品物の選び方
「では、こちらが新しく取り扱うことになった品物のリストです。気になる商品はサンプルを送りますから、この中から選んでいただけますか?」
新しい品目はこの場ですぐに注文を決めるわけではない。サンプルで確認してから、後日注文書を送るのだ。
「わかりました」
グレンから受け取った紙には、品物の名前がびっしりと書かれている。父上は、いつも顎に手を当てそのリストをしばらく眺めた後、選んだ品物の名前の横にペンでチェックを次々と入れていく。
どのようなものかはわかっていたが、手にしているリストには品物の種類、名前、販売単位、価格しか書かれていない。
これだけの情報では、並べられた商品の違いなんてよくわからない。
―――今になって気づいた……。父上はどうやってこのリストから選んでいるのか、考えるのを忘れてた………
父上が簡単そうに選んでいたから、気付いていなかったが、いざ選ぼうとリストを目の前にして、その基準がいることに気付いたのだ。
商談の最中に気付いて冷や汗が出てきた。
―――何を基準に選ぶんだろうか?他に資料があったような気も……
僕がリストを手に考え込んでいると、グレンが思い出したように、もう一枚紙を出してきた。
「こちらをお出しするのを忘れていました。取り扱いがなくなる品のリストです。これらに変わる商品は、ぜひサンプルでご確認ください」
「ありがとうございます」
なるほど、とりあえずは、取り扱いがなくなる商品の代わりになる物を選べばいいわけだ。僕は、同じ名前を見つけてはリストにチェックを入れた。同じ名前がなければ、グレンに聞けば、似た商品を教えてくれる。
順調に確認が進み、僕はほっとしていた。
―――でも、取り扱い終了の品の代替分以外の、新しい品も選ぶんだろうな。
チェックを入れずに飛ばしていく商品を少し気にはなりつつも、今回は準備をしていない。それは次回以降の課題として、今できる確認を進めた。
と、取り扱い終了のリストの最後に紅茶がたくさん並んでいることに気付いた。新規取り扱いリストにはもっと多くの種類が記載されている。
「紅茶の仕入れ先を変えたのですか?」
「ええ、そうなんです。品質も良く、安定的に仕入れられる相手を見つけたので」
「この変わった名前の物は何ですか?『おやすみ前に』とか『甘いケーキと共に』とか…」
「面白いでしょう。ブレンドティーなんです。『おやすみ前に』は、茶葉にリラックス効果のあるハーブを混ぜているんです。『甘いケーキと共に』は、苦味が強めの茶葉を中心にブレンドしているんです」
「へぇ……」
紅茶にいろんな種類があるのは知っていたが、それを混ぜて飲むなんて、僕は知らなかった。
「フィレイナード夫人が、ブレンドされるのがお上手ですよね」
「えっ、母が、そうなんですか⁈」
「ははは、ご存知なかったですか?まあ、ご子息がお母様とお茶の話なんてあまりされないでしょうね」
「…そうですね」
僕も「はははは」と笑ったが、また僕が知らなかった母上の一面に驚いていた。そんな僕の様子を見て、グレンはニコニコしていた。
「私がシュライトン家でいただいたお茶が美味しくて、フィレイナード伯に伺ったら、夫人がブレンドされていると伺ったんですよ」
「このリストにあるのは、ブレンドした物を仕入れているのですか?」
「いえ、我々でブレンドしています。フィレイナード夫人のブレンドの話を聞いたうちの娘が、すっかり紅茶にはまって、最近、この街でブレンドティーの店まで始めたんです。それを、店だけではなく、卸売もすることにしまして」
「そうなんですね。では、ブレンドティーもいくつかサンプルをお願いしようかな」
「ええ、ぜひ試してみてください」
僕は数あるブレンドティーのうち、どれにしようか悩んだ。
―――まずは、『甘めのミルクティーに』『大人のミルクティー』かな。ミルクティーにも種類があるなんて…。それから『パンケーキの後で』。ん?これはどんなブレンドなんだろう?
「グレンさん、『星を眺めて』とはどんなブレンドなんですか?」
「ああ、これは小さな砂糖菓子を茶葉に入れてるんです。ガラスのポットで入れると、上の方に砂糖粒が浮くんです。それを星に見立てたという…、ちょっと無理矢理ですけど」
グレンは笑って答えた。でも、面白いと思う。僕は、『星を眺めて』の横にもチェックを入れた。
僕はリストの最後までチェックを入れ、全体的に見返した。
―――こんなもんかな。
ブレンドティーの名前をもう一度確認して、選択基準がエメであることに気付いて赤面しそうになった。改めて見ると、明らかにエメと過ごした時間を連想させる品名なのに、無意識に選んだ自分に驚く。
―――はぁ、エメに会いたい…
確認が終わって気が緩んだら、頭の中はエメのことで占領されてしまいそうだ。気を取り直してリストをグレンに渡した。
「では、サンプルよろしくお願いします」
「はい、かしこまりました。写しをすぐに作りますね」
そう言ってグレンは近くにいた秘書と思われる男に書類を手渡した。
「あの…、写しを作っていただいている間に、下のお店を見せていただいてもいいですか?土産物を見たいのですが」
「ええ、もちろん。ゆっくりご覧ください。そういえば、ブレンドティーの店も一度ご覧になりませんか?ここから歩いて行ける距離ですから」
「そうなんですね。ぜひ伺ってみたいです」
紅茶もエメへのお土産に悪くないかもしれない、なんて思った。
「では、地図を書いたら持っていきますので、下の店で待っていてください」
「はい、お願いします」
僕は席を立ち、レオンとマークと共に階下の店へと向かった。




