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エドウィンの茶会(後編)

「エドウィンの茶会(前・後編)」は、リュウの友人エドウィン視点のお話です。

俺のことを、ティーカップを手に席に着いている女性達がぽかんとした顔で見上げている。それはそうだろう。茶会と称した伯爵家子息との見合いの席に、その友人が一人でやって来たのだから。


とりあえず謝ろう。


「招待も受けていないのに、突然こちらに伺い、申し訳ございません」


「……どういうことかしら?」


リュウの母親のシュライトン夫人が困惑しつつも落ち着いた声で尋ねた。


「リュウに大切な用ができまして、そちらに向かいましたので、私がその事をお伝えに参りました」


「大切な用?」


「はい、リュウが森で怪我をした時に助けてくれた人がいることは、ご存知だと思います」


「ええ、知っているわ」


「先程、その方が、リュウの忘れ物を届けに来られたのです」


「それで一緒に出掛けたの?」


「いえ、その方は、使用人の門の辺りにいた者に預けてすぐに帰られたようですが、それを聞いたリュウが、お礼を伝えたいと出て行ったのです」


「まあ、それで貴方にその事を伝えるように押し付けたのですね。それは、大変申し訳ないことでした」


シュライトン夫人は立ち上がり、俺に頭を下げた。そんな風に謝られるとは思ってもいなかったので、俺は慌てた。


「やめてください。ただ、リュウは、その方のことを恩人だと話して、大切に思っているようですので、今日のことは許してやってもらえないでしょうか…」


シュライトン夫人は困ったような顔をしてから、今度はサドラー家の母娘に謝った。


「今日はお越しいただいたのに、本当に申し訳ございません。また席を設けますので、本日はお許しいただけますでしょうか」


「とんでもございません。恩人の方を大事に思われることは素敵なことですもの。私共は全く気にいたしませんので、そのように謝らないでくださいませ」


サドラー夫人はご令嬢と共に立ち上がり、穏やかに答えた。そして、俺の方を向いて続けてお辞儀をした。


「貴方様も、わざわざ伝えに来てくださってありがとうございます」


「いえ、そのように仰っていただき恐縮です」


怒られることも多少は覚悟していたが、和やかにリュウのことを許してもらえたようでホッとした。


さて、俺の役目は終わっただろう。


「では、私はこれで…」


そう言ってこの場から離れようとした時、サドラー家のご令嬢が遠慮がちに口を開いた。


「あの…、よろしければ一緒にお茶を楽しまれませんか?せっかく、このようにご準備いただきましたので。シュライトン夫人、よろしいでしょうか…」


「ええ、もちろん。貴女がそう仰るのなら。楽しんでいただけたら、私も嬉しいですわ。エドウィンさん、お時間は大丈夫?」


「えっ、私が…、よろしいのですか?」


急に、本当に茶会に参加することになったらしい。いいのだろうか…?



なんだか言われるままに、リュウが座るはずだったご令嬢の向かいの席に俺は座った。


にこやかにこちらに向けられる笑顔に緊張して、俺は視線を外してしまった。視界に入った自分の服を見て、久しぶりにリュウの家に行くからと、少し綺麗なのを着てきてよかったと、どうでもいいことを考えていた。


「では、始めましょうか」


シュライトン夫人は、俺達の紹介から始めた。


「こちらは、ミラー子爵家二男のエドウィン・ミラーさん。ご存知のとおり、我が家のリュウの友人です。今はフィレイナード騎士団に所属されていたかしら?」


「はい、今年から所属しております」


緊張で声が裏返りそうになりながら答えた。ご令嬢は、マリー・サドラーと紹介され、にっこり微笑むとゆっくりと柔らかい声で話し始めた。


「どうぞ、マリーとお呼びください。エドウィン様、今日はお会いできて光栄です」


赤みがかった茶色の艶やかな髪に小さな花をあしらった髪飾りがよく似合っている。少し垂れた目元に、緩い弧を描いた小さく柔らかそうな唇――突然やってきた俺にも優しく微笑む彼女は、天使じゃないかと思った。


