/115

見極める力

準決勝は、その前の試合と比べると打ち合いが続いたが、落ち着いて勝つことができた。特に派手なことも起こらず、「準決勝なんだから、少しは盛り上げろよ」とウィリアムに文句を言われた。


「あんなに挑発しておいて、勝ち上がってこない奴に言われたくないよ」


冗談めかして言う僕の頭を、ウィリアムは「うるさい」と笑って(はた)いた。にこやかな表情の割に力がこもっている…。


僕は後頭部をさすりながら、先を歩いていったウィリアムの背中を睨み、それを横で見ていたディーンに笑いながら慰められた。




その足で、皆でアレン殿下の準決勝会場へ向かった。


殿下の相手は、その前の試合でディーンを破ったんだという。試合時間内に決着がつかず、獲得ポイントで負けてしまったとディーンは悔しがっている。


顔は知っているが、クラスも違い、話したこともない。トーナメント表を見ると、名前はヴィクター・レインというらしい。剣術が強いとは聞いたことがないが…、剣の師を変えると急に強くなる者がいる。彼もその一人なんだろう。


「剣の動きが不規則で、わかりにくかったんだよな…」


始まった試合を腕組みして見つめながら、僕の隣に座るディーンが呟いた。


「確かに…、多くの流派とはリズムが違うね。でも、不規則ってわけじゃないよ。ちゃんと彼のリズムで動いてる。……そこ、右上から斜めに、…、次、下から真上へ、…、一歩引いて左から右……、ってね」


僕は、見えるままにヴィクターが次に取るであろう動きを口にした。


「………」


両側に座る皆からの反応が一切ない。


「………えっ?どうしたの、みんな?」


僕が左右を見ると、ディーンの反対隣に座るジョージがため息を吐いて言った。


「ってね、じゃないよ。なんでそんな動きがわかるんだよ?」


「動きの流れをいくつか見てたら、リズムとか型とかが見えてくるだろう?」


「見えないよ。なにが『見えてくるだろう?』だ」


「ははは、リュウは、それが見える何かを掴んだんだろうね」


ニコラが憤慨するジョージをなだめていた。


僕は、ふっとエメの言葉を思い出していた。


『___風の音とか匂いとか、晴れてる時とは違うでしょう?』


あれは、エメが雨が降るのを感じて鼻歌を歌った時にそう言っていた。僕には、それがまるでエメが歌を歌って雨を降らせたように見えた。僕にはわからないけど、エメにだけ感じる何か……。


剣筋も、皆には伝わらないけど、僕にだけ見える何かがあるっていうことだろうか?もしそうなら、エメの感覚が少しだけど理解できた気がして嬉しくなった。


―――それとも、この間、額を強打してからおかしいのかな?


「リュウ、眉間に皺が寄ったり、顔がニヤけたり、おかしいぞ。考え事するなら、一人の時にしろ」


ディーンが視線を試合場に向けたまま、他には聞こえないように小声で言った。


先日、エメのことを少しだけ話してから、陰ながら心配してくれているのがわかる。


「……ありがとう」


僕も小声で返し、アレン殿下の試合の観戦に集中することにした。この後どちらかと対戦するのだから、よく見ておかないと。


「あ、違う。そこは右!」


思わず僕が声を上げた瞬間、左に引いた殿下の剣は弾かれて地面に落ちた。


「勝者、ヴィクター・レイン!」



横ではディーンが「ふーん、リュウに見える何かね。面白いな」と言って、僕の頭をくしゃっと撫でて立ち上がった。


僕は乱れた髪を直しながら、ディーンにの後をついて試合を終えた殿下の元へと向かった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


決勝の会場に踏み入れる前に、いつも通りふぅっと息を吐いて背筋を伸ばす。決勝だけは制限時間がなく、決着をつけなければいけない。いくつかの試合運びをイメージすると、僕はゆっくりと歩き出した。


試合場の真ん中では、準決勝で殿下と対戦したヴィクターが先に待っていた。



互いに一礼して静かに剣を構える。「始め!」の声に被るように剣のぶつかる音が響いた。


実際に対戦してみると、確かにリズムが独特で戦いにくい。でも、さっきの観戦でだいぶイメージが掴めていた。そして近くで見ると、相手の動きがよりはっきりとわかる。


相手のリズムに乗らないように、ヴィクターの剣を受けると、すぐさま僕も打ち込んでいく。今大会で一番の打ち合いとなり、観客席からどよめきが聞こえた。


身軽に場内を動くヴィクターに対して、僕はそれについていくことなく自分の動きに集中して応じた。


打ち合いをする中で、ふと体重移動が大きい型があることに気付いた。ヴィクターが思い切り左足に体重が乗るのに合わせて、僕も体重を乗せてその方向へ打ち込んだ。


ヴィクターは体制を崩して倒れ込み、僕の剣先は彼の首元を捉えていた。


「勝者、リュウ・シュライトン!」



こんなに激しい試合は久しぶりだった。息が乱れ、汗が流れ落ちる。地面に膝をついたままの相手も同じようだ。僕は剣を鞘に戻すとヴィクターに歩み寄り、右手を差し出した。


「いい試合だった、ヴィクター・レイン。ありがとう」


ヴィクターも顔を上げ笑顔になると、僕の手を握り返して立ち上がり、乱れた息をぐっと抑えて答えてくれた。


「ああ、楽しかった。こちらこそありがとう、リュウ」



観客席を見ると、殿下やディーン達が立ち上がって僕の優勝を喜んでくれていた。


僕も片手を高く挙げ、笑顔でそれに応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