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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第3章 前に進む
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夜明けの帰り支度

商談を終えコルンへと帰る日、僕らは朝早くから出発の準備をしていた。ようやく夜が明けてきた薄紫の空の下、僕はエメのことを思いながら荷物を馬車に積み込んでいた。


レオンは眠そうな顔で文句を言っている。


「なんでこんな朝早くから…。昨日の店の酒、すごく美味しかったのに、三杯しか飲めなかったし」


マークも笑いながらそれに続く。


「リュウ、お前が酒を飲めるようになったら、朝まで付き合えよ」


「わかった、約束するよ」


「「絶対だぞ」」


同じ顔してそう凄んでくる二人に、僕は少し押され気味だ。


「三杯しか」と僕のせいで早く切り上げたみたいに言っているが、酔いすぎないように、最初から三杯までと自分達で決めていたのに。それに、そもそも、今朝こんなに早くに出発するのを決めたのはあの二人だ___


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「で、リュウはあの土産をいつ渡すんだ?」


商談の日の午後、トリドの市長への挨拶も無難に済ませ、いくつか父上から指示のあった箇所の視察を終えた。その後、宿の向かいの店で夕飯を食べ、三杯目の酒が運ばれてくるのを待っている時にマークにそう聞かれた。


「え、決めてなかったけど……」


「もうすぐ王都へ戻るんだろ?」


「ああ、三日後に出る予定。明日は家に着く頃には日が暮れてるだろうし、その次の日の朝かな…?」


僕が答えた途端、聞いてきたマークだけじゃなくてレオンまで「はぁ⁈」という顔をした。何がいけなかったんか知らないが、こういう時に息ぴったりに馬鹿にしてくる顔は二倍腹が立つ。


「リュウ、朝って、お前のスケジュールを考えると早朝だろ?」


レオンが驚いた様子で聞いてきた。


「そうだけど。朝食を早く取って、その後すぐなら会いに行く時間が取れると思うんだけど…」


「早朝に女性を訪ねるなんて最悪だぞ、リュウ」


少し低い声でそう言うマークの横で、レオンも大きく頷いている。


「えっ、そうなの?なんで?」


マークが言う《最悪》の理由がわからずにいると、二人揃ってため息を吐き、マークは額に手を当てて天井を仰いだ。レオンは、やれやれと肩をすくめて呆れた顔をすると、テーブルにゴンッと音を立てて肘をつき、そこに顎を乗せた。酔っているのか、二人とも動きが無駄に大袈裟だ。


レオンは、頬杖をついたまま僕の方へ身を乗り出して、説教じみた口調で言った。


「本当にわかってないな。女性は会うために準備が必要なの。会いたいからって、早朝に押しかけてたら嫌われるぞ」


「………本当に?」


エメは起きて着替えたらすぐに、さっと髪を結んで朝食を用意してくれていた。だから朝早くても大丈夫かと思ってたけど…。


「もしもだぞ、相手がお前に好意を持ってくれてたら尚更だ。少しでも綺麗に支度して迎えてくれようとするもんだ」


レオンがそう言えば、マークも腕組みをして大きく頷いた。


「まあ、逆に言えば、適当な格好で迎えられたら、どうでもいい相手だって言うことだな」


エメには当てはまらないような気もするが、二人に逆らっても面倒臭そうだ。この場は従っておこう。


そう思った時、頼んでいた三杯目のジョッキが二人の前に置かれた。


「じゃあ、レオンはいつ会いにいけばいいと思う?」


「明日でいいんじゃないか?」


さらっと返事が返ってきて、僕は驚いた。


「えっ、明日?コルンに着く頃には日が暮れてるよね?」


「それなら明日の朝早くに出たらいいだけだろ」


「二時間早く出たら、二時間早く着く」


意見が一致した乾杯とばかりに、二人で満足そうにジョッキをぶつけている。


「そうだけど…」


元々早くに出発の予定だ。いつもより早起きして準備する予定にしているのに、二時間も早めたら暗いうちから準備をすることになるんだけど…。


―――この酔っ払い達はわかってるんだろうか…?


「よし、これを飲んだら帰るぞ、リュウ」


「う、うん、待ってるよ…」


まだ酒を飲めない年齢の僕は、もう夕飯を食べ終わったからすぐ向かいの宿に一人で帰れると思うんだけど、彼らが飲み終わるのを待ってろと言う。


すぐに僕のことを揶揄(からか)うけど、なんだかんだと心配してくれてるのがわかる。だからおとなしく待っていると、楽しく喋りながら、あっという間にジョッキを空にして「さあ、宿に帰って寝るぞ」とレオンが立ち上がった。


「リュウ、置いてくぞ」とマークも先に店を出て行く。


―――僕は、二人が飲み終わるのを待ってたんだけど。


なんだか振り回されっぱなしで何か一言文句を言いたいところだが、僕のための予定変更だ。僕は黙って彼らの後を追った。



それぞれの部屋に入る前に、僕は二人に確認した。


「明日、本当に二時間早く出るの?」


「ああ、もちろん。寝坊するなよ、リュウ」


レオンは僕の頭をグリグリ撫でて僕の左隣の部屋に入っていった。マークも「おやすみ」と軽く片手を上げて、右隣の部屋へ。


なんだか二人に圧倒されて、少しの間、部屋の前の廊下で呆然としていたが、気を取り直して自分の部屋へ入ると、明日に備えて速攻で寝た。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


___そして今朝の夜明け前からの出発の準備に至る。


レオンもマークも、僕に文句みたいなことばかり言って楽しんでいるようだ。口では文句を言いながらも、まだ暗いうちから起き出して、手早く準備を進めてくれている。


彼らに感謝の言葉を言う代わりに、文句の嵐に答えていく。僕も楽しくなってきた。


そして、今日の夕方にはエメに会えると思うと顔がにやけそうだ。でも、そんなところを見られたら、二人に揶揄われるに決まっている。


僕はふぅっと静かに息を吐いて気持ちを落ち着けると、顔を引き締めて、荷物を次々と積み込んだ。

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