はたと気がつくと、琥珀色の瞳が俺を見つめていた。彼女に見惚れて、返事をするのを忘れていた。


「おれ…わ、私もお会いできて、光栄でござり、ございます」


目の前の可愛らしい女性に緊張が止まらない…


「エドウィン様、そのように緊張なさらないでください。ご友人のことを思って、わざわざこの場まで事情を伝えに来てくださったエドウィン様と、少しお話をさせていただきたくなったのです。急に誘ってごめんなさい」


「いっ、いえ、俺…じゃない、私は普段、こんな素敵な女性とお話しすることがないので、何を話したらよいか…。貴女を楽しませるような、お話ができると思えず……」


「素敵だなんて、私のこと、そのように仰っていただけるのですか。私の方が緊張してしまいますわ」


そう言って笑う彼女を見て、なんて可愛らしいんだろう、としか思いつかなかった。何か話を、と思えば思うほど緊張して言葉を見つけられずにいる俺に、彼女の方から話してくれた。


「では、私からエドウィン様に色々お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、聞いてくれたら私も助かります」


少しホッとした俺に、彼女は笑顔で付け加えた。


「あ、私に気を使わず、いつものようにお話しくださいね」


そして彼女から簡単な質問が続いた。家族のこと、好きな食べ物、休日の過ごし方…、他愛もない返事なのに、一つ一つに興味を示して次の質問が投げかけられる。嘘のように会話が弾んでいる。


「では、貴女は休日はどのように過ごされるのですか?」


彼女のテンポの良い会話に乗せられて、いつの間にか俺の方から聞いていた。彼女も少し驚いた顔をしてから、弾けるような笑顔を見せた。


「エドウィン様に興味を持っていただけて嬉しいです。私、絵を描くのが好きなので、時間があれば描いています」


「そうなんですね。今度見せていただけますか?」


「ええ、ぜひ」


次に会う話までして、これは現実だろうか?と思った。その時、シュライトン夫人が、ふふふと笑って話し始めた。


「お二人、とても気が合うようですね。もしよろしければ、両家でお会いになったらいかがかしら?」


―――両家?


サドラー夫人も嬉しそうに答えた。


「もしミラー家がよろしければ、ぜひお願いしたいですわ。マリーがこんなにも楽しそうにお話しさせていただくなんて、初めてですから」


「エドウィンさん、私からご両親に手紙を書いてもよろしいかしら?」


なんだか話が大きくなってきた気がする。いや、気のせいじゃない。俺の婚約話が進もうとしている。


「エドウィンさん?」


返事がない俺にシュライトン夫人がもう一度聞いた。向かいに座るマリー・サドラーは、少し緊張した面持ちで、でも俺の視線を感じるとにこっと笑った。


彼女となら、婚約話が進んでも全く問題ない。むしろ嬉しいくらいだ。


俺は、気持ちを落ち着けるように息を吐いてから答えた。


「あの、お願いしてもよろしいでしょうか」


「ええ、もちろん。では、今から手紙を書いてまいりますわ。サドラー夫人、確認したいこともございますので、一緒にいらしていただけます?」


「はい、伺います。エドウィン様、マリーとしばらくこちらで待っていただいてもよろしいかしら?」


「は、はい」


あれよあれよという間に俺とマリーは二人で残された。マリーは(こら)えながらも笑いが漏れている。


「なんだか話がどんどん進んでしまいましたね。エドウィン様、よろしかったのですか?」


「ああ、貴女と話してとても楽しかったから…」


「それならいいのですが、もし、嫌になられたら、いつでも断ってくださいませね。私、気にしませんから」


「ありがとう」


その後も、シュライトン夫人が戻ってくるまで会話は途切れることなく、俺は夢のような楽しい時間を過ごした。


マリーはああ言ったが、今のところ断るなんて考えられない。今日の時間を持てたリュウに感謝したいくらいだ。

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