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思わぬ進展

「ブロンソン男爵家令嬢様、」


母上の静かな怒りを込めた声を聞きながら、僕は茶会の席を離れ、屋敷の建物へと向かっていた。


「我がシュライトン家では、当然のことながら身分を重んじております。しかし、自分の身分を理由に誰かを見下すようなことがあってはならない、と私共は考えておりますし、子供達もそのように育てて参りました。


我が家の者は身分を問わず友人がおりますが、シュライトン家の名に恥じるようなお付き合いはないものと信じております。その友人方を、身分を理由に(さげす)むようなことは仰らないでいただけますか」


「………」


母上の毅然とした言葉に返ってくる言葉はなかった。


僕は建物の中へと入り、その後の話はもう聞こえなかった。この後、茶会もお開きになることだろう。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


自分の部屋に戻り、上着を脱ぐと出窓に腰掛けた。ここから茶会をした庭は見えないが、やはり早々にお開きになったようだ。屋敷の門を出る馬車が見えた。馬車の派手な装飾は、おそらくあの母娘が乗っているんだろうと思わせた。


あのご令嬢は本当に失礼だったと思うが、不思議なくらいに気持ちは落ち着いていた。きっと母上の言葉が、僕の気持ちを十二分に代弁してくれたからだろう。


母上は、あのご令嬢が言った身分違いの者がエメであることはご存知だと思う。どのような人物であるか、ラリーなどから聞いているはずだ。その上で『シュライトン家の名に恥じるようなお付き合いはないものと信じております』と仰ったのには驚いた。


僕は、母上に対して間違った認識をしていたのかもしれない。身分が違えば頑なに反対して、もし母上がエメに会うことがあれば、彼女に心ない言葉をぶつけられるのではと心配していた。


しかし、エメのことを友人だと言った僕の言葉を、母上は否定されなかった。母上は、僕が選ぶ友人を信じてくれ、その人自身を見てくれるということだと思うと嬉しかった。


もちろん、身分も重んじるということなので、今の状況でエメとの関係を認めていただける見込みはないのだが…


―――エメが森に住む理由についての答えもまだ見当がついていないし、やっぱり前途多難か?


小さくため息を吐いて出窓から降り、部屋の机に積まれた小さな書類の山から、一番上の一部を手に取って開いた。父上が不在の間に確認するように言われているものだ。


茶会が早く終わって時間ができたので、エドウィンが来るまでに確認してしまおうと思った。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


書類の確認がだいぶ進んだ頃、ラリーが部屋に入ってきた。


「もう少ししましたら、エドウィン様がいらっしゃると思いますが、こちらにお通ししてよろしいですか?」


「そうだね、ここに来てもらって」


「かしこまりました」


「あ、ラリー。母上はどうされているか、知ってるかな?」


「はい。奥様は、お疲れになったとお部屋で休まれています。今日は、お食事もお部屋で取られるそうです」


「やっぱり、お疲れになったんだね…。母上と話したかったんだけど、明日の方がよさそうだね」


「そうでございますね」


「じゃあ、これ、確認済みの書類と、今日届いた父上宛ての手紙。急ぎのものはなかったから、父上の部屋に届けておいてくれるかな」


父上が不在の間に届く手紙を確認して、急ぎであれば遣いを出すことになっている。普段は母上が確認しているが、休暇でここにいる間は僕のところに回ってくる。


「はい、かしこまりました」


ラリーが書類の束を受け取り、部屋を出ていった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


しばらくすると、軽くノックしてエドウィンが部屋に入ってきた。


「エド、久しぶり」


「……?久しぶりって、三日しか経ってないだろう?」


「…そうだね。なんか、エドに会ったのがだいぶ前のような気がして」


「ははは、お前、疲れてるだろう」


「ああ、疲れてる」


「相変わらず、大変そうだな」


エドウィンは軽く笑って、ソファに座った。


「そういえば、エド」


「ん?どうした」


用意していた豆菓子をつまみながら、エドウィンがこちらを向いた。


「この間は、茶会を押し付けて申し訳なかった」


「ああ、あれね。それ、謝らなくて大丈夫だよ」


「いや、そんなわけには…」


「だって、俺、婚約することになったから」


「………?」


―――何で急に婚約の話が出てくるんだ?


「えっと…、エドが、婚約?」


「ああ、俺が」


「それは……、おめでとう」


「ありがとう。リュウ、話、ちゃんと繋がってる?」


―――繋がるって、何が何と?


僕が返事しないのを見て、エドウィンは笑った。


「お前、何も聞いてないんだな。俺、マリー・サドラーと婚約することになったんだ」


「マリー、サドラー?……って、僕が茶会をすっぽかしちゃったサドラー子爵家の⁈」


「そう、そのサドラー子爵家の」


「えっ、いつからそんなことに?」


「だから、三日前だよ」


話が全然先に進まず、エドウィンも呆れている。


「ごめん、混乱してる」


「ははは、そうだな。俺もあまりにとんとん拍子に話が進んで驚いてるところだからな」


「じゃあ、三日前に初めて会って…」


「そう。その日に話が合ったもんだから、二日後…昨日なんだけど、うちの親も一緒にサドラー邸で顔合わせして、婚約に向けて話が進んでる、ってこと」


「へぇ……、なんか、……なんていうんだろう…、そうなんだ。…うん、すごいね」


「すごいだろ?」


思いもよらぬ進展に、僕は言葉が見つからず、その様子を見てエドウィンもただ笑っていた。



「……あの、婚約はエドも望んでいること__」


「ああ、俺もそうしたいと思ってる。準備もあるし、正式には冬ごろになる予定だけど、マリーとは話が合いそうなんだ」


「そうか、それはよかった。おめでとう、エド」


今度は心から祝福の言葉を伝えた。エドウィンも嬉しそうに「ありがとう。お前のおかげだ」と答えた。


僕のおかげ、なんて。エドウィンに対して、僕は勝手なことしかしてないのに。

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