空色のラッピング
僕は、朝早くから丘の上に立っていた。
気持ちが逸りすぎて、朝食を取った後すぐに家を出てしまったのだ。
昨日、エドは、僕が頼んだ物を朝には用意しておいてくれると言っていたが、今から取りに行くのはいくらなんでも迷惑だ。ミラー子爵家の屋敷がある隣町まで掛かる時間を考えても早過ぎる。
他に行くところも思いつかず、いつもの丘の上まで馬を走らせた。
丘の上に着くと、自然と視線は森へと向いた。朝日を受けて輝く木々の明るい緑がとても綺麗だった。ミラー邸に寄ってから、エメに会いに行く、そう思っただけでもドキドキしてきた。
この間エメと座った丘の頂上にある岩に腰掛けて、森を眺めながらさっき母上と話したことを思い出していた。
◇ ・ ◇ ・ ◇
今朝、母上と朝食を取りながら、どうしようかと迷ったが、正直に今日の予定を伝えた。
「母上、今日、森で助けてくれた子にお礼の品を届けに行って参ります」
許可を求めるのではなく、自分で行くことを決めた。母上は特に驚いたり、不快な顔をすることなく、僕の言葉に静かに答えた。
「そう、気をつけて。晩餐までには戻りなさい」
やっぱり、母上は僕がエメと友人でいることについては咎めるつもりはないようだ。
「はい、その頃には戻ります」
◇ ・ ◇ ・ ◇
少し前まで思っていた母上の反応とは違うことに戸惑いつつも、僕の行動が母上にとって問題になっていないようでほっとしていた。
「さて、そろそろ行こうかな」
日が高く昇ってきて、ここに座っているのも暑くなってきた。僕は馬に乗り、ミラー邸へと向かった。
隣町へは林を抜ける道を行く。木々が影を作る道は、馬を走らせると乾いた風が涼しく感じられ気持ちがよかった。
ミラー邸では、エドウィンの母親のミラー夫人が待っていてくれた。早い時間の訪問を謝ると、夫人は明るく笑って迎えてくれた。
「リュウさん、お久しぶり。これ、エドが渡すようにってお預かりした物ですの」
そう言ってミラー夫人が手にしているのは、何やら布に包まれていた。
「これ……ですか?」
困惑する僕に、ミラー夫人は優しく笑って教えてくれた。
「贈り物を綺麗な布や紙で包むのが王都の方で流行り出しているそうなの。リュウさんは王都にいらっしゃるからご存知かも、ってエドは言ってたけど…」
「いえ、僕はそういうことには疎くて…」
「男性はそういう方が多いでしょうね。エドは最近、王都からの仕入れをした時に、そこの店主の奥さんに教えてもらったそうなのよ」
「それで、エドが包むようにって?」
「ええ、大切な贈り物だと思うからって。布は私が選ばせていただいたの。
急ぐと思うから、リュウさんがいらっしゃる前に包んでおくようにって言うから、お品物を確認していただかずに包んでしまったけど、よかったかしら?」
空色の布で包んだ上に白いレースのリボンが掛けられていた。
品物はそのまま用意されているか、せいぜい麻布に包まれていると思っていたので、丁寧にラッピングされたのを見て嬉しくなった。エメが受け取ってくれた時にどんな顔をしてくれるだろうか。
「ありがとうございます。品物はエドを信用していますので、確認しなくて大丈夫です。こんな綺麗に包むこと…、僕じゃ思い浮かばなかった。すごく素敵です」
「そう、よかったわ。リュウさんには、エドのことでゆっくりお礼したいの。また今度、お時間を作っていただけます?」
「そんな、お礼をしていただくようなことは何も…。でも、また改めてお邪魔させてください」
「ええ、いつでもいらしてくださいね」
僕は代金を支払って、綺麗な夏空のように飾り付けられたその品物を受け取り、ミラー邸を後にした。
◇ ・ ◇ ・ ◇
また林の間を抜け、エメに会いに森へと向かった。さっきよりも更に風は気持ちよく、飛ぶように馬を走らせた。
猟場の馬留めに馬を繋ぐと、ゆっくりと深呼吸をして心を落ち着けた。
エメに会えると思うと、ドキドキするし、浮き足立ちそうで、このまま森の入ったら怪我でもしそうな気がした。しっかりと落ち着いてから森へ踏み入れようと思った。
「ふぅぅぅ……」
大きく息を吐き、森へと入った。陽の光が遮られ、少し湿った空気が懐かしく感じた。
首元からエメにもらったネックレスを引き出した。うっすらと石が光っている。小屋があると思う方へ石を向けると、光が強くなった。
―――こっちにエメがいる。
嬉しくなった。
僕は光が少し薄くなるが、見覚えがある道を進み始めた。光を時々確認しながら、進みやすい道を――慎重に、でも順調に歩いていた。そう思っていたのに…
―――えっ⁈何が?
石が急に明るく光り、すぐにその光が薄くなった。そしてまた強く……点滅をし始めた。




