点滅する石の先
石は、点滅するようにその光の明るさを変えていった。明るさが変わるリズムも不規則で、僕は何が起こっているのかわからず、その場から動けなくなっていた。
―――何か良くないことでも起こっているんだろうか……
そう心配になって、周りを確認しようと石から顔を上げて周りを見回した。
―――えっ…?あれは……
「エメ!」
こちらに向かって、木々の間を縫うように走ってくるエメが見えた。視界の端にある石は、エメが正面に来るたびに強く光った。
「ふっははははは…!」
僕は笑った。
―――なんだ、エメが動いてたのか!……それにしても、速いな。
ついさっきまでの不安が余計に可笑しかった。笑いながら、僕もエメに向かって歩き出した。
「ルゥ!」
エメが走ってきた勢いそのままに僕に抱きついた。
「来てくれたのね、嬉しい!」
僕はエメを抱き止め、嬉しさを噛み締めた。エメは僕の首にぎゅーっと抱きついている。
「エメ…、く…苦し……い…」
エメは、パッと腕を解いた。
「ごめんなさい、ルゥ。嬉しくて、つい…」
「ははは、僕もエメに会えて嬉しい。迎えに来てくれてありがとう」
今度は、僕がエメをぎゅっと抱き締めた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
僕達は森の中を歩いていた。またエメが僕の手を引いてだけど…。
エメは嬉しそうに話してくれる。あの小屋の前の畑でハーブの手入れをしていた時に、僕が森に入ったのを感じたと言う。
「今日はこの石の光を頼りに、崖から落ちたりしないで、エメに会いに行くつもりだったんだけど」
そう言ってエメにもらったネックレスを見ながらぼやくと、エメは楽しそうに笑った。
「そうだと思ったんだけど、待てなかったの」
そんなに待ってくれていたなんて、嬉しくなった。
しばらく歩くと小屋が見えてきた。一週間ほどしか過ごしていないのに懐かしく、『帰ってきた』という言葉がピタリと当てはまる気持ちになった。
と、思ったのに、エメは小屋の前を通り過ぎた。
「あれ、エメ……?」
首を傾げる僕を見て、エメもハッとした。
「ルゥに確認するの、忘れてたわ。少し歩くけど、今日は家の方に来てもらってもいいかしら?ここは普段は作業に使うだけなの」
「急に来たのに、家にお邪魔してご迷惑じゃ……」
「大丈夫よ。何もご用意してないけど……、いつでも来てほしいと思ってたから」
エメは優しく微笑んだ。訪れる約束もなく突然やって来るなんて、あまりにも自分勝手なことなのに、エメはそんな僕を許して待っていてくれた。申し訳なさと、感謝の気持ちでいっぱいになった。
「用意なんて何もいらないよ。エメに会えれば、それだけで十分だから」
「ありがとう、ルゥ。それとね、見てもらいたい物もあるの」
「何を見せてくれるの?」
「内緒」
「えぇ、気になるなぁ」
「ふふふ、家に着いたら、すぐに見せるわ」
エメは、僕を振り返ってにこっと微笑むと、僕の手を引いて軽やかに森の中を歩いた。
―――はぁぁ、まだ会ったばかりなのに幸せだ。来てよかった。
◇ ・ ◇ ・ ◇
しばらく歩くと石積みの家が見えてきた。
深い緑色の大きな屋根のその家は、まだ建てられてそれほど年数が経っていないと思われるが、壁の一部に蔦が這い、森に溶け込むように立っていた。家の向かって左端に立つ壁と同じ石造り立派な煙突が特徴的だった。
「ここがエメの家?」
「ええ、そうよ」
「素敵な家だね」
「ありがとう。さあ、入って」
エメは家の中央にある薄い緑色の扉を開けると、奥に向かって声を掛けた。
「かあさん、ルウが来てくれたの!」
扉を入ったそこは、吹き抜けの広い部屋だった。屋根窓から光が入り、思いの外、明るくて驚いた。右手にはダイニングテーブルが、左手にはソファと奥の壁には大きな暖炉があった。正面には階段があり、2階にも部屋があるようだ。
階段横の扉から、ジュディさんが出てきた。
「ようこそ、ルゥ。怪我の具合はどうだい?」
「もうほぼ痛みもなく、昨日は軽くなら剣の稽古を再開してもいいと言われました」
「そうかい、それはよかった」
「ここにいた時は本当にお世話になりました。最初の治療が良かったから、治りも早いと言われて。本当に感謝しています」
「ははは、そんなふうに褒められると照れるね」
快活に笑うジュディさんの横で、エメが何やらもじもじしていた。
「どうしたんだい、エメ」
ジュディさんも不思議そうな顔をしている。
「あの、着替えてきていいかしら。かあさんに手伝ってほしいんだけど…」
「そうだね、畑仕事してたから着替えたいよね。僕はそこで待たせてもらうから、ゆっくりでいいよ」
僕は暖炉の前のソファを見遣って、エメに笑いかけた。僕だけを残して待たせるのを気に掛けてくれるなんて、心が温かくなった。
「じゃあ、ルゥにお茶を出したらすぐに行くから、先に着替え始めておいで」
「ありがとう、かあさん!」
エメは嬉しそうに階段を駆け上がっていった。
「エメ、ゆっくり上がりなさい」
ジュディさんに駆け上がったのを叱られて、エメが階段の上で「しまった」と言う顔をした。そんな様子も可愛いなぁ、と見ていたら、エメは僕の方へ丁寧にお辞儀をすると扉の奥へと入っていった。
確かに、階段を駆け上がったら僕の家でも叱られるな、と思って笑ってしまった。でも、嬉しさが溢れているのが伝わって、まったく嫌な感じはせず、むしろ僕も嬉しいくらいだった。




