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少しだけでも一緒に

「ルゥ!」


エメは僕に気付くと走って戻ってきてくれた。僕もエメのところまで行くと馬を降りて、手綱を持つ手とは反対の手でエメを抱き寄せた。


「エメ…、会えてよかった」


「どうしたの?」


「あの石を届けてくれただろう。エメに会ってお礼を言いたいと思って」


「それで追いかけてきてくれたの?」


エメは、僕の腕の中で驚いた様子で見上げた。まるで僕が追いかけてくるなんて、微塵も期待していなかったように。



「エメも屋敷まで来てくれたなら、僕を呼んでくれたらよかったのに」


「私が、あんな大きなお屋敷に住むご子息のことを呼びつけたら怒られるわ」


「ご子息だなんて言わないでくれ…」


「でも、あのお屋敷を前にしたら、ここに住んでいるリュウ・シュライトン様は、私の知っているルゥとは違う人で、私なんか普通なら会ってももらえないんだわ、って思ったもの」


「私なんかって……、エメは僕の大切な命の恩人だ。誰よりも優先して君に会いたい」


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。でも、ルゥはそう思ってくれても、皆がそうではないわ」


「………」


僕はエメの言葉を否定できなかった。


「ごめんね、エメ」


「どうしてルゥが謝るの?ルゥは悪いことしてないわ」


「エメは優しいね」


「そうかしら?ふふふ」


やっぱりエメといると、温かい気持ちになる。もう少し一緒にいたくなった。


「エメ、少し時間をもらえるかな?」


「時間?」


「すぐに帰らないといけないなら、僕が送るけど…」


僕の言葉にエメは嬉しそうに微笑んだ。


「かあさんに買い物を頼まれているから、夕方までに帰れば大丈夫よ」


「エメが買い物に?」


「私も少しずつ街へ出たりして、森の外のことも知った方がいいだろうって」


「じゃあ、何度か買い物に来てるの?」


「かあさんと一緒には来たことあるけど、一人で行くのは、実は今日が初めてなの…」


少し不安そうにエメが言った。ここから見える分かれ道を右へ行けば、すぐに市場と商店街がある。


「僕が一緒に行こうか?そこの市場でいいの?」


「一緒に来てくれるの?足は大丈夫?」


「ああ、もうほとんど痛くないよ。家でも普通に歩いてるし」


「それなら、お願いしていい?」


「もちろん」


エメのホッとした顔を見て、追いかけてきてよかったと思った。そして、これからエメと一緒に買い物をするということに、少し浮かれていた。



僕は市場の手前で馬を預け、エメと並んで歩き出した。


「エメ、今日は何を買うの?」


「えっと、バターとミルクと、あとは残ってたら干し葡萄のパン」


「残ってたら?」


「干し葡萄のパン、美味しいのよ。かあさんが街へ行った時に時々買ってきてくれるの。でも、売り切れの時もあるから、今日も残ってたら買うつもり」


「それなら、まずはパンを買いに行こうか」



干し葡萄のパンを売る店の場所はエメが知っていると言うので、ついていくことにした。


昼下がりの市場は、夕食の買い物をする人々で賑わっていた。簡易の屋根だけの店舗が並ぶ通りをしばらく歩いていると、エメが僕の腕を引いた。


「ルゥ、あった!あそこの店よ」


エメが指差す先に色々な種類のパンを並べる店があった。そして僕を置いて、その店へ小走りに向かって行った。


目当ての店を見つけて楽しそうにしている後ろ姿を、僕は微笑ましく見ていた。


「おばさん、こんにちは。干し葡萄のパンありますか?」


「あら、エメちゃん。今日はひとり?」


「かあさんとは一緒じゃないけど、お友達に一緒に来てもらったの」


そう言ってエメはくるっと僕の方を向いた。エメに『お友達』と呼ばれて、嬉しいような、少しこそばゆいような感じがした。


「まあ、エメちゃんがお友達と来るなんて初めてだね」


パン屋のおかみさんはじっと僕を見てから、ハッと思い出したような顔をした。


「あら、シュライトンのお坊ちゃんじゃないか」


その呼び方は好きではないが、エメもいるので(にこや)かに対応することにした。


「こんにちは、ここの干し葡萄のパンが美味しいと聞いたので」


「あ、ああ、今日はあと二つ残っているよ」


「じゃあ、その二つをもらおう。別々に包んでくれるか?」


「はい、二つね。他にはいかがですか?」


「いや、今日は馬で来ているからあまり持てないんだ。ありがとう」


パンを受け取ると、僕は店を離れた。僕の後を追うエメをパン屋のおかみさんが引き留め、小声で言うのが聞こえた。


「エメちゃん、今がチャンスだから、宝石でも洋服でも欲しいものは何でも強請(ねだ)っておくんだよ」


エメが少し困った顔をしておかみさんに笑顔を返してから、こちらへ向かってきた。僕は聞こえないふりをして歩いていると、エメも何も聞かなかったように僕の横に並んだ。


「ルゥ、すごいね。ぱぱっと頼んで、いらないものは上手に断って。私一人だったら、きっと困ってたと思う」


にこっと笑うエメに、さっきの言葉にモヤっとした気持ちは少し晴れた。


「あ、ルゥ。パンのお代、返すわ」


「もう一緒に払っちゃったからいいよ。エメが教えてくれたパン、帰って食べるのが楽しみだよ」


「いいの?」


「僕がそうしたいんだ」


「じゃあ、ご馳走になります。バターとミルクは、自分で買わせてね。私の練習だから」


エメが、少しおどけて大袈裟に初めての事に意気込む顔をするから、思わず笑ってしまった。


「ああ、頑張って」


僕の言葉に、エメも「ありがと」と笑った。

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