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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第4章 騎士学校
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剣術大会・予選

ディーンとのあの剣術の練習から一週間が経ち、剣術大会の日を迎えた。


木剣で額を強打した怪我は幸いにも、ただのたんこぶで済んだ。数日ほどは、会う人皆に驚かれては、面白い顔だと笑われたが、今は腫れはすっかり引いて、額に内出血の跡が残るだけだ。それも前髪を下ろしていれば見えない。


剣術大会は、午前中は予選が行われる。くじ引きで決められた対戦相手と戦い、相手の剣を落とすか、膝をつかせれば、その場で勝ちが決まる。または試合時間の間に獲得したポイントが多い方が勝ちとなる。勝ち方によって点数がつけられ、その上位から決勝へと進める。


前年に十位以内に入っていれば予選は免除されるから、前年準優勝だった僕は、同じく三位のジョージと、試合用の模造刀のぶつかり合う音があちこちから響く会場を回って友人達の応援をしていた。


間もなく予選が終わろうかという頃、会場の一画、校門に近い辺りが(ざわ)めいた。そちらに目をやると、アレン皇太子殿下のお姿があった。


「アレン殿下だ。リュウ、行こうか」


ジョージと一緒に殿下の元へ行くと、そこではウィリアムの試合が行われていた。


「お久しぶりです、アレン殿下」


「ああ、リュウとジョージ、久しぶり。元気だったか?あ、リュウは何か大変だったみたいだね」


「ご存じなのですね…。ご心配ありがとうございます…」


森で崖から落ちた方か、先日のたんこぶか、どちらかわからないが、どちらでも恥ずかしい…。


僕が赤面するのを、殿下が可笑しそうに笑われていた。ジョージも便乗して笑っている。これまで散々笑ったくせに。


ウィリアムのスコアシートを覗くと、既に予選突破は決めていて、決勝トーナメントでより有利な対戦となるようにポイントを稼いでいるようだった。殿下がこの試合の終わりまでご覧になると仰ったので、僕らも一緒に観戦することにした。


その試合終了をもって、予選は終わり、昼食の時間となった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


僕らは殿下と昼食を取ることになり、学校の食堂ではなく、寄宿舎の食堂にいた。


食堂は普段、いくつものテーブルが並び、寄宿生達が揃って食事をするのだが、王子殿下がお越しになるので、真ん中に綺麗に整えられたテーブルが一つだけ用意されていた。給仕の者達も控えている。


殿下が奥の中央の席に着かれたのに続き、左右にウィリアムとニコラ、向かいに僕、ディーン、ジョージの順で座った。


給仕達が食事を運ぼうとした時、アレン殿下が側近の一人を呼んだ。


「食事はあのテーブルに並べておいてくれないか。あとは自分達でやるから」


「しかし…」


「毒味は済んでいるんだろう?久しぶりの友人との時間を楽しみたいんだ。頼むよ」


殿下が少しイタズラっぽい顔をしている。側近は、やれやれといった感じでため息を吐くと、給仕達に指示を出した。


壁際に寄せられていたテーブルに、用意されていた料理が次々と並べられる。


「我々は扉の向こうで控えますが、よろしいでしょうか」


人払いが必要かを確認している。


「ああ、それは構わない。ありがとう」


側近や護衛の者達は、殿下に一礼すると、食堂を出ていった。


「はあ、本当に久しぶりだな」


静かに扉が閉められると、殿下は大きく息を吐いて伸びをした。「食べながら話そうか」と席を立たれると、用意された料理をいくつかプレートに取っていく。僕達も、殿下に続いた。


「野戦の食事スタイルだな」


ディーンが言うと、ニコラが笑った。


「こんな豪華な料理は出てこないけどね」


皆、銘々に料理を取って席に戻ると、楽しく食事が始まった。


「で、リュウ。怪我したって聞いたけど、大丈夫か?」


僕はむせて咳き込んだ。慌てて水を飲み、一息吐いて落ち着こうとする。


「失礼しました。でも、アレン様、その話からですか?」


学校で僕らだけの時間の時は『殿下』と呼ばないように、と殿下のご希望に従って『アレン様』と呼ぶことにしている。


「ははは、慌てさせてすまない。ウィルから怪我をしたとだけは聞いたが、仔細はリュウに聞けと言うんだ。気になってな」


「はぁ…」


僕はウィリアムを恨めしく睨んで、先日の話をもう一度した。アレン様からは同じような質問が飛んできては、僕は同じように答えた。


「それにしても、リュウが崖から落ちるなんて、何か考え事でもしてたのか?」


ああ、せっかく先日はジョージが逸らしてくれたのに、話が戻ってきてしまった。


「考え事……」


うまく誤魔化したいと思っているのに、その時のエメが思い出されてしまう。木漏れ日の中に立ち、飛んできた小鳥が彼女が差し出す手に止まろうとする――まるでお伽話の挿絵のような光景で………


「___、リュウ!」


「どうした、大丈夫か?」


周りの呼び掛けで現実に引き戻されて、ハッと顔を上げた。


「……えっと、考えてたこと…」


なんでもありきたりな考え事を言っておけばいいのに、それが出てこない。適当な誤魔化しが、エメの存在を否定するような気がして、言葉にならなかった。


「リュウ、大丈夫か?」


アレン様も心配そうに僕を見ている。


「申し訳ありません……この件については、今は勘弁していただけますか?僕の中でも、整理できてないことがあって…」


「いや、知らなかったとはいえ、リュウがこんなにも悩んでいることを気軽に話題にして、こちらも悪かった。話せるようになったら聞かせてくれ。力になれることがあれば、いつでも力を貸す」


「…ありがとうございます」


アレン様や皆に気を使わせてしまって申し訳なく思ったが、すぐに別の話題となり、楽しい雰囲気の昼食会へと戻った。皆の心遣いあってこそのことと感謝しながら、僕もその輪に加わった。



ふと扉がノックされジョージが対応すると、アレン様の従者が「決勝の組み合わせが決まりました」と一枚の紙を持ってきた。


ジョージはそれを見ながら席に戻ってくる。


「歩きながら見ないで、持ってこい」


ウィリアムが右手を差し出して、早く見せろと文句を言った。


「うわっ、順調にいけば、今年もリュウと準決勝で当たるじゃないか」


ジョージが大きくため息を吐いて、アレン様の左隣に座るニコラにテーブル越しにトーナメント表を手渡した。ニコラはそれをアレン様に渡す。


ウィリアムは待ちきれずにアレン様の後ろから覗き込んでいる。


「おい、ジョージ、リュウとの対戦は、その前に俺に勝たないといけないんだぞ」


「おお、ウィルが勝ち上がってくるの、楽しみにしてるよ」


なんだか対抗心がお互い強くて、喧嘩にでもならないか、見ている方はハラハラする。


一方、アレン様とニコラ、ディーンの三人は、決勝までのどこかで当たる可能性があるが、こちらはお互いの健闘を祈り合い穏やかだ。僕もそっちがよかった、とはウィリアム達の反応が怖くて口には出さない。

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