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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
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お届けもの

「森って魔女か?」とのエドウィンの考えを取り敢えず訂正することにした。


「エド、森に住んでいるのは魔女じゃなくて、普通の人だよ。魔女だなんて言ったら、酷い言葉を投げる人もいるから、そう言うのはやめた方がいいと思うんだ」


「本人に会ったお前が言うなら、気をつけるよ。で、その人のことが好きなのか?」


「違う。彼女は多分、僕の母上よりも年上だよ」


「リュウが本気なら、俺は応援するぜ」


歳の差にも偏見はないぞとのわざとらしい顔がうるさい。


「だから違うって。その女性と一緒に女の子が住んでいるんだ。その子が、崖から落ちた僕を助けてくれて…」


エドウィンが目を丸くして僕を見ている。


「へぇ………」


「なんだよ」


「リュウが崖から落ちた鈍臭い話だと思ってたら、そこで運命の出会いを果たしていたなんて」


「茶化してる?」


「してない。でも、森でひっそり暮らしてるなら、その子とシュライトン家と関係を持つのは難しいんじゃないか?」


「わかってるよ、それくらい」


僕は窓の外をふいっと向いた。森じゃなくて、屋敷の庭やその先の街を。その逃れられない《家》というものを改めて思った。


別に父上の跡を継ぐことから逃げたいわけではない。でも、伯爵家の長男である以上、エメとの関係のこの先は何も見えない…


はぁ、とため息を吐くと、エドウィンが笑った。


「取り敢えず、卒業までくらいは先延ばしできるんだろう?それまで楽しめば?」


「エメのことを、そんな適当には考えてない」


「エメちゃんって言うんだ」


「あ…」


思わず名前を言ってしまった。


「リュウが今一番大事だって言ってるんだから、適当に楽しむだなんて俺も思ってないよ。せっかくの時間は楽しめ、って言ってるの。それとは別に、何か道がないか考えなよ」


「何か道が…」


―――あるんだろうか?


「頑張りな。俺ができることなら手を貸すから」


「ありがとう、エド」



ちょうど話が途切れたところで扉がノックされた。そろそろ次の茶会の時間だろうか…?


「どうぞ」


僕が返事をすると、ラリーが部屋に入ってきた。


「エドウィン様、失礼いたします」


「いいえ。こんにちは、ラリー」


「リュウ様、こちら、お届け物です。すぐにご確認いただいた方が良いと思い、お持ちしました」


そう言って手のひらに乗るほどの小さな包みとごくシンプルな白い封筒を僕に差し出した。


封筒には見覚えのない女性の字で『リュウ・シュライトン様』と記され、送り主の名前はなかった。中の手紙を確認すると、それはエメからのものだった。


『ルゥ、お元気ですか。ルゥの石を渡すのを忘れていました。歩いている時に確認しやすいよう、首から掛けられるようにしました。気に入ってもらえると嬉しいです。 エメ』


急いで包みを開けると、そこには細い革紐のネックレスが入っていた。あの小石を包むように綺麗に編まれている。


「ラリー、これはいつ?エメが持ってきたの?」


「つい先程。使用人の門に、おそらくエメ様と思われる方が持ってこられたそうです。近くにいた者に預けてすぐに帰られてしまったと言うので、私も確認に行ったのですが、既にお姿は見えず…」


「わかった。ラリー、僕のこの後の予定はキャンセルして」


僕は腰掛けていた窓枠から降りると、エメが作ってくれたネックレスを首に掛け、出掛ける支度を始めた。


「しかし、まもなくサドラー子爵家の方々がお見えになると先触れが」


「じゃあ、エドウィンが代わりに出てくれるよ」


「えっ、俺⁈」


「今さっき、手を貸すって言ったじゃん」


「言ったじゃん、って、できることならとも言っただろう」


僕は部屋の扉に手をかけながら、慌ててソファから立ち上がったエドウィンに「すまない」と思いながら言った。


「お茶を飲むだけだ。できるだろう?」


それだけ言って部屋を出た。エドウィンの声が追いかけてきたが、僕は既に身も心もエメへと向かっていたから、その言葉は耳に入らなかった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「坊ちゃん、こちらクッキーです」


馬を用意していたところに、ラリーが小さな紙袋を差し出した。


「ありがとう、ラリー」


「ミルクもご用意しようと思いましたが、馬で向かわれるなら邪魔かと思いまして」


「そうだね。これで十分だよ、ありがとう」


そう言って紙袋をそっと鞄に入れた。


「では、お気をつけて」


「ああ、行ってくる。あ、エドウィンには謝っておいて」


ラリーは少し笑って、「はい、かしこまりました」と僕を見送ってくれた。


僕は馬に(またが)り、森への道を急いだ。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


屋敷から森へと続く道を走っていると、すぐにエメが歩いているのが見えた。驚かせないようにスピードを落とし、少し離れたところからその名を呼んだ。


「エメーっ!」


エメは立ち止まって、くるっと振り返った。そして僕を見つけると、少し驚いた顔をしてからにっこりと笑ってくれた。

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