エドウィンの茶会(前編)
「エドウィンの茶会(前・後編)」は、リュウの友人エドウィン視点のお話です。
時は三日ほど遡り、リュウが森から戻って以来、初めてエドウィンが見舞いに行った日のこと___
「ちょっと待て、リュウ!そんな勝手なこと…!戻ってこい、リュウ!」
さっと部屋を出て行った友人のリュウの後を追って扉を開けたが、もう廊下には姿は見えなかった。呆然と部屋の中に戻り、ソファにどかっと座った。
リュウが崖から落ちて負った怪我がだいぶ良くなり会えるようになった、と聞いて見舞いに来たら、なんだか思いもよらぬことに巻き込まれたようだ。
―――なんでこんなことになったんだっけか?
リュウが、茶会という名のお見合いが日に三件もあると嘆いていた。お相手のご令嬢達に興味を持てないとも。そして、なんだかぼんやり考え事をしているから、他に気になる子がいるんだろうと鎌をかけたら簡単に引っかかった。
通っている学校がある王都で可愛い女の子にでも出会ったんだろうと、面白がって聞き出そうとした。それなのに、
「いや、森で助けてくれたんだ…」
リュウからは予想外の答えが返ってきた。森に恋に落ちるような相手がいるのか……?
「森って魔女か?結構年上じゃないのか?」
よくわからずリュウに聞くと、思いのほか真剣な顔で、大っぴらに話さないでくれと言う。俺は軽い気持ちで聞いたが、リュウにとっては大事なことのようだ。
「すごく大事だ。きっと今一番大事だ」
そう言って、森で崖から落ちた時に助けてくれた少女のことを話してくれた。でも…
「森でひっそり暮らしてるなら、その子とシュライトン家と関係を持つのは難しいんじゃないか?」
俺は爵位のある家ではごく当たり前な疑問を口にした。当然、リュウも考えていた。
「わかってるよ、それくらい」
窓の外を向いて、難しい顔をしている。
―――相変わらず、リュウは真面目だなぁ…
俺が、せっかくその子と一緒に過ごす時間があるなら、その時間は楽しんで、この先のことは何か道がないか考えれば、と言えば、リュウはそうできるものかと考え込んでしまった。
「頑張りな。俺ができることなら手を貸すから」
「ありがとう、エド」
リュウがまだ自信がなさそうな笑顔でそう答えた時、この家の執事のラリーが部屋に入ってきた。
「リュウ様、こちら、お届け物です。すぐにご確認いただいた方が良いと思い、お持ちしました」
そう言って、リュウに小さな包みと手紙を渡した。心当たりのない届け物のようだ。少し眉を顰めながら手紙を開くと、パッと表情が変わった。
「ラリー、これはいつ?エメが持ってきたの?」
「つい先程。使用人の門に、おそらくエメ様と思われる方が持ってこられたそうです。近くにいた者に預けてすぐに帰られてしまったと言うので、私も確認に行ったのですが、既にお姿は見えず…」
「わかった。ラリー、僕のこの後の予定はキャンセルして」
なんだか話が進んでいるが、他所の家のことだし、俺は話が終わるのを待つことにした。
リュウは腰掛けていた窓枠から降りて上着を羽織った。
―――出掛けるつもりか?
「しかし、まもなくサドラー子爵家の方々がお見えになると先触れが」
「じゃあ、エドウィンが代わりに出てくれるよ」
「えっ、俺⁈」
急に話が降ってきて驚いた。
「今さっき、手を貸すって言ったじゃん」
「言ったじゃん、って、できることならとも言っただろう」
思いもよらぬことを言われて、慌ててソファから立ち上がった。リュウはもう扉のノブに手を掛けている。
「お茶を飲むだけだ。できるだろう?」
そう言ってリュウは、サッと部屋を出て行ってしまった。
「ちょっと待て、リュウ!そんな勝手なこと…!戻ってこい、リュウ!」
すぐに後を追って扉を開けたが、リュウの姿はなく、走って行ったと思われる方から、遠ざかっていく足音だけが聞こえた。
―――あいつ、ぼんやりしてそうに見えて、足が速いんだった。
部屋に戻ってソファにもう一度座って少し呆然としてしまった。すると、横からラリーが遠慮がちに声を掛けてきた。
「あの、エドウィン様…」
あまりに予想外のことが起こって、リュウの家にいることを忘れていた。
「な、なに、ラリー」
「坊ちゃんが勝手を申しまして、大変申し訳ございません。茶会につきましては、私から主人に伝えますので、お気になさらないでください。
私、坊ちゃんにお渡しする者がございますので、一旦失礼いたします。何かございましたら、この部屋の者にお申し付けください。
すぐに戻りますが、お帰りになられても構いませんので。」
「あ、ああ、わかった。ありがとう」
ラリーも部屋を出て行ってしまい、俺は静かになった部屋に残された。
―――さて、どうしようか。確かに、手を貸すと言ったんだよな。




