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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
(おまけ)後日談*エメとルゥの里帰り
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可愛らしい自己紹介

ダニエルが生まれてから五年の月日が流れ、僕達を取り巻く状況も少しずつ変わっていた。


一番の大きな変化は、アレン様が王位を継承されたことだろう。前国王陛下が民の前に出られるまで回復されると、すぐにアレン様に王位を譲りたいと、その座を退くことを自ら宣言された。


アレン様が国王に即位されるのに合わせて、数年前からご婚約されていた北の隣国の王女を妃として迎えられることも決まり、王城はしばらく大忙しとなった。その翌年には王女が、さらに今年、王子もお生まれになり国中が幸せな雰囲気に包まれていた。


アレン陛下ご夫妻にお子様がお生まれになったことは、僕たち家族にも変化をもたらした。


王位継承は拒否したものの保持はしている継承権、エメとダニエルのその順位は第一位と二位だったため、護衛の規模を考えると私的な遠出は考えることもなかった。


それが、王女、王子ご誕生により、エメ達の継承順位が少し下がったので、今年、初めて家族で里帰りをすることとなった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「ちちうえ、もうすぐつきますか?」


僕の隣に座って馬車の窓の外を見ていた息子ダニエルが、くるっとこちらを振り返って聞いた。エメと同じ青い瞳がキラキラと輝いていた。


僕達は、休暇を過ごすためにフィレイナードに向かっていた。


五歳になったばかりの子供には結構な長旅でぐずるかと思ったが、馬車が気に入ったようで、割と機嫌よくしていた。ただ、頻繁にもうすぐ着くかと聞いてくる。


コルンの隣町に入った時にもうすぐだと言ったが、それから三度、まだかと聞かれていた。ダニエルのもうすぐと、僕のもうすぐの感覚がだいぶ違うらしい。


「いや…、まだまだ着かないかな」


「えっ、ちちうえ!さっきはもうすぐだって、おっちゃったではないですか!」


「おっしゃった、ね」


「おっ、しゃっ、た?」


「そう」


ダニエルは、小さい頃のエメに似て舌足らずだ。


王子としては、そろそろきちんと話せるようにならないといけないらしいが、僕としては可愛らしいので、もうしばらくはこのままでいてほしいと思っていた。


向かいに座るエメは、僕とダニエルのやり取りをにこにこと見ていた。そして、彼女の膝には、ダニエルの三つ年下の妹シャーロットが抱かれていた。こちらはぐずり続けて疲れ果て、眠っていた。



それからしばらく走ると、馬車はあの森に差し掛かった。


「わぁ…、なんだか綺麗になったわね…」


エメから思わず言葉が漏れた。


彼女達が隠れ住んでいた時は、なるべく人が寄りつかないよう、手を入れずに鬱蒼(うっそう)としたままにしていたと父上が言っていた。それが今では、フィレイナード騎士団が訓練などで使うようになり、森は綺麗に管理されるようになったそうだ。


車窓から見えるところだけでも、随分すっきりしていた。森の奥へと向かう道が作られ、その周りの枝や蔓が刈り取られていて、歩きやすそうになっている。薄暗く鬱然(うつぜん)としていたのが、木の葉は陽の光を受けて新緑の優しい色が溢れ、なんだか違う森のようだ。


「寂しい?」


住んでいた頃の面影がなくなって、悲しくなっていないか心配になってエメに聞いた。すると、窓の外を見ていたエメが、驚いた顔で僕を見た。


「えっ、どうして?とても素敵じゃない」


「本当?」


「ええ、森の手入れをしていたディックも王都に移ってしまったから、森が荒れてしまうかもって思ってたのが、こんなに綺麗になってて嬉しいわ」


「それならよかった」


僕がほっとすると、エメもにっこりと微笑んだ。その話を聞いていたダニエルが、僕の袖を引っ張った。


「ん?どうした、ダニエル」


「ちちうえとははうえは、この森にきたことがあるのですか?」


「ああ、あるよ。お前の母上はここに住んでいたんだよ」


「ええっ⁈」


ダニエルがだいぶ大袈裟に驚くから、エメがおかしそうに笑った。


「貴方が生まれた時に、ブラウヴァルトって素敵な名前を付けてもらった森よ」


「ここが、ブラウヴァルト‼︎いきたいです!」


「ふふふ、また今度一緒に行きましょう」


「いまから?」


「今は行けないよ。皆が待っててくれているからね」


「マークおじさま?」


マークとは、王都で会って遊んでもらったことがある。とても楽しかったようだ。


「ああ、いると思うよ」


「おじいさまと、おばあさまも?」


「ええ、ダニエルに会えるのを楽しみにしてくれていますよ」


それを聞いて、ダニエルは満面の笑顔になって、ワクワクしだした。


「じぶんでなまえ、いってもいいですか?」


「ええ、きっと上手に言えると思うわ」


最近、自己紹介の練習をしているらしい。


「では、チャーロットのなまえも?」


「シャーロットな」


どうも「シャ」が「チャ」になる。笑うと拗ねるから、僕もエメも必死で(こら)えた。


「シャー、ロッ、ト、シャーロット、チャ…シャーロット…」


普段は愛称の『ロチィ』と呼んでいる妹の名前を紹介するために、ぶつぶつと練習し始めた。


まあ、愛称も本当は『ロティー』なんだけど…



ついさっきまで、まだかまだかと尋ねていたシュライトン邸に、いよいよもうすぐ着きそうなのに、ダニエルはそんなことは忘れているようだった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


シュライトン邸に到着すると、父上と母上、そしてマークが出迎えてくれていた。


「よく来てくれた。待っていたよ」


「疲れたでしょう。ゆっくりしてください」


父上には、王都で年に数回会っているが、母上は、僕らがここを離れて以来になる。


「母上、ご無沙汰しています。お元気でしたか?」


僕らが挨拶を交わす足元から、大きな声がした。


「ん、んん!」


咳払いのつもりらしい。


「失礼いたしました、王子」


父上が、ダニエルに丁寧に話し掛けた。ダニエルは、自分に注目が集まって、満足そうに背筋を伸ばした。


「おじいさま、おばあさま、マークおじさま、こんにちは。わたくしは、ダニエル・()()()()()()()・ベルクリード、と、もうします!」


誕生の記念に付けた森の名前からもらったミドルネームを強調している。さっき通ったばかりなこともあり、皆に伝えたいのかもしれない。


練習の甲斐あって上手に自己紹介ができたのを、得意顔でエメの方をチラッと見た。そして、ハッと父上達の方に向き直って姿勢を正し、僕の腕の中でぐっすりと眠る妹に手をかざして元気に言った。


「そしてこちらは、妹の、シャーロット、です!」


―――おお、間違わずに上手に言えたな。


父上達も、ダニエルのたどたどしい挨拶に目を細めながら、深くお辞儀をした。

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