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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
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丘から見える街と森

「久しぶりだな…」


故郷の街を見下ろす丘に立った。


僕は12歳から寄宿舎のある王都の学校で学んでいて、今は五年生だ。国中から貴族の子息が集まるその学校では気の合う友人もでき、楽しく過ごしている。あと一年通ったら、そのまま王都近くの騎士団に所属する予定だ。


今は夏の休暇となり、数日前からこの街に帰ってきている。王都からこの街までは二日掛かるので、夏と冬の長期休暇以外は呼ばれることがなければ滅多に帰ってくることはなかった。


今回も、帰ったその日から晩餐会が開かれたり、父上の古くからの知り合いが訪ねてきたりと、僕の久しぶりの帰郷を歓迎してくれていた。ありがたいとは思うが、数日続くと少し疲れてきた。何より、今回は婚約者にどうかとご令嬢の紹介が多い……


ひと月の休暇の間、ここで過ごす予定だったが、早めに切り上げて寄宿舎に戻ってもいいかもしれない。何か適当な理由はないだろうか。


伯爵家の長男である以上、いずれはこの地に戻ってくることになるが、しばらくは騎士団での同世代の仲間と生活をしながら、この国についてもっと知りたいと思っている。今は、婚約者については先延ばしにしたいのだが。



今日は少し落ち着いたので、一人で馬の遠乗りをしていた。


寄宿舎に入ったすぐの頃は、休暇で帰るたびにここから街を眺めるのが好きだったが、ここ数年は来ていなかった。


日差しは暑いが、丘を吹き抜ける夏の乾いた風が気持ちいい。



僕は改めてコルンの街を眺めた。


右手、街の東の外れにに我がシュライトン家の屋敷、広い道と公園を挟んで赤い煉瓦屋根の家々が並ぶ。次の広い道を越えると市場や商店が建ち並び、人々の往来が見える。それが途切れると畑が広がり、更に西側には領内の別の街へと続く道が見える。


小さいながら落ち着いた田舎のいい街だと思っている。


この視界の奥の方、街の北には広大な森が広がっていた。幼い頃に一度だけ入って迷ったあの森だ。


「エメはまだあの森にいるだだろうか?」


何年も思い出すこともなかった、小さな女の子の顔がふと思い浮かんだ。


すっかり成長して今更会ってもお互いにわからないだろうか。どこか不思議な雰囲気を纏ったあの子は、もしかしたら小さな少女のままかもしれない、とも考えた。


「くだらないな…」


自分の考えにため息を吐きながら、上着の内ポケットから守り袋を取り出した。口を緩めてひっくり返すと、手のひらの上に小さな形の良い丸い石が転がった。


エメが、この石が僕のことを心配していると言っていたから、なんだか守ってくれそうな気がして肌身離さず持っていたのだ。


あの日の不思議な出来事は、エメの存在も含めて夢だったんじゃないかと思うこともあるが、この石を見るたびに、確かにあの女の子は迷子の僕を助けてくれたことを思い出した。



ただ、あの森を出た後、石が光ることは一度もなかった。ベッドに潜り込んだり、夜中に目が覚めた時に確認してみたが、普通の石ころと違いはなかった。


そんな手のひらに乗る石に向かって話しかけていた。


「エメに会えるだろうか?」


我ながら、石に向かって何をしているのだろうかと思ったのだが、不意に石が淡く光ったように見えた。


「ん⁈」


陽の光が反射したのだろうか?それにしては、少し緑がかっている気がした。


―――まだ光っている?


石を両手で包んで、その手の中を覗いてみた。石はその暗がりでぼんやりと緑色に光っていた。


「えっ、嘘だろう…」


手を開けると、淡い光は夏の日差しの明るさに負けてしまうが、まだ光を保っていた。こんなことは初めてで、胸がドキドキしてきた。


「…エメに、会えるのか?」


もう一度聞くと、石はくるんと自身を包むように微かな光を放った。僕にはそれが「会える」との返事に見えた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


丘を下る道を走りながら、まだ胸が高鳴っていた。いつもなら何も考えずに街へと続く道へと右に曲がる丁字路で馬を止めた。


右手には煉瓦色の屋根が連なり、その向こうに石造りの我が屋敷が見える。そちら以外に走り出す理由はないはずなのに、どうしても左手が気になる。畑の横を通り抜けると領地が管理する猟場がある。そこからあの森に入れば―――


会えるかもわからない思い出の少女を探すために、迷子覚悟で森に入っていいはずがない。


でも石が光った今じゃないと、もう二度と会えないような気がする。




「………やっぱり、だめだよ」


しばらくの葛藤の末、僕は右手の道を選び、森へと続く道に背を向けた。そして、決心が鈍らないうちに屋敷に着くよう急いで馬を走らせた。

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