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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第4章 騎士学校
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帰舎

二日掛けて王都へ戻り、学校の寄宿舎に着くと、現実に帰ってきたような感じがした。なんだかエメと過ごした時間が遠く感じられた。


とりあえず荷物を自室に置いて、談話室へと向かった。


「おー、リュウ、やっと帰ってきたな」

「大丈夫か、リュウ」

「えっ、リュウがどうかしたのか?」

「なんか大怪我したんだろ?」


談話室で喋ってた友人達が、僕に気付いて口々に声を掛けてきた。普通は、一週間くらい前には寮に戻ってきているものだ。新学期二日前に戻ってきた僕の歓迎は、談話室で少し目立っていた。入り口に立っていると注目を集めるので、僕は友人達の座るテーブルの空いてるソファに座った。


「ただいま。ディーン、なんで怪我したこと知ってるの?」


「休暇中にシュライトン伯とお前が来るって聞いてたのに、怪我してお前が来られなくなったって親父が言ってたから」


「あ、そうか。レーンフィル領に行く予定があったね。パーカー伯爵には、またいつか改めてお詫びに伺うつもりだけど…」


「ああ、シュライトン伯は来られてたし、それは問題ないけど、大怪我ってどうしたんだ?」


ディーンは、フィレイナード領の隣、レーンフィルの領主パーカー伯爵家長男で、この学校に入学する前から交流があった。立場が似ていることもあって話が合い、入学以来の友人である。悩みがあれば相談し、今では親友と呼べる存在だと僕は思っている。


この夏は、隣り合う領主同士の話し合いの場に、僕も同席させてもらうはずだったんだけど、怪我をしたせいでそれはまたの機会に、ということになったのだ。


「ああ……、かっこ悪いからそういうのは触れないでほしいんだけど」


「かっこ悪いなら余計に聞きたいな」


ディーンの横から、揶揄(からか)う気満々でそう言うのはウィリアムだ。公爵家の三男で、アレン王子殿下が僕らと仲良くしてくださるのは、ウィリアムが殿下の再従兄弟(はとこ)である事が大きい。


「ウィル…、怪我したっていうのに、そんな楽しそうに…。リュウが言いたくないなら、言わなくてもいいと思うけど」


ニコラが僕を気遣うように言ってくれた。彼の父親は近衛兵団長のフランシス侯爵で、いかにも王城の騎士という気品と威厳のオーラを纏い、僕の憧れの存在でもある。ニコラ本人は、全く違ったタイプのおっとりとした性格だ。


「ニコラは優しいな。俺は聞きたいけど」


南部の領地への里帰りで日焼けした顔のジョージも、向かいに座るウィリアムとニカッと笑い合ってそう言って、さあ話せと言わんばかりの顔で僕を見た。


僕は大きくため息を吐いた。


「大して面白くないと思うよ」


「面白かったら笑ってやるし、面白くなければ微妙な空気になるだけだろ。気にせず話せよ」


訳わかんないことを言って、ウィリアムは笑っている。


「どっちも嫌だよ…」


こんな寄宿舎に戻って早々だとは思ってなかったけど、どこかで聞かれることだったろうから、諦めて話すことにした。


「領内の森に入ったら崖から落ちたんだ」


「崖⁈なんでそんな所に行ったんだよ」


ディーンが驚いて聞いた。


「猟場の柵が壊れてて間違って入ってね…」


「怪我は?もう大丈夫なのか?」


ニコラが心配して聞いてくれる。


「ああ、もうすっかり治ったよ。最初は捻挫やら打ち身やらで一週間動けなかったけど」


「そうか、大変だったな。でもどうして崖から落ちたんだ?可愛い女の子にでも見惚れてたのか?」


そう茶化そうとしてウィリアムが笑っている。僕は心臓が跳ね上がり顔が熱くなるそうなのを、ウンザリした顔を作って大きくため息を吐くことで誤魔化した。


「そんな森の崖の近くに女の子がいると思う?」


―――ああ、ウィルの言うとおり、可愛い女の子(エメ)に見惚れてたんだよ。


図星を指されて僕はドキドキしていた。それがバレないうちにこの話題を終わらせたい。


「下草に隠れてた石を踏んで、バランスを崩して崖から落ちたの。もういいだろ」


「ははは、リュウがそんな鈍臭い失敗するなんて、珍しいな」


「でもリュウは、何かに没頭すると周りが見えなくなることがあるだろ。何か考え事でもしてたのか?」


ディーンが笑い飛ばして話がおしまいになると思ったのに、ウィリアムはまだ食い下がろうとする。ため息が漏れそうになった時、ジョージが口を挟んだ。


「怪我は治ったって、剣術大会には出られるのか?」


剣術大会とは、休暇明けに行われる剣術のトーナメント戦だ。結果は剣術の授業の成績に加味され、卒業後の配属にも関わるから、皆、夏の休暇中は練習に励んでいるはずだ。


「ああ、大会には出るよ。本格的な練習は数日前に再開したとこだから、どこまで勝ち進めるかわからないけど…」


「そうなのか。俺は、今年こそお前に勝とうと思って練習してきたんだから、勝ち上がってくれよ」


僕は、剣術には自信がある。幼い頃からこの学校に入るまでの剣の師が良かったおかげだと思うが、毎年五位以内には入っている。昨年は決勝まで駒を進め、惜しくも準優勝だった。


ジョージとはその一つ前の準決勝で当たり、その試合は僕が勝った。それから一年、『次は負けない』と僕に言い続けてきた。僕も負ける気はないが、今回は練習不足でどうなるのか、自分でもわからなかった。


そういえば、ジョージのおかげで話は剣術大会に()れていて、僕はほっとした。

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