後ろ向きな気持ちと前向きな考え
リュウ視点のお話に戻ります。
僕はエドウィンから婚約話になった経緯を聞いた。
母上の話や怒っていない雰囲気から、僕が茶会をすっぽかして家を飛び出した後、エドウィンが何か上手く取り繕って、丸く収めてくれたのは感じていた。でも、エメとのことを考えるので頭がいっぱいになっていて、エドウィンがどう収めてくれたかまでは気が回っていなかった。
いや、まさか本当に茶会に参加して、婚約することになっているなんて、誰が思うだろうか。
「……いいなぁ」
「えっ?」
エドウィンの聞き返す声で、僕は思ったことを声に出していたことに気づいた。
「エドが婚約したいと思える人に出会えて、それが身分の釣り合う相手で……、心から祝福してる。本当によかったって、…思ってるんだけど、羨ましいなぁ、って。エドのめでたい時なのに、へこんでてごめん」
「いや、謝らなくていいよ。お前の気持ちを考えたら、そう思って当然だろう。でも、きっかけはお前がくれたんだから、お前が妬ましく思おうと、俺は遠慮なくこの話を進めるけどな」
「ははは、もちろん僕に構わず遠慮なく幸せになってくれ。まさか、僕が勝手なことをした結果、親友が婚約することになるなんて……」
僕の言葉にエドウィンも笑いながら同意した。
「思いもよらなかったな。お前が『お茶を飲むだけだ。できるだろう?』なんてふざけたこと言って出て行った時は、後でなんて言ってやろうかって思ってたけどな」
「あの時は、本当にごめん」
「今となっては、感謝してるけど」
僕達は、顔を見合わせて笑った。
「はぁ、それにしても、茶会をすっぽかしたのが今日じゃなくてよかった……」
「そうだな、違う日だとマリーに会えなかったもんな」
「それもあるけど、今日のご令嬢は酷かったんだ。母上も疲れて寝込むくらい…」
僕は今日の茶会での出来事をエドウィンに話した。ご令嬢の失礼な発言を思い出したら腹が立ってきて、ふぅっと息を吐いた。エドに怒っても仕方がない。
「わぁ…、それは大変だったな。そんな茶会を押し付けられてたら、お前と縁を切ってたかもな」
エドウィンは冗談まじりに言ったが、その可能性もあったかと思うと、僕は力無く笑った。
「これからはあまり勝手なことしないように、落ち着いて行動するように気をつけるよ」
「ははは、そうだな。まあ、いつまでも子供みたいに勝手なことばかりはできないけど、エメちゃんはお前にとってそれほど大切だから飛び出して行ったんだろう?」
「そうだけど…」
「どうしたんだよ。なんか元気ないな。あの日、エメちゃんに会えたんだろう?」
「ああ、会えたけど……、身分って何なんだろうな…」
「何があったんだ?大丈夫か?」
ため息を吐く僕を、エドウィンは心配そうに見ている。
「大丈夫。ごめん、暗くなって。でも、僕とエメとが一緒にいると、都合のいい、適当な関係にしか見えないみたいで。一緒に市場に行ったんだけど、エメが僕に何か強請るために近づいてきたように言われたんだ…。僕がエメのそばにいることで彼女が嫌な思いをするなら、側にいない方がいいのかな、って思ったりするんだ」
「一緒にいたくないのか?」
「いたいよ。今すぐにでも会いたいのに…」
「じゃあ、会えばいいんじゃない?」
「えっ⁈」
「そりゃぁ、街中を並んで歩いてたら、好きなこと言う奴がいることは分かりきったことだろう?それなら、違う場所で会えばいいだけじゃないか」
「エドは簡単に言うなぁ…」
「リュウが難しく考えすぎてるの。会いたいなら、会える方法を考えろよ。ダメなら、あとで怒られたらいいじゃん」
「怒られるのか…」
「この間、飛び出してった時も、怒られてもいいからエメちゃんに会いに行ったんだろう?」
「……いや、そこまで考えてなかった」
自分がよく考えもせずに行動したことが改めて恥ずかしくなって、ため息を吐いた。
「ははは、まあ、エメちゃんに会えたら、怒られても価値があるんじゃない?」
『怒られても価値がある』――その言葉がストンと僕の心に入ってきた。先日は衝動的に行動してしまったが、エメと会うためには、父上と母上に認めてもらってからではないといけないと思っていた。その道が見えなくて、ここ数日、一人でもやもやしていた。
好きなようには会えないかもしれないけど、エドウィンの言うように、会える方法を考えたらいいのかもと思えてきた。あとで僕だけ怒られたらいいのか。
―――やっぱりエメには会いたい。
「エド、すごいな!確かにそうかも!」
「お、おぅ、急に元気が出たな。あまり考えすぎるなよ。でも、一応、考えて動きな」
「ああ、気をつける」
「で、これからどうするの?」
「エド、探してもらいたいものがあるんだけど」
「何?俺が見つけられそうなものなら何でも言ってくれ」
エドウィンの家は美術品や工芸品を扱っている。僕はエメにプレゼントしたいものをエドウィンに説明した。
「ああ、それなら家のストックにあると思う。今日のうちに探しとくから、明日取りに来てくれるか?」
「ありがとう。朝から行っても大丈夫かな?」
「朝には用意しとくよ。届けたいところだけど、明日は朝からマリーと約束してるんだ。俺の休暇、あと二日しか残ってないからな」
「今日、ここに来ててよかったの?」
「ああ、今日は午前中に会った。午後は、マリーに用事があって暇だったんだ」
午前中のことを思い出したのか、満足そうに笑っている。
「暇つぶしになったか?」
僕はわざと意地悪く睨みながら言った。
「ははは、拗ねるなよ。お前のその後の話も聞きたかったんだよ」
エドウィンは意地悪を言いつつも、さりげなく僕のことを心配してくれる。一人だったら、ただへこんでたところを、エドウィンのお陰で少し前向きに考えられそうだ。
「ありがとう、エド」
「改まってどうした。そうだ、明日、金はいらないよ。マリーと会わせてくれたお礼に」
「そうはいかないよ。僕からエメに贈りたいから、お代は受け取ってくれ」
「そうか。じゃあ、代金も家の者に伝えとくよ」
「そうしてくれると嬉しい」
エメへのお礼にと考えた贈り物を届けるくらい許されるだろう。表立って会えないのは少しもどかしいけど、エメの顔を見られると思ったら、明日が楽しみになった。




