背負われて
「___、リュウ!大丈夫かっ?リュウ!」
「うっ……、痛ったぁ…」
目を開けたら空が見えた。頭がガンガン痛い。
―――ここは……?何があったんだっけ?
すぐにディーンの顔が視界に割り込んできた。
「あっ、リュウ!気が付いたか?すまなかった。お前がそんなに動揺するなんて思わなくて…」
「えっと…、ここは…?何してたんだっけ?」
「鍛錬場で練習してたら、俺が弾いた剣がお前の額を強打したんだ」
木剣が目の前に迫る瞬間を思い出して、状況を少し把握した。ズキズキ痛む右の額を手で触るとわずかに膨らんでいた。
「それ、すごく腫れるだろうなぁ…」
ディーンが申し訳なさそうに言った。僕はその手のひらを確認する。
「血は出てないんだね」
「ああ、腫れてるだけだ」
流血してたら大騒ぎになりそうだから、少しホッとした。
「いったたたた…」
起きあがろうとする僕をディーンが「大丈夫か?」と手を貸してくれる。一旦座ったが、まだ頭がぼんやりしてすぐに立ち上がることができなかった。膝に顔を埋め、痛みを逃がそうと息を吐いた。
「リュウ、乗って。医務室に連れてくから」
顔を上げると、ディーンが僕に背を向けて屈んでいた。
「いや、歩けるよ。医務室も、そんな大袈裟な」
「まだ立ち上がれないくせに無理するな。それに、頭部を怪我したら診てもらうのが規則だ、馬鹿。早く乗れ」
僕は這い上がるようにディーンの背中に乗り、首元に腕を回した。
「しっかり掴まっててくれよ。ん、くっ……」
ディーンは一度膝をつき、更には片手も地面について、よろけながら立ち上がった。僕より一回り背が高いディーンに背負われ、視線がいつもより高くなった。
ゆっくりと歩くディーンの背に揺られながら、僕はエメのことを考えていた。そしてそれをディーンに話そうかどうか迷っていた。
「はぁ…」
思わずため息をこぼしてしまった。
「リュウ?揺れて痛むのか?もうすぐだから我慢してくれ」
その声はひどく心配をしているようだった。
「ごめん、ディーン…」
「謝るのは俺の方だ。すまなかった。いつも打ち合いの時に話してくるのはリュウの方だから大丈夫かと思って。普段より思ったこと話してくれるし…」
「そうかもね。剣を振りながらの方が、本音が出るかも」
今まであまり意識せず、ディーンとは喋りながら剣を振っていたが、改めて指摘されて納得した。今日は、僕が悩みを話しやすいかと思って、この機会に聞いてくれたのだと。
「………なぁ、ディーン」
「ん?」
「もし、ディーンが怪我をしたら、僕がこうやって運べるかな?」
「リュウが、俺を?」
ディーンが少し考えて、フッと笑った。
「しかも、ディーンが意識なくて掴まってもくれなかったら…」
「それは無理じゃないか?運べても、すごく引きずられそうだな…」
「そうだよね……」
少しの沈黙の後、ディーンに話せるところだけ打ち明けようと心を決め、話し始めた。
「僕が森で…、崖から落ちたって話…」
「ああ、大変だったな」
「その時、その森に住んでる女の子に助けてもらったんだ」
「そうなんだ。よかったな、可愛かったのか?」
「うん、可愛い……、じゃなくて、ただ手当てしてもらっただけと思ってない?」
「……?どういうことだ?」
「僕、崖から落ちて気を失ってたんだけど、それをその子が一人で近くの小屋まで運んでくれたんだ」
「運んだ⁈意識がないお前を女の子が?その子はもしかして俺くらいガタイがよかったり……」
「しないよ!」
どんな子を想像してるんだ。華奢で可憐なエメを思い出して、またため息が出た。
「その子、よっぽど必死だったんだな」
「そうだったんだろうな…。大変だっただろうとは思ってたけど、さっきディーンが僕を背負って立ち上がる時、膝をついてよろけてただろう?彼女はどうやって僕を運んだんだろうって……」
「お前が掴まってくれてても重いからな…」
ディーンですら重いなら、エメはどんな思いであのでこぼこ道を僕を担いで進んだんだろうか…。
「その子さ『重いのよりも、背が高くて大変だった。引きずってブーツをダメにしてごめんなさい』って運んだことは何事もなかったように言ったんだ」
「すごいな。俺なら『お前、すごく重かったんだぞ』って文句言うだろうな」
「そうだよね。それが普通だと思う。それに、僕が動けるようになるまでずっと看てくれて…」
「それは惚れるな」
「………うん」
「それで?親に反対されてたりするのか?」
「いや、友人でいることには反対されてない。ただ…」
「友人じゃなくて、それ以上を考えると、ってことか。爵位のある家に養子縁組する……ぐらいは考えてるよな。それができないのか」
「………そういうこと」
僕は改めてどうしようもない状況にため息を吐いた。
「この話って、ウィル達にも言わない方がいいのか?」
「そうしてくれると嬉しい」
「ん、…わかった。話してくれてありがとう、リュウ」
宿舎の玄関の少し手前で僕は降ろされ、ディーンに支えられながら医務室へと向かった。




