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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第3章 前に進む
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日暮れ前に

馬車がフィレイナードの領地に入った。


まだ日は高い位置にある。これなら、明るいうちにエメに会えそうだ、と僕は馬車の窓から空を見上げていた。


トリドの街は都会で治安が悪い場所もあることと、フィレイナードとトリド間の街道は賊が出ることもあるため、今回の旅ではレオンとマークに護衛に付いてもらった。普段、フィレイナード領内では護衛を付けずに行動する事が許されているが、それは、領内は田舎の割に警備兵が多く、治安が良いおかげだと今回の旅で気付いた。


領内の街を通り抜け、まもなくコルンだ。窓からはあの森も見えてきた。嬉しくて、つい窓に寄って外を眺めていたら、隣を馬で走っていたマークに笑われた。


「仕方ないじゃないか。嬉しいんだから」


御者台に座るレオンには聞こえないように、小さな声で独り言を言った。



街外れの猟場に着き、馬車が止まった。


僕が自分の荷物を持って馬車を降りると、マークは乗っていた馬を馬留めに繋いでいた。僕がエメに会った後、乗って帰れるように馬を置いていってくれるのだ。


「じゃあ、シュライトンの屋敷で待ってるから、日が暮れる前には帰ってこいよ」


マークは僕の頭をガシガシと撫でると、御者台のレオンの隣に座った。


「ありがとう、マーク。レオンもありがとう!」


二人は笑顔で片手を挙げて、馬車は走り去っていった。



「さて、行こうか」


僕は、石のネックレスを引き出して森を進む方向を確認した。森の奥に向けると淡く光る石を見て、エメがそこにいることがわかって嬉しくなった。


明るい通りから森に入ると、陽の光はだいぶ遮られ、湿った空気が森に戻ってきたことを感じさせた。


所々見覚えのある道を、でもまだ石の光を頼りに進んでいく。


今日もまた、石の光が小さく揺らめいたと思ったら、点滅を始めた。エメが僕が森に入ったのに気付いてくれた。


前回は何事かと驚いたが、今日はエメが木々の間を抜けてくる様子が思い浮かぶ。僕もエメが来る方向を目指してゆっくりと進んだ。


小屋の前の開けた所まで来ると、木々の向こうにエメが見えた。歩いて来てくれたらいいのに、僕のところまで駆け寄って来た。


「ルゥ!来てくれてありがとう」


エメの笑顔が見られて嬉しくなったが、せっかく会えたのに、日暮れ前に帰らないといけないと思うとため息が出そうになる…。


「エメ、また急に来てごめん」


僕の都合で勝手なことを言っているのに、エメはにこっと笑った。


「いつでもいいって言ったの、私だもの。ルゥは謝る必要はないわ。今からだと暗くなるからゆっくりしてもらえなのに会いに来てくれたんでしょう?」


そう言ってくれるエメに、僕も自然と笑顔になった。


「僕、二日前からトリドっていう街に商談に行って、今日帰ってきたんだ。エメにお土産を渡したくて…」


「トリドって…、地図で見たことしかないけど、ここから遠いでしょう?もしかして、帰り道に寄ってくれたの?」


「うん、家に帰ってからだと日が暮れちゃうから。エメの顔だけでも見たいと思って…」


僕は自分の言った言葉に照れて笑うと、エメは頬を赤らめて下を向いてしまった。


「嬉しい…」


小さく思わず心の声が漏れてしまったかのように呟いたエメの一言が、僕の心にじわじわと温かく広がっていった。僕はエメをそっと抱き寄せた。


「ありがとう、エメ。こうして迎えてくれて、僕も嬉しい」


エメが僕の腕の中で顔を上げて、笑顔で僕を見つめた。


「暗くなる前に帰らないといけないわね。小屋(ここ)でおしゃべりする?」


「いや、お土産が少し重たいから、家まで運ぼうと思うんだけど、案内してもらってもいいかな」


「私、重たくても平気よ」


エメがいたずらっぽく笑った。


「うん、エメが力持ちなのは知ってるけど……、僕がエメに重いものを持たせるのが嫌なんだ」


「ふふふ、ありがとう。ルゥは優しいのね。じゃあ、家までお願いします」


「いつも案内してもらってごめんね。でも、今日はちょっと試したいことがあるんだ」


「試したいこと?」


「うん、ちょっと待ってね」


僕は石を手に乗せて、不思議そうな顔をするエメに背を向けた。そして森の出口がどちらか、声には出さずに石に問いかけた。


石はふわっと光った。少し右へ動かすと、光は強くなった。


「エメ、森の出口はこっちの方角?」


僕は、石が明るく光る方を指差してエメに聞いた。


「え、ええ、そっちが出口よ。でもこの間は…」


エメが驚いていた。


「石への聞き方を変えてみたんだ。これで今日はエメの家からは、一人で帰れるよ」


帰りもエメに案内をしてもらったら、だんだん暗くなる森の中を一人で戻らないといけなくなるのが心配だった。


エメがすぐ近くにいても、石は森の出口を指し示してくれた。僕は試したことがうまくいって、ほっとしていた。

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